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暴露
(失敗した……)
皇子とのお茶会の後、私は自己嫌悪に陥った。今まで異母姉と同じ場に立ったことがなかったから気付けなかったけれど、その差は歴然だった。マナーだけではない。異母姉はさりげなく私の境遇を利用し、自分が不遇に扱われていたと訴え、一方で私は王宮で大切にされていたと繰り返したのだ。
そんな事実など皆無だったのだけど、入れ替わったと知らない帝国側からすれば私は随分と鼻持ちならない王女に見えただろう。一方で異母姉は、側妃の子として貶められた健気な王女を上手く演じていた。嘘に本当の事をさりげなく混ぜると、妙に信憑性が増すのだと知った。自分が関係していなかったらあっぱれと称賛したかもしれない。入れ替わらなかったとしても、私にはあんな風に訴えることは出来なかっただろう。
(いっそ、本当のことを言ってしまう?)
ふと浮かんだそれは、とてもいい案に思えた。このまま異母姉のいいようにされたくないし、このことが発覚すれば王妃と異母姉は罰せられ、皇妃の話もなくなるはず。皇子妃になりたいわけじゃないけど、権力を手にした異母姉が何をするかわかったものじゃない。そう思えば自分が生き残るためにはそれが一番のような気がした。
それに私が皇妃になれば、弟を助けることも出来る。会うことのなかった弟だけど、母は弟が王妃の元で酷い扱いを受けているのではないかと最後まで気に病んでいた。私を顧みなかった母が唯一気にしていたのなら、その遺志くらいは継ぐべきだろうと思った。一応は姉なのだから。
そう思ったら、直ぐにでも皇子に会いたくなった。もう王妃たちの好きにはさせたくないし、これ以上私を利用した嘘をつかれたくない。私にだっていい加減、穏やかに暮らしてもいいだろう。いいはずだ。
次に皇子に呼ばれたのは、それから八日後だった。前回は誰とも会うことがないと油断して、随分だらしない恰好をしていたと思う。それでは皇子に好印象を持ってもらうのは難しいだろう。あの日からは出来るだけきちんとした身なりを心掛けた。暇だったので衣裳に手を入れて見栄えが良くなるようにもした。
「まぁ、お姉様、素敵なワンピースですのね」
今度は異母姉が先に来ていた。今日は前回とは打って変わって、何故か侍女服だった。しかも微妙にサイズが合っていない。髪もきっちりと結んでその姿は正に侍女のものだった。あまりにも意外なその姿に、暫く声が出せなかった。
「ソフィ、何だその服は。侍女服ではないのか?」
入ってきた皇子も同じように思ったのだろう。眉を微かにしかめて異母姉を見ていた。
「あ、申し訳ございません、このような格好で……でも、他に着る服がなくて……」
「服が? そなたの部屋にはたくさんドレスを運び込んだと部下から報告を受けているが?」
「あ、あれは……お姉様のものだったのです。侍女が部屋を間違えたらしくて……そうですわよね、お姉様?」
異母姉の目的が見えない上、そんな風に尋ねられるとどう返していいのかわからなかった。確かにその通りだけど、あれは部屋を間違えたのではない。
「いいえ、それは間違っていませんでしたわ。そうでしょう、アンジェリカお異母姉様」
「え?」
私がそう返すと、異母姉が目を大きく見開いて私を見た。反論されると思わなかったのだろう。
「アルヴィド殿下に申しげます。今まで黙っておりましたが、目の前にいるソフィと名乗る女性は私の妹ではありません。その方こそがアンジェリカ第一王女です」
「な! お姉様! 何を仰るの⁉」
さすがにここで暴露されるとは思わなかったのだろう。異母姉が明らかに動揺した。こんな表情を見るのは初めてかもしれない。
