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番外編~狂犬姫の末路
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ようやく我が家とも言える王宮に到着した私とお兄様は、そのまま休憩どころか着替えをする間も与えられず、謁見室に無理やり連れていかれた。
十日余りの移動の間、常に騎士の監視が付き、宿に泊まった時も野営した時も侍女と女性騎士が同室に控え、一瞬たりとも人の目が離れる事はなく。こんな扱いは不当だと訴える度に眠り薬を飲まされた私は、国に到着する頃には疲労困憊で常に頭痛と倦怠感、そして眩暈に悩まされていた。
(こうなったらお父様に言いつけて、あの女を叱って頂くんだから!)
そう心に決めた私だったけど、謁見室で待っていたのはお父様ではなくヴィクトル叔父様だった。しかも叔父様が玉座にお座りになっている。あの席はお父様の、そしてゆくゆくはお兄様の物なのに…
「叔父様っ!お父様に会わせて下さい!どうして私達をこんな目に遭わせるのですか?!」
「落ち着け、アディ」
叔父様の前に罪人の様に連れ出された私は、叔父様にそう訴えた。お兄様が止めようとしたけれど、叔父様は冷たい目で私を見下ろすばかりだった。
「お前達の父親は、王位をはく奪の上幽閉してある」
「な…!」
「案ずるな。お前達もそうなるのだからな」
「な、何故よ?!私は、私達は王族なのよ!」
そう訴えたけれど叔父様は冷たい態度を崩さず、淡々と私達のやった事を並べ、それが罪だと言った。
レアンドル様に結婚を迫った事、エルネスト様をリスナール国の王女の夫にしようとした事だけじゃなかった。気に入らない侍女や護衛をクビにした事、商会で売っているアクセサリーを買ってあげた事、私よりも美しいとちやほやされていた令嬢の顔に熱いお茶をかけて身の程をわからせてあげた事もあったけれど…そんなの、王族だから当たり前じゃない。だって私は王女なのよ。そう言ったのだけど…
「王女だから何をしてもいいなどという訳がない。いや、逆に王女だからこそ誰よりも自分を律し人の手本となるべきなのだ」
叔父様はそう言って私から王女と言う身分を奪い、王城の地下にある小部屋に押し込めた。粗末な部屋に木のベッドとテーブルとイス、小さな続き間にはトイレと申し訳程度の小さな浴槽、天井近くにある小さな窓には鉄格子が嵌められていて、出入り出来るのは分厚い鉄で出来た頑丈なドアのみ。
食事や着替えはドアの横にある小窓から差し入れられるだけ。食事はパンと野菜のスープ、そして時々果物か肉が付くけれど、王宮にいた頃とは雲泥の差だ。こんなの人が食べる物じゃないといったら、平民よりはずっとマシだと言われた。
お父様とお兄様は私の同じようにどこかに幽閉されていると聞いた。他の兄姉もその行動に見合う措置を取ったとも。彼らとは手紙のやり取りすらも許されなかった。
そんな生活がどれくらい経っただろうか…暑い季節が過ぎ、寒さを感じるようになった頃、お父様が亡くなったと聞かされた。国王だった頃から患っていた病気が悪化したと聞いた。お父様も私と同じように幽閉されていると聞いていたから、きっと叔父様がお医者様に見せてくれなかったのだ。そうでなければ…まだお若いお父様が亡くなる筈がないもの。私は葬儀に参列する事も許されなかった。
寒さが本格的になって来た頃、私に来客があった。私の義理の母のイネスだった。私達がこんなに落ちぶれているのに、あの女は以前よりも粗末とは言えドレスを身に付け、首元にはネックレスもしていて、この女が幽閉されていないことを物語っていた。
「今の心境はいかがですか?」
神妙な面持ちでそう尋ねてきたけれど…そんなの、言わなくてもわかるだろうに…
「最悪よ、この売女!私達を売って自分だけ助かって!」
「…そう」
「あんたなんか、地獄に堕ちればいいのよ!」
その後も思いつく限りの文句を言ってやった。あの女は最後まで反論せずに聞いていたけれど…最期にあなたの考えはわかりましたと、そう言って帰っていった。誰とも話す事も出来なかった私は、久しぶりに鬱憤を思い切りぶつけてすっきりした気分でその夜ベッドに入った。
翌朝、珍しく朝食に果実水が付いた。食事が不味いと文句を言ったから、少しはわかったのだろうかとそれをゆっくりと味わった。瑞々しくさっぱりした甘さの中にある酸味がとても美味しく感じられた。
(…何だか、眠い…わ…)
何だろう、急に眠くなってきて、私はベッドに横になった。
(この感覚…国に戻る時に何度か…)
そう思った私だったけれど、迫りくる眠気に勝てそうもない。私はそのまま静かに目を閉じた。
十日余りの移動の間、常に騎士の監視が付き、宿に泊まった時も野営した時も侍女と女性騎士が同室に控え、一瞬たりとも人の目が離れる事はなく。こんな扱いは不当だと訴える度に眠り薬を飲まされた私は、国に到着する頃には疲労困憊で常に頭痛と倦怠感、そして眩暈に悩まされていた。
(こうなったらお父様に言いつけて、あの女を叱って頂くんだから!)
