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お兄様の出立
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王妃様達の処遇が決まってから約一月後。今度はセレスティーヌ様が帰国される日になりました。既に季節は春に移り、温かい日差しが届くようになりました。リスナール国との間にある山々もそろそろ雪解けの季節となり、往来も問題ないでしょう。
「皆様にはとてもお世話になりましたわ」
「勿体ない事です。道中もお気をつけ下さい」
「ありがとう、ラフォン侯爵。侯爵夫人も、どうかお元気で」
「ありがとうございます。皆様の安全をお祈りしていますわ」
別れを惜しんで下さったセレスティーヌ様ですが、ここでの気楽で愛する方と思うまま過ごせた日々を惜しむ気持ちもあるのでしょう。国に戻ってしまえば愛するリオネル様の膝の上でいちゃつく…なんて事も難しくなります。それはお兄様も同じで、ソフィアとしてテオドール様と仲睦まじく…とはいきません。それでも、皆様はこれが最善だと偽装結婚を推し進める覚悟はお変わりないそうです。
「レティ、父上と母上を頼む」
「ええ、お任せください、お兄様」
お兄様もセレスティーヌ様と共に出立されます。お兄様がラフォン侯爵家を継ぐ日をみんなでお待ちしていましたが、お兄様の未来はこの国にはありませんでした。寂しさは募りますが、お兄様が愛する方と大切に思うご友人のために選ばれた道です。今日は笑ってお見送りしたいですわ。
「レティシア様、私達の結婚式には是非出席して下さいね」
「勿論ですわ。リスナール国に伺う日を楽しみにしています」
そう、来春にはセレスティーヌ様とお兄様の婚姻が予定されています。その時には私達もリスナール国を訪問する予定です。その頃には私とリシャール様は実質的な夫婦になっているでしょう。
「レティ、リシャールを困らせるんじゃないぞ」
「まぁ!困らせたりなんかしませんわ」
「どうだかなぁ。レティは直ぐに暴走するから」
「ぼ、暴走なんてしませんわ!」
「はいはい。リシャール、レティを頼む。しっかり手綱を握ってやってくれ」
「勿論です。私の力の限りお守り致します」
「よかったな、レティ。リシャールなら安心して任せられるよ」
「お兄様っ!」
もう、こんな時に何を仰っているのですか、お兄様。それでもお兄様が私を案じて下さる気持ちが嬉しく、こうやって言い合う事はこの先ないのだと思うと寂しくなりますわね。
「レオ、皆様と仲良くね。困った事があったらいつでも連絡をちょうだい」
「母上…ありがとうございます」
お母様はさっきからもう涙が止まりません。気が合い姉妹の様に仲が良かったお二人ですし、いずれは跡取りとして…と期待していただけに、お母様としても離れ難いのでしょう。
「セレスティーヌ様、どうかレオをよろしくお願いいたします」
「お任せください、侯爵夫人。侯爵家の皆様の英断に感謝します」
その言葉があまり頼りにならない事は私達も重々承知です。我が国では王家を凌ぐ力を持つ我が家でも、リスナール国までは手が届きません。単身彼の国で王配になるのは、とても大変な事でしょう。しかもセレスティーヌ様とは偽装結婚なのです。万が一バレた場合は大変な醜聞にもなり兼ねず、正に命がけなのです。
「私の持てる力でレアンドル様をお守りしますわ」
「私も微力ながらお力添え致します」
セレスティーヌ様だけでなく、リオネル様もはっきりとそう仰って下さいました。そしてお兄様にはテオドール様もいらっしゃいます。きっと彼はお兄様をお守りして下さるでしょう。
無情にも出立の時間になりました。ここから先、お兄様達は我が国の特使として同行する王太子殿下ご夫妻と共にリスナール国を目指します。
「行ってしまったわ…」
「ああ」
