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王族の処遇
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「敬愛する皇帝陛下の代理人として、皇帝陛下からの沙汰を申し渡す」
戻れないかもしれないとの不安に気を取られていたけれど、皇弟殿下の声に我に返った。特に声を大きくしているわけではないのにその声には直接心臓に突き刺さるような鋭さがある。それに、将来を憂えても意味がないかもしれない。一族郎党まとめて処刑される可能性だってあるのだから。
「アシェル国王並びに王妃は廃位とする。当面は我が皇帝陛下の代理人としてこの地を治める。一年をめどに我が国の皇子を正式な国王に任命する予定だ」
厳かで有無を言わせないそれは、まるで神託のように聞こえた。父と王妃が廃位になるのは予想出来たけれど、皇弟殿下ではなく帝国の皇子が王になるとは思わなかった。のだけど……
「……な!」
「……は、廃、位……?」
驚く声に驚いた。見れば父王と王妃が絶望の色に染まった顔色で、口を開けたまま皇弟殿下を見上げていた。想定していなかったと言いたげだったけれど、どうしてそう思えるのか不思議だ。戦争を仕掛けたのはこちら側で、その結果負けたのだ。それも無条件降伏で。対等ではないのだから廃位は当然だと思っていたのだけど……
「それはあまりにも……! あまりにも非道ではありませんか!! 我が国は言われた通り城を明け渡したのに……!」
またしても声を上げたのは王妃だった。父王はまだショックから戻って来られないのか、呆然としている。
「自分たちが戦争を始めたのを忘れたか? 自身がやったことの責任を取らぬというのか? その方がよほど非道ではないか? 戦争でどれだけの命を失われたと思っているのだ?」
静かな皇弟殿下の指摘は、父らの無責任さに鋭い槍を深く突き刺したように感じた。
「かつて敗戦国の王族は女子供例外なく処刑された。それを我が帝国は取りやめ、罪状によって罰を与えるように変えた。命が助かるだけでも相当な温情だと思うが?」
「そ、それは……」
「それに勘違いして貰っては困る。廃位は罰ではない」
「何ですと?」
今度は宰相が声を上げた。廃位が罰ではないということは本当の罰は別にあるということだ。
「そなたらの罰は、これから罪を調べてから決めることになる」
「これから……罪を?」
「罪ですと!? 国王に何の罪があると……!」
王妃に続いて今度は騎士団長が声を上げた。
「王でありながら民のことを顧みず容易に戦争を始めたこと、戦争が始まっても民を守ろうとしなかったこと。それ以外はこれからの調査によるが、無責任な者に国の舵取りは不可能であろう」
「そ、そんなことで……」
思いもしなかったと言わんばかりの騎士団長の言葉に、皇弟殿下の目がすっと細められた。
「そんなこと?」
「そんなことでしょう? 民などいくらでも替えが利くではありませんか。国王は幾世代にも渡って民を率いてきた尊い血筋。比べるべくもありませぬ!」
騎士団長は迷いもせずそう言ったけれど、彼が言葉を発する毎に玉座の周りの空気が冷え冷えとしていくように感じた。皇弟殿下の発言が聞きとれなかったのだろうか。あの方は騎士団長とは真逆のことを言っていたのに。
「尊い、な……」
皇弟殿下からぽつりと漏れた呟きは小さかったけれど、恐ろしいほどの皮肉が込められているようで悲鳴が出そうになった。それ以上怒らせてはいけない。止めなければと思うのに恐怖で声が出ない……
「王あっての国であり民。民は全て王の所有物でしかない! なのに王に罰を与えるなど世の摂理に反する。帝国はそんなこともわからないとは!! さすがは蛮族の血を引……」
騎士団長は気が付かないのか、尚も発言を続けた。次の瞬間だった。
「っ……!」
赤い髪の青年が動いたと思ったら、次の瞬間には剣先が騎士団長の首に当てられていた。騎士団長が口を開けたまま、目が飛び出そうなほどに見開いている。
「大事なことだから教えてやろう。帝国が最も大切にするのは民だ。民こそが国であり財産だと考える。今後発言する際はその事を忘れるな!」