そう心に決めた私だったけど、謁見室で待っていたのはお父様ではなくヴィクトル叔父様だった。しかも叔父様が玉座にお座りになっている。あの席はお父様の、そしてゆくゆくはお兄様の物なのに…
「叔父様っ!お父様に会わせて下さい!どうして私達をこんな目に遭わせるのですか?!」
「落ち着け、アディ」
叔父様の前に罪人の様に連れ出された私は、叔父様にそう訴えた。お兄様が止めようとしたけれど、叔父様は冷たい目で私を見下ろすばかりだった。
「お前達の父親は、王位をはく奪の上幽閉してある」
「な…!」
「案ずるな。お前達もそうなるのだからな」
「な、何故よ?!私は、私達は王族なのよ!」
そう訴えたけれど叔父様は冷たい態度を崩さず、淡々と私達のやった事を並べ、それが罪だと言った。
レアンドル様に結婚を迫った事、エルネスト様をリスナール国の王女の夫にしようとした事だけじゃなかった。気に入らない侍女や護衛をクビにした事、商会で売っているアクセサリーを買ってあげた事、私よりも美しいとちやほやされていた令嬢の顔に熱いお茶をかけて身の程をわからせてあげた事もあったけれど…そんなの、王族だから当たり前じゃない。だって私は王女なのよ。そう言ったのだけど…
「王女だから何をしてもいいなどという訳がない。いや、逆に王女だからこそ誰よりも自分を律し人の手本となるべきなのだ」
叔父様はそう言って私から王女と言う身分を奪い、王城の地下にある小部屋に押し込めた。粗末な部屋に木のベッドとテーブルとイス、小さな続き間にはトイレと申し訳程度の小さな浴槽、天井近くにある小さな窓には鉄格子が嵌められていて、出入り出来るのは分厚い鉄で出来た頑丈なドアのみ。
食事や着替えはドアの横にある小窓から差し入れられるだけ。食事はパンと野菜のスープ、そして時々果物か肉が付くけれど、王宮にいた頃とは雲泥の差だ。こんなの人が食べる物じゃないといったら、平民よりはずっとマシだと言われた。
お父様とお兄様は私の同じようにどこかに幽閉されていると聞いた。他の兄姉もその行動に見合う措置を取ったとも。彼らとは手紙のやり取りすらも許されなかった。
そんな生活がどれくらい経っただろうか…暑い季節が過ぎ、寒さを感じるようになった頃、お父様が亡くなったと聞かされた。国王だった頃から患っていた病気が悪化したと聞いた。お父様も私と同じように幽閉されていると聞いていたから、きっと叔父様がお医者様に見せてくれなかったのだ。そうでなければ…まだお若いお父様が亡くなる筈がないもの。私は葬儀に参列する事も許されなかった。
寒さが本格的になって来た頃、私に来客があった。私の義理の母のイネスだった。私達がこんなに落ちぶれているのに、あの女は以前よりも粗末とは言えドレスを身に付け、首元にはネックレスもしていて、この女が幽閉されていないことを物語っていた。
「今の心境はいかがですか?」
神妙な面持ちでそう尋ねてきたけれど…そんなの、言わなくてもわかるだろうに…
「最悪よ、この売女!私達を売って自分だけ助かって!」
「…そう」
「あんたなんか、地獄に堕ちればいいのよ!」
その後も思いつく限りの文句を言ってやった。あの女は最後まで反論せずに聞いていたけれど…最期にあなたの考えはわかりましたと、そう言って帰っていった。誰とも話す事も出来なかった私は、久しぶりに鬱憤を思い切りぶつけてすっきりした気分でその夜ベッドに入った。
翌朝、珍しく朝食に果実水が付いた。食事が不味いと文句を言ったから、少しはわかったのだろうかとそれをゆっくりと味わった。瑞々しくさっぱりした甘さの中にある酸味がとても美味しく感じられた。
(…何だか、眠い…わ…)
何だろう、急に眠くなってきて、私はベッドに横になった。
(この感覚…国に戻る時に何度か…)
そう思った私だったけれど、迫りくる眠気に勝てそうもない。私はそのまま静かに目を閉じた。
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