「お、お姉様はそうやって私をまた貶めるのですか!?」
「貶める? 私を貶めていたのはアンジェリカお異母姉様はありませんか。降伏する直前、私に入れ替わるように命じ、帝国に嫁げと仰ったのをもうお忘れですか?」
冷静に話をしようと思ったけれど、一度言葉を発したらもう止まらなかった。どこまでも私を貶めようとする異母姉が許せなかったからだ。ここで罰を受けてもいいとすら思えた。
「アルヴィド様! 信じて下さい! 私がソフィですわ。お姉様は今までもこうやって私に罪を押し付けてきたのです」
「もういい加減にして! 私を名乗って私を貶めないで! あなたたちにいいようにされるのはもうたくさんよ!」
「そんな、酷いわ、お姉様!」
異母姉は顔を覆って泣き出してしまった。皇子に同情を買って自分の正当性を訴える姿を見て、一層怒りが身体の底から湧き上がってきた。これまでの苦汁の日々が一気に甦り、憎しみが殺気に変わる。
「まぁ、二人とも落ち着け」
怒りに身を任せる私と、ウソ泣きする異母姉に王子は冷静だった。まだそこまで異母姉との関係は深まっていないらしい。そのことに安堵した。
「アルヴィド様?」
「何を言い出すかと思ったら、二人が入れ替わっただと? そんな荒唐無稽な話をされてもなぁ」
感情が高ぶっている私や異母姉に対し、皇子は呑気なほどに凪いでいた。
「帝国が最初に掴んでおられた情報が正しかったのです」
「ほう」
皇子からはさっきまでの穏やかさが消えていた。だからと言って謁見室の時のような鋭さもない。
「私は王妃に、言うことを聞かなければ弟がどうなっても知らないと言われて、引き受けるしかありませんでした」
「お姉様ったら……あれは誤りだったと王妃様も仰っていたではありませんか」
「ええ。お異母姉様を守るためにそう証言なさったのでしょう。王妃様にとって大切なのはご自身の娘であるアンジェリカ異母姉様お一人だったのですから」
そう、王妃にとって私や弟は憎しみの対象であり、ただの駒でしかない。異母姉さえ無事なら後はどうでもいいのだ。
「アルヴィド様、どうか信じて下さい。私がソフィです。王族に仕えていた者なら本当のことを見ています。調べて下さればわかりますわ!」
意外にも異母姉の方が先にそう言い出した。
「そうだな。俄かには信じがたいが、さりとて無視するわけにもいかない。私の方で調べさせて貰おう。あなたもそれでいいな?」
皇子は私をアンジェリカとは呼ばなかった。それだけでも皇子がまだ異母姉に傾倒しているわけではないと感じた。
「勿論です。是非とも厳選な調査をお願い致します」
帝国が調べてわからない筈はないだろう。王宮で務めていた者も帝国相手に嘘の証言が出来る筈もない。むしろこの展開は願ったり叶ったりだった。
だけどその考えが甘かったと、私は後で思い知るのだった。
皇子とのお茶会の後、私は自己嫌悪に陥った。今まで異母姉と同じ場に立ったことがなかったから気付けなかったけれど、その差は歴然だった。マナーだけではない。異母姉はさりげなく私の境遇を利用し、自分が不遇に扱われていたと訴え、一方で私は王宮で大切にされていたと繰り返したのだ。
そんな事実など皆無だったのだけど、入れ替わったと知らない帝国側からすれば私は随分と鼻持ちならない王女に見えただろう。一方で異母姉は、側妃の子として貶められた健気な王女を上手く演じていた。嘘に本当の事をさりげなく混ぜると、妙に信憑性が増すのだと知った。自分が関係していなかったらあっぱれと称賛したかもしれない。入れ替わらなかったとしても、私にはあんな風に訴えることは出来なかっただろう。
(いっそ、本当のことを言ってしまう?)
