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リシャール様との出会い

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 私がリシャール様と初めてお会いしたのは、一年くらい前でした。
 あの日私は珍しくも殿下に誘われて、街のカフェに一緒に出掛けました。殿下とは子供の頃は仲が良かったのですが、殿下が学園に入った頃には疎遠以上の状態になりました。週に一度、王妃様の計らいでお茶の時間が設けられていたのですが、学園に入った殿下は何かと用事が出来たといって欠席するようになったのです。
 そんな中でお茶に誘われた私は、少しは殿下も思い直して下さったのかと期待しました。連れていかれたのは王都で話題のカフェで、初めて街のカフェに行った私はそれだけでかなり浮かれていたと思います。

 しかし、注文した品が届くと、殿下はちょっと待っていろと言ってどこかへ行ってしまったのです。お手洗いか何かかと思ったはケーキを食べ終え、お茶も二回お代わりをしましたが…それでも殿下が戻ってくる様子がありません。私はカフェの店員に一緒に来た連れの事を尋ねると、殿下はあのまま馬車でどこかへ行ってしまったと言うではありませんか。しかも代金は既に支払い済みだとも。

「そんな…じゃあ、どうやって帰れば…」

 一人残された私は、茫然となりました。今日は殿下が一緒だからと護衛や侍女を誰も連れてこなかったのも仇となりました。さすがにずっと店内にいるわけにもいかず、それにもしかしたら殿下が戻ってくるかもしれないと思い、私は店を出ました。
 店の外は…既に夕闇に包まれ始めていました。その日は天気が怪しく、空には厚い雲が広がっていて、このまま暗くなっては私は益々帰る手段がなくなってしまいます。仕方なく私は、このカフェから少し離れた場所にあるらしい商会に向かう事にしました。我が家に出入りしているそこなら私の顔を知っていますし、帰りの馬車を呼んでくれるよう家に使いを出す事も出来るだろうと思ったからです。
 でも、悪い事は重なるものです。カフェを出て一区画ほど進んだところで、急に雨が降ってきたのです。

(そんな…最悪だわ…)

 仕方なく私は、直ぐ近くの店先で雨をやり過ごす事にしました。その店は明るくて軒先が広く張り出ていて、雨を凌ぐにはうってつけだったからです。雨は中々勢いを弱めず、軒下にいてもじとりと服が湿っていきます。景色は夕刻からすっかり夜の姿へと移り変わるのを、私は絶望的な思いで眺めるしか出来ませんでした。

「お嬢さん、どうなさいましたか?」

 これはもう、濡れるのを覚悟でいくしかないのかも…そう思った私に声をかけてきたのは、雨宿りをしていた店の関係者らしい男性でした。蜂蜜色の髪は襟もとで軽く結われ、琥珀色の目は切れ長で涼し気に見えるのに温かみを感じます。柔和で穏やかな顔立ちをしていて、年は私よりも四、五歳くらい上でしょうか。来ている服も洗練されていて、身のこなしも優美で高位貴族のように見えます。

「あ、あの…」
「先ほどからずっとここにいらっしゃいましたよね。ここは寒い。風邪をひいてしまいますよ。中へどうぞ」
「で、でも…」
「ああ、ご心配なく、ここは女性向けのアクセサリーの店なのです。私はここのオーナーですのでご安心を」

 これが私とリシャール様の出会いでした。あの後リシャール様は私を店の一角にあるソファに案内し、温かいお茶を淹れてくれました。私はさすがに殿下に置いていかれたとも言えず、友人たちとはぐれてしまったと話すと、リシャール様は我が家まで使いを出してくれて、わたしはそれで無事に家に帰ることが出来たのです。
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