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エストレ国王夫妻の真実
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「ク、クーデターだなんて…」
「そうよ!そんな事、許されないわ!」
イネス様の宣告に、お二人は他国の王の御前である事も忘れていきり立ちました。まぁ、これまでやりたい放題やってきたお二人ですので、当然と言えば当然の反応ではありますわね。一方で周りからしたら成るべくして成ったとしか言えませんが。
「許されない?王族だからと何をしても許されるわけがないでしょう?」
「そ、そんな事…」
「王族が贅沢を許されるのは、国民を守るために多大な努力と我慢を強いられるからです。自身の安寧と快楽ばかりを求め、他者の迷惑を顧みず、王族としての義務を果たさなかったのだから当然ではありませんか」
イネス様の言葉は残酷なまでに冷たく響きました。イネス様の言葉からも、彼らへの愛情も尽きた…そんな風にも見えます。
「私はずっとあなた達に言い聞かせてきました。王族であるなら権利を主張する前に義務を果たすようにと。それがあなた方を救う唯一の方法だと」
「で、でも…私達は王族で…」
「王族だからこそ、誰よりも自己に厳しくあるべきだと、面倒に思えても、そうする事こそが自身を生き永らえさせるのだと、私はずっとそう言い続けてきましたよね」
「…そ、それ、は…」
静かに語りかけるイネス様の言葉に、彼らも覚えがあったのでしょう。アンリ王子の表情がそれを物語っていました。
「な、何よっ!あ、あんただって一緒じゃない!王妃はあんたなんだから!」
「アディ…!」
「え、偉そうな事言ったって、あんただって王妃なんだから同罪よ」
「ええ、存じていますわ」
「ははっ、だったらあんたも終わりね。お可哀相な王妃様!私達の本当のお母様のために面倒事だけ押し付けられて!」
「ええ、そうね」
身に覚えがあり、こうなった事の責任を僅かでも感じていそうなアンリ王子に対して、アドリエンヌ様がイネス様に罵声を浴びさせました。やはりこんな時でも通常運転ですのね…
「お可哀相なお飾り王妃様!お父様にも愛されず、惨めなものよね!」
「そうね」
「ははっ、認めるんだ。でもしょうがないわよね。あんたが愛されないのは誰もが知っている事だったのだもの」
アドリエンヌ様は今や牙をむきだした野犬のような雰囲気です。見た目は愛らしい分、その落差が際立ちますわね。
「当然でしょう?だって、陛下にあなた達の母親と子を作るように勧めたのは私ですもの」
「はぁあ?な、何言ってんのよ…」
「言葉通りよ。私、あなた達のお父様の事は大っ嫌いでしたの。それこそ近くによるのもおぞましいほどにね」
「な…」
「だってそうでしょ?婚約者がいながら、学生の身で女性をとっかえひっかえしていたのですもの。しかも市井の娼婦にまで手を出して」
「なっ!」
「そんな身持ちの悪い男、どんな病気を持っているかわかったもんじゃないわ。だから陛下に話したのよ。子作りはあなた方の母親とどうぞ、と。私は王妃の仕事に専念しますから、とね」
イネス様は本当に気持ち悪いという表情を隠しもせず、そう仰いました。でも気持ちはわかりますわ。そんな誰とでも身体を繋げる人なんて、気持ち悪いだけですもの。
「陛下があなた方のお母様を相手に、真実の愛だなんて言い出した時には笑ってしまいましたわ。だって、あの二人を焚きつけたのは私ですもの」
「な…」
イネス様の告白にアンリ王子は蒼白になり、アドリエンヌ様は信じられない者を見る様な目でイネス様を見ていました。馬鹿にしていた相手に、実はいい様に転がされていた、と気が付いてショックを受けているようです。
「もう一つ教えて差し上げますわ。私は陛下を好ましいと思った事など一度もありません。私がお慕いしていたのは…高潔で聡明で誰よりも自身に厳しいお方です。貴方のお父様とは正反対ですわ」
