あなたに愛や恋は求めません

灰銀猫

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第三部

お見合いの茶会

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 フレディたちと晩餐を共にしてから十日後、エルマ様のお茶会に誘われた私はベルトラム侯爵家を訪れた。季節は秋へと移り変わって暑さも随分と柔らんだわ。夏は姿を見せなかった花々が咲き当主自慢の庭に華やぎが戻っていた。今日は庭でのお茶会。

 今日はバルドリック様のご友人で婿入り先を探している方、グレシウス王国のオイラー公爵令嬢マルティナ様、マルティナ様が学園で知り合った友人で婿を探している伯爵家の令嬢の四人を招いている。私は女性側の紹介者として参加したのだけど……

「お姉様と一緒にお茶会に出られるなんて嬉しいです!」

 当のマルティナ様は小犬のように目を輝かせていたけれど、学友の令嬢まで同じに見えるのだけど……どうなっているのかしら?

「彼女もお姉様のファンなのです」

 そう言って紹介してくれたのは伯爵家のご令嬢だけど、今日はあなたたちのお見合いだと理解しているのかしら?

「お二人とも、今日は婿となる男性を見つけるためのお茶会ですわ。それを忘れないでね」
「もちろんです! 何ならお姉様が選んで下さってもいいですわ。どんな方でもお姉様が選んでくださったのなら、私、きっと愛せますから」

 両手を胸の前で組んで宣言されたけれど、それは何か違うわ。

「ダメよ。一生を共にする方なのよ。ちゃんと自分で選ばないと」
「はい! お姉様がそう仰るのなら」

 大丈夫かしら……一抹の不安が胸をよぎるけれど、これは口出し厳禁ね。この件に関して意見を言うのはやめておいた方がよさそうだわ。特にマルティナ様は我が国の利になる方をと思ったけれど……バルドリック様だってその辺りのことは承知されているでしょうからそれを信じるわ。

 バルドリック様が選んだのは、六辺境伯家の一つでゾルガー領の東にある侯爵家と伯爵家の令息だった。二人とも次男で継ぐ爵位がなく、騎士団に属する優秀な騎士だという。オイラー公爵家は代々続く武門の家だからそこに考慮して下さったのね。離れている方でも四つだから許容範囲だし、バルドリック様の推薦なら人柄なども心配はないわね。

 お互いに自己紹介をした後もマルティナ様は私に話しかけてこようとするので、この場はバルドリック様にお任せして私は少し離れたテーブルに移動した。

「慕われていますわね、イルーゼ様」

 エルマ様が扇で口元を隠して笑いをこらえていた。二人になると学園の頃に気持ちが戻るわ。リーゼ様がいないのが残念ね。

「もう、揶揄わないでくださいな」
「いいではありませんか。若い方の支持は貴重ですわよ」
「ええ。でも、慣れなくて」

 年下の令嬢といえばいとこのマヌエル様くらいだったし、姉のせいで距離を置かれていたから慕われることにまだ慣れないのよね。近付いてくる方は下心があるのかもと警戒してしまうのよね。

「そう言えばお聞きになりまして? シリングス公爵家のこと」
「ええ。アーレントの王甥のことでしょう?」

 エルマ様が話題にあげたのはアーレント王の次弟でフリーデル公爵の兄でもあるエルトル公爵の次男のことだった。半月ほど前、アーレント大使の随行員の一人が急病で帰国したため、その代替えとして来国したのだけど、王甥であることを笠に着た振る舞いが早くも問題視されていた。

 しかもいとこのクラリッサ様とは仲がよかったようで、彼女は我が国での不満を手紙で母国に送っていたらしく、それを鵜呑みにした公爵令息は先日シリングス公爵家に押しかけ、公爵夫妻とハリマン様を責め立てたのだとか。

 ハリマン様との婚姻は彼女への罰だから望むような生活が出来るはずもないのだけど、アーレント国の名誉を守るためにあの件を公にしなかったことが裏目に出てしまったのよね。まぁ、クラリッサ様の自覚のなさも問題なのだけど。

「シリングス公爵家もいい迷惑ね。ハリマン様にも責任はあるけれど」

 彼が選ばれたのはヴォルフ様を陥れる計画に加担していたから。それでも慕っていたクラリッサ様と婚姻したのだからしっかりしてほしかったのに。彼は私と婚約していた頃と変わっていないのね。

