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王配打診の真実

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 確かにお兄様は女性が苦手というよりも恐れていると言ってもいいくらいには嫌いで、それは幼少期の経験が原因でした。幼い頃から妻の座を狙った令嬢たちに付き纏われ、誘拐されそうになったこともあったと聞いています。しかも留学先では媚薬を盛られて既成事実を作られそうになったので、一層拍車がかかったのは想像に難くはないのですが…

「………お前は…それでいいのか?」
「はい」

 さすがのお父様も直ぐには言葉が出なかったようです。それでも暫く間をおいてからの問いかけに、お兄様はきっぱりと答えました。

「私にとっては、エストレ国のアドリエンヌ王女から逃れられるのであれば、お受けしたいと思っています」
「だが…そうなればお前は一生好きな相手と結婚出来ない。隠れ蓑という事は、お前と王太子殿下は白い結婚になるのだろう?」
「そうなりますね。ですが私は…正直女性を好きになると思えません。いえ、女性というだけで嫌悪感が先に立って、触れる事もままならないのです」
「だが、それならエスコートなどはどうする?それなりに仲良く見せるのであれば…」
「その点は大丈夫です。王太子殿下は異性というよりも同性の友人に近い感じなのです。あの方であれば触れても嫌悪感は湧きません。エスコートなども問題はないかと」
「…そう、か…」

 お父様は納得しがたいようでしたが、これはきっとお兄様の本音なのでしょう。いくら我が家でも他国の王家からの求婚を断るのは簡単ではありません。それでもリスナール国が我が国やエストレ国よりも国力が上なので、王配を理由に断る事は可能です。

「王太子殿下はレアンドル様を同性の友人のように思っていらっしゃいます。王配としての見識も資質も十分におありですし、一方で野心はお持ちではないため信用されていらっしゃいます」
「だが、公には面識がない事になっているのでは?それでいきなり王配は…」
「その点はどうにでもなります。高位貴族の子息が内々の使者として他国を訪問するのは珍しくありません、今の私のように」

 確かにモラン様の仰る通りです。爵位を継ぐ前の後継者が、勉強と称して他国に非公式の使者として訪問する事は珍しくありません。そんなモラン様も侯爵家の次男で、王太子殿下の側近の一人です。

「………そうか…わかった」

 しばらくの沈黙の後、お父様がそう告げました。お父様としても現時点ではこれ以上の策が見つからなかったのでしょう。既に我が国にはエストレ国から婚姻の打診が来ていて、お兄様が戻ったと知られたら直ぐにでもアドリエンヌ様が押しかけてきそうな勢いなのです。国王陛下としては自分達には火の粉がかからずにエストレ国に恩を売れるので、このチャンスを見逃さないでしょう。それに対抗するにはそれ以上の好条件が必要ですが、こうなるとこの案以上のものを見つけるのは簡単でありませんわね。

「だが、国内ならともかく、交流も薄いリスナール国で王配になるのは並大抵の事ではない。我が家の力も彼の国では使えないだろう。それでもいいのだな?」
「はい」
「それで、王太子殿下のお相手は?」
「それは…」
「相手がわからなければ我が家としても動きようがない。他言はしないから出来るだけ情報が欲しい」
「そう…ですね」

 お父様の言葉も一理あります。王太子殿下の思う方がわからなければ、こちらとしても迂闊には動けません。場合によっては足を引っ張る可能性もあるので、ここは出来るだけ詳しい情報が欲しいと思うのは仕方ないでしょう。もちろん、お父様も影を送るでしょうが、そのためにも情報が必要なのです。


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