涙を拭きながらそう呟くお母様の肩を抱きながら、お父様も短く答えられました。私もリシャール様と手を繋いでお兄様の一行を見送りました。私にとってもリシャール様にとっても、兄の旅立ちなのです。お兄様とテオドール様の未来が明るいものであるようにと願わずにはいられません。私達はお兄様達の一団が見えなくなるまで見守り続けました。
「皆様にはとてもお世話になりましたわ」
「勿体ない事です。道中もお気をつけ下さい」
「ありがとう、ラフォン侯爵。侯爵夫人も、どうかお元気で」
「ありがとうございます。皆様の安全をお祈りしていますわ」
別れを惜しんで下さったセレスティーヌ様ですが、ここでの気楽で愛する方と思うまま過ごせた日々を惜しむ気持ちもあるのでしょう。国に戻ってしまえば愛するリオネル様の膝の上でいちゃつく…なんて事も難しくなります。それはお兄様も同じで、ソフィアとしてテオドール様と仲睦まじく…とはいきません。それでも、皆様はこれが最善だと偽装結婚を推し進める覚悟はお変わりないそうです。
「レティ、父上と母上を頼む」
「ええ、お任せください、お兄様」
お兄様もセレスティーヌ様と共に出立されます。お兄様がラフォン侯爵家を継ぐ日をみんなでお待ちしていましたが、お兄様の未来はこの国にはありませんでした。寂しさは募りますが、お兄様が愛する方と大切に思うご友人のために選ばれた道です。今日は笑ってお見送りしたいですわ。
「レティシア様、私達の結婚式には是非出席して下さいね」
「勿論ですわ。リスナール国に伺う日を楽しみにしています」
そう、来春にはセレスティーヌ様とお兄様の婚姻が予定されています。その時には私達もリスナール国を訪問する予定です。その頃には私とリシャール様は実質的な夫婦になっているでしょう。
「レティ、リシャールを困らせるんじゃないぞ」
「まぁ!困らせたりなんかしませんわ」
「どうだかなぁ。レティは直ぐに暴走するから」
「ぼ、暴走なんてしませんわ!」
「はいはい。リシャール、レティを頼む。しっかり手綱を握ってやってくれ」
「勿論です。私の力の限りお守り致します」
「よかったな、レティ。リシャールなら安心して任せられるよ」
「お兄様っ!」
もう、こんな時に何を仰っているのですか、お兄様。それでもお兄様が私を案じて下さる気持ちが嬉しく、こうやって言い合う事はこの先ないのだと思うと寂しくなりますわね。
「レオ、皆様と仲良くね。困った事があったらいつでも連絡をちょうだい」
「母上…ありがとうございます」
お母様はさっきからもう涙が止まりません。気が合い姉妹の様に仲が良かったお二人ですし、いずれは跡取りとして…と期待していただけに、お母様としても離れ難いのでしょう。
「セレスティーヌ様、どうかレオをよろしくお願いいたします」
「お任せください、侯爵夫人。侯爵家の皆様の英断に感謝します」
その言葉があまり頼りにならない事は私達も重々承知です。我が国では王家を凌ぐ力を持つ我が家でも、リスナール国までは手が届きません。単身彼の国で王配になるのは、とても大変な事でしょう。しかもセレスティーヌ様とは偽装結婚なのです。万が一バレた場合は大変な醜聞にもなり兼ねず、正に命がけなのです。
「私の持てる力でレアンドル様をお守りしますわ」
「私も微力ながらお力添え致します」
セレスティーヌ様だけでなく、リオネル様もはっきりとそう仰って下さいました。そしてお兄様にはテオドール様もいらっしゃいます。きっと彼はお兄様をお守りして下さるでしょう。
無情にも出立の時間になりました。ここから先、お兄様達は我が国の特使として同行する王太子殿下ご夫妻と共にリスナール国を目指します。
「行ってしまったわ…」
「ああ」
涙を拭きながらそう呟くお母様の肩を抱きながら、お父様も短く答えられました。私もリシャール様と手を繋いでお兄様の一行を見送りました。私にとってもリシャール様にとっても、兄の旅立ちなのです。お兄様とテオドール様の未来が明るいものであるようにと願わずにはいられません。私達はお兄様達の一団が見えなくなるまで見守り続けました。
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