皇弟殿下の言葉は冷え切った空気の中で冴え冴えと響き、有無を言わせない迫力があった。赤い髪の青年は無言で騎士団長を睨みつけているが、火色の瞳は氷のように冷え切っていた。
青年が剣をしまうと騎士団長は腰を抜かしたのか、その場に尻もちをついて床を鈍く鳴らした。父王や宰相らはコクコクと振り子人形のように首を縦に振り、王妃と異母姉は顔を青褪めさせ、抱き合う様にその場に座り込んでしまった。弟も驚きに目を大きく開き、初めて生の感情を見た気がした。
「自分たちが敗戦国だということを忘れるな。国王と王妃、宰相ら政治の中枢に関わっていた者は帝国が厳選なる調査の上、罪状を明らかにしてから処分を決定する。それまでは幽閉し、一切の外出を禁じる。幽閉先が決まるまで自室で待機しろ。外出も面会も許さん」
今度は誰も異を唱えなかった。自分たちが既に何かを決定する権限を失っているのだとようやく気付いたらしい。降伏することの意味を、それ以前に戦争を始める意味とその結末を想定していなかったのだからお話にもならない。外に出られなかった私ですらそれくらいは想像出来たのに、彼らは何を見ていたのだろう。
「次に王太子だ。その方はまだ成人に満たず矯正の余地がある。よって帝国にて再教育後、その処遇を決める」
「て、帝国で、再教育……」
王妃が茫然と皇弟殿下の言葉を繰り返したが、弟はそう言われても顔色一つ変えずに黙って皇弟殿下を見上げていた。
(再教育って……)
それは帝国の思想に合うよう教育し直すということだろうか。確かに父王や騎士団長の考えを受け継いでいたら禍根を残すだけ。国にも置いておけないだろう。帝国にとっては最もリスクがあるのは後継者を生かしておくことだろうけど、やり直す機会を貰えただけでも十分な温情に思えた。
「最後に王女だが……」
皇弟殿下はそう言うと、私と異母姉を交互に見た。何と言われるのかと鳥肌が立った。
「こちらも再教育の後、どちらかを皇子の妃、つまりこの国の王妃とする。相手は私の隣にいる、皇帝陛下の第三皇子アルヴィド殿下だ」
あの赤い髪の青年は第三皇子殿下だったのか……近くで異母姉が息を呑む音が聞こえた。
戻れないかもしれないとの不安に気を取られていたけれど、皇弟殿下の声に我に返った。特に声を大きくしているわけではないのにその声には直接心臓に突き刺さるような鋭さがある。それに、将来を憂えても意味がないかもしれない。一族郎党まとめて処刑される可能性だってあるのだから。
「アシェル国王並びに王妃は廃位とする。当面は我が皇帝陛下の代理人としてこの地を治める。一年をめどに我が国の皇子を正式な国王に任命する予定だ」
厳かで有無を言わせないそれは、まるで神託のように聞こえた。父と王妃が廃位になるのは予想出来たけれど、皇弟殿下ではなく帝国の皇子が王になるとは思わなかった。のだけど……
「……な!」
「……は、廃、位……?」
驚く声に驚いた。見れば父王と王妃が絶望の色に染まった顔色で、口を開けたまま皇弟殿下を見上げていた。想定していなかったと言いたげだったけれど、どうしてそう思えるのか不思議だ。戦争を仕掛けたのはこちら側で、その結果負けたのだ。それも無条件降伏で。対等ではないのだから廃位は当然だと思っていたのだけど……
「それはあまりにも……! あまりにも非道ではありませんか!! 我が国は言われた通り城を明け渡したのに……!」
またしても声を上げたのは王妃だった。父王はまだショックから戻って来られないのか、呆然としている。
「自分たちが戦争を始めたのを忘れたか? 自身がやったことの責任を取らぬというのか? その方がよほど非道ではないか? 戦争でどれだけの命を失われたと思っているのだ?」
静かな皇弟殿下の指摘は、父らの無責任さに鋭い槍を深く突き刺したように感じた。
「かつて敗戦国の王族は女子供例外なく処刑された。それを我が帝国は取りやめ、罪状によって罰を与えるように変えた。命が助かるだけでも相当な温情だと思うが?」
「そ、それは……」
「それに勘違いして貰っては困る。廃位は罰ではない」