そう言ってイネス様は、それはそれは美しい笑顔を浮かべられたのでした。
「そうよ!そんな事、許されないわ!」
イネス様の宣告に、お二人は他国の王の御前である事も忘れていきり立ちました。まぁ、これまでやりたい放題やってきたお二人ですので、当然と言えば当然の反応ではありますわね。一方で周りからしたら成るべくして成ったとしか言えませんが。
「許されない?王族だからと何をしても許されるわけがないでしょう?」
「そ、そんな事…」
「王族が贅沢を許されるのは、国民を守るために多大な努力と我慢を強いられるからです。自身の安寧と快楽ばかりを求め、他者の迷惑を顧みず、王族としての義務を果たさなかったのだから当然ではありませんか」
イネス様の言葉は残酷なまでに冷たく響きました。イネス様の言葉からも、彼らへの愛情も尽きた…そんな風にも見えます。
「私はずっとあなた達に言い聞かせてきました。王族であるなら権利を主張する前に義務を果たすようにと。それがあなた方を救う唯一の方法だと」
「で、でも…私達は王族で…」
「王族だからこそ、誰よりも自己に厳しくあるべきだと、面倒に思えても、そうする事こそが自身を生き永らえさせるのだと、私はずっとそう言い続けてきましたよね」
「…そ、それ、は…」
静かに語りかけるイネス様の言葉に、彼らも覚えがあったのでしょう。アンリ王子の表情がそれを物語っていました。
「な、何よっ!あ、あんただって一緒じゃない!王妃はあんたなんだから!」
「アディ…!」
「え、偉そうな事言ったって、あんただって王妃なんだから同罪よ」
「ええ、存じていますわ」
「ははっ、だったらあんたも終わりね。お可哀相な王妃様!私達の本当のお母様のために面倒事だけ押し付けられて!」
「ええ、そうね」
身に覚えがあり、こうなった事の責任を僅かでも感じていそうなアンリ王子に対して、アドリエンヌ様がイネス様に罵声を浴びさせました。やはりこんな時でも通常運転ですのね…
「お可哀相なお飾り王妃様!お父様にも愛されず、惨めなものよね!」
「そうね」
「ははっ、認めるんだ。でもしょうがないわよね。あんたが愛されないのは誰もが知っている事だったのだもの」
アドリエンヌ様は今や牙をむきだした野犬のような雰囲気です。見た目は愛らしい分、その落差が際立ちますわね。
「当然でしょう?だって、陛下にあなた達の母親と子を作るように勧めたのは私ですもの」
「はぁあ?な、何言ってんのよ…」
「言葉通りよ。私、あなた達のお父様の事は大っ嫌いでしたの。それこそ近くによるのもおぞましいほどにね」
「な…」
「だってそうでしょ?婚約者がいながら、学生の身で女性をとっかえひっかえしていたのですもの。しかも市井の娼婦にまで手を出して」
「なっ!」
「そんな身持ちの悪い男、どんな病気を持っているかわかったもんじゃないわ。だから陛下に話したのよ。子作りはあなた方の母親とどうぞ、と。私は王妃の仕事に専念しますから、とね」
イネス様は本当に気持ち悪いという表情を隠しもせず、そう仰いました。でも気持ちはわかりますわ。そんな誰とでも身体を繋げる人なんて、気持ち悪いだけですもの。
「陛下があなた方のお母様を相手に、真実の愛だなんて言い出した時には笑ってしまいましたわ。だって、あの二人を焚きつけたのは私ですもの」
「な…」
イネス様の告白にアンリ王子は蒼白になり、アドリエンヌ様は信じられない者を見る様な目でイネス様を見ていました。馬鹿にしていた相手に、実はいい様に転がされていた、と気が付いてショックを受けているようです。
「もう一つ教えて差し上げますわ。私は陛下を好ましいと思った事など一度もありません。私がお慕いしていたのは…高潔で聡明で誰よりも自身に厳しいお方です。貴方のお父様とは正反対ですわ」
そう言ってイネス様は、それはそれは美しい笑顔を浮かべられたのでした。
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