「先日はその令息とクラリッサ様が仲睦まじく観劇されていたとか」
「ええ。フレディもその場面を見たそうですわ」

 陛下からの婚姻祝いにと劇場の王族席に招待されたフレディとザーラ。あの冷静なザーラも素晴らしかったと興奮気味で話してくれたけれど、その話の中にあの二人のこともあった。我が国の習慣に馴染めず、また同じ公爵家でもその立ち位置が全く違う上、人を気遣うことを知らないハリマン様。そんな彼との関係は大分冷え込んでいると聞いていたけれど想像以上だったみたい。いとことはいえ夫以外の男性と二人で観劇、それも自ら不貞を働いていると宣言しているような距離だったとか。頭が痛いわ。

「令息は王宮でも驕慢な態度が問題視されているそうですわ。バルが言っていましたもの」
「私もヴォルフ様からも聞いていますわ。でも、アーレント国王夫妻が可愛がっているらしくて、諫めても国王の名を出してくるそうですわ」
「ええ、王宮の文官も困っているそうですね」

 まったく、アーレント国王夫妻にも困ったものだわ。陛下の即位祝いの舞踏会でも横柄な振る舞いをしていたし。年下の国王ご夫妻を下に見ているのがありありと見えて、他国から眉を顰められていたのに。

「侯爵様は何と?」
「アーレントの王太子殿下宛に抗議文を送るそうです。国王夫妻では話が通じないからと」

 アーレント国王夫妻と王太子殿下は意見が合わず、対立とまでは言わずとも距離があるらしい。エクトル公爵は宰相を務めているけれど、考え方は実兄よりも王太子殿下寄りだとか。現在、王太子殿下とエクトル公爵は着々と即位に向けて地盤を固めている最中だと聞く。ヴォルフ様はアーレント国王夫妻を見限って王太子殿下との関係を強化する方針だと仰っていた。まだ公にはされていないけれど。

「アーレントはグレシウスとの関係も芳しくないし、軍事力でも最近は差が開いているのでしょう?」
「ええ。グレシウスはルタ国やサザール国への食料援助で関係を強化しているわ」
「そんな状況なのに我が国でもめ事を起こすなんて、気が知れないわね」

 エルマ様が茶の眉をしかめたけれど同感だわ。今や頼りに出来るのは我が国だけなのに、昔の栄光を忘れられないのか今でもグレシウスは格下だと侮っている。

 でも、グレシウスはこの十年余りで国力を大きく上げているわ。我が国の王太子殿下とグレシウスの王女殿下の婚約話も出ているのだから少しは危機感を持つべきでしょうに。
年を取ると周りが見えなくなるものなのかしら。ああはなりたくないわね。

「あら、どうしたのかしら?」

 エルマ様が声をあげたので向こうのテーブルを見ると、五人は立ち上がっていた。バルドリック様が先になって花が咲いている方に向かって行く。

「庭を案内するようですわね」
「ええ。会話も弾んでいるようですわ」

 四人は言葉を交わしながら花々の方へと向かっていた。庭道楽の当主が丹精込めて作り上げている庭は一度でいいからお目にかかりたいと望む方が絶えないという。招待されることそのものが名誉とも言われている。

「そう言えば後一月余りで豊潤祭ですわね」

 社交シーズンの終わりを締めくくる豊潤祭の舞踏会。昨年は妊娠していたから出席出来なかったけれど、今年は出られそうね。ザーラはゾルガー家の一員として初めての参加になる。ドレスの注文をしなきゃね。

「今年は国王陛下が変わって初めての豊潤祭。盛大に行われるでしょうね」
「ええ、楽しみですわ」

 その頃にはマルティナ様も一旦帰国されるでしょうからお相手の目処をつけておきたいわね。学園の卒業まで半年あるけれど、暫くは会えないし、為人を知って親交を深めるなら早いに越したことはない。

それにガーゲルンのことも気がかりだわ。あれからガーゲルン侯爵家からは何の連絡もない。アロイス様を探している様子もないし、ランドルフ様からの連絡も。デシレア様はさすがに陛下のご不興を買って王族の侍女から外されたけれどあちこちの令息に声をかけていると言うし、あの家はどうなっているのかしら。ヴォルフ様は何も仰らない。泳がせているからなのでしょうけれど、面倒事は今年の内に片付けてしまいたいわ。




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