「何ですと?」
今度は宰相が声を上げた。廃位が罰ではないということは本当の罰は別にあるということだ。
「そなたらの罰は、これから罪を調べてから決めることになる」
「これから……罪を?」
「罪ですと!? 国王に何の罪があると……!」
王妃に続いて今度は騎士団長が声を上げた。
「王でありながら民のことを顧みず容易に戦争を始めたこと、戦争が始まっても民を守ろうとしなかったこと。それ以外はこれからの調査によるが、無責任な者に国の舵取りは不可能であろう」
「そ、そんなことで……」
思いもしなかったと言わんばかりの騎士団長の言葉に、皇弟殿下の目がすっと細められた。
「そんなこと?」
「そんなことでしょう? 民などいくらでも替えが利くではありませんか。国王は幾世代にも渡って民を率いてきた尊い血筋。比べるべくもありませぬ!」
騎士団長は迷いもせずそう言ったけれど、彼が言葉を発する毎に玉座の周りの空気が冷え冷えとしていくように感じた。皇弟殿下の発言が聞きとれなかったのだろうか。あの方は騎士団長とは真逆のことを言っていたのに。
「尊い、な……」
皇弟殿下からぽつりと漏れた呟きは小さかったけれど、恐ろしいほどの皮肉が込められているようで悲鳴が出そうになった。それ以上怒らせてはいけない。止めなければと思うのに恐怖で声が出ない……
「王あっての国であり民。民は全て王の所有物でしかない! なのに王に罰を与えるなど世の摂理に反する。帝国はそんなこともわからないとは!! さすがは蛮族の血を引……」
騎士団長は気が付かないのか、尚も発言を続けた。次の瞬間だった。
「っ……!」
赤い髪の青年が動いたと思ったら、次の瞬間には剣先が騎士団長の首に当てられていた。騎士団長が口を開けたまま、目が飛び出そうなほどに見開いている。
「大事なことだから教えてやろう。帝国が最も大切にするのは民だ。民こそが国であり財産だと考える。今後発言する際はその事を忘れるな!」
皇弟殿下の言葉は冷え切った空気の中で冴え冴えと響き、有無を言わせない迫力があった。赤い髪の青年は無言で騎士団長を睨みつけているが、火色の瞳は氷のように冷え切っていた。
青年が剣をしまうと騎士団長は腰を抜かしたのか、その場に尻もちをついて床を鈍く鳴らした。父王や宰相らはコクコクと振り子人形のように首を縦に振り、王妃と異母姉は顔を青褪めさせ、抱き合う様にその場に座り込んでしまった。弟も驚きに目を大きく開き、初めて生の感情を見た気がした。
「自分たちが敗戦国だということを忘れるな。国王と王妃、宰相ら政治の中枢に関わっていた者は帝国が厳選なる調査の上、罪状を明らかにしてから処分を決定する。それまでは幽閉し、一切の外出を禁じる。幽閉先が決まるまで自室で待機しろ。外出も面会も許さん」
今度は誰も異を唱えなかった。自分たちが既に何かを決定する権限を失っているのだとようやく気付いたらしい。降伏することの意味を、それ以前に戦争を始める意味とその結末を想定していなかったのだからお話にもならない。外に出られなかった私ですらそれくらいは想像出来たのに、彼らは何を見ていたのだろう。
「次に王太子だ。その方はまだ成人に満たず矯正の余地がある。よって帝国にて再教育後、その処遇を決める」
「て、帝国で、再教育……」
王妃が茫然と皇弟殿下の言葉を繰り返したが、弟はそう言われても顔色一つ変えずに黙って皇弟殿下を見上げていた。
(再教育って……)
それは帝国の思想に合うよう教育し直すということだろうか。確かに父王や騎士団長の考えを受け継いでいたら禍根を残すだけ。国にも置いておけないだろう。帝国にとっては最もリスクがあるのは後継者を生かしておくことだろうけど、やり直す機会を貰えただけでも十分な温情に思えた。
「最後に王女だが……」
皇弟殿下はそう言うと、私と異母姉を交互に見た。何と言われるのかと鳥肌が立った。
「こちらも再教育の後、どちらかを皇子の妃、つまりこの国の王妃とする。相手は私の隣にいる、皇帝陛下の第三皇子アルヴィド殿下だ」
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