ふと浮かんだそれは、とてもいい案に思えた。このまま異母姉のいいようにされたくないし、このことが発覚すれば王妃と異母姉は罰せられ、皇妃の話もなくなるはず。皇子妃になりたいわけじゃないけど、権力を手にした異母姉が何をするかわかったものじゃない。そう思えば自分が生き残るためにはそれが一番のような気がした。
それに私が皇妃になれば、弟を助けることも出来る。会うことのなかった弟だけど、母は弟が王妃の元で酷い扱いを受けているのではないかと最後まで気に病んでいた。私を顧みなかった母が唯一気にしていたのなら、その遺志くらいは継ぐべきだろうと思った。一応は姉なのだから。
そう思ったら、直ぐにでも皇子に会いたくなった。もう王妃たちの好きにはさせたくないし、これ以上私を利用した嘘をつかれたくない。私にだっていい加減、穏やかに暮らしてもいいだろう。いいはずだ。
次に皇子に呼ばれたのは、それから八日後だった。前回は誰とも会うことがないと油断して、随分だらしない恰好をしていたと思う。それでは皇子に好印象を持ってもらうのは難しいだろう。あの日からは出来るだけきちんとした身なりを心掛けた。暇だったので衣裳に手を入れて見栄えが良くなるようにもした。
「まぁ、お姉様、素敵なワンピースですのね」
今度は異母姉が先に来ていた。今日は前回とは打って変わって、何故か侍女服だった。しかも微妙にサイズが合っていない。髪もきっちりと結んでその姿は正に侍女のものだった。あまりにも意外なその姿に、暫く声が出せなかった。
「ソフィ、何だその服は。侍女服ではないのか?」
入ってきた皇子も同じように思ったのだろう。眉を微かにしかめて異母姉を見ていた。
「あ、申し訳ございません、このような格好で……でも、他に着る服がなくて……」
「服が? そなたの部屋にはたくさんドレスを運び込んだと部下から報告を受けているが?」
「あ、あれは……お姉様のものだったのです。侍女が部屋を間違えたらしくて……そうですわよね、お姉様?」
異母姉の目的が見えない上、そんな風に尋ねられるとどう返していいのかわからなかった。確かにその通りだけど、あれは部屋を間違えたのではない。
「いいえ、それは間違っていませんでしたわ。そうでしょう、アンジェリカお異母姉様」
「え?」
私がそう返すと、異母姉が目を大きく見開いて私を見た。反論されると思わなかったのだろう。
「アルヴィド殿下に申しげます。今まで黙っておりましたが、目の前にいるソフィと名乗る女性は私の妹ではありません。その方こそがアンジェリカ第一王女です」
「な! お姉様! 何を仰るの⁉」
さすがにここで暴露されるとは思わなかったのだろう。異母姉が明らかに動揺した。こんな表情を見るのは初めてかもしれない。
「お、お姉様はそうやって私をまた貶めるのですか!?」
「貶める? 私を貶めていたのはアンジェリカお異母姉様はありませんか。降伏する直前、私に入れ替わるように命じ、帝国に嫁げと仰ったのをもうお忘れですか?」
冷静に話をしようと思ったけれど、一度言葉を発したらもう止まらなかった。どこまでも私を貶めようとする異母姉が許せなかったからだ。ここで罰を受けてもいいとすら思えた。
「アルヴィド様! 信じて下さい! 私がソフィですわ。お姉様は今までもこうやって私に罪を押し付けてきたのです」
「もういい加減にして! 私を名乗って私を貶めないで! あなたたちにいいようにされるのはもうたくさんよ!」
「そんな、酷いわ、お姉様!」
異母姉は顔を覆って泣き出してしまった。皇子に同情を買って自分の正当性を訴える姿を見て、一層怒りが身体の底から湧き上がってきた。これまでの苦汁の日々が一気に甦り、憎しみが殺気に変わる。
「まぁ、二人とも落ち着け」
怒りに身を任せる私と、ウソ泣きする異母姉に王子は冷静だった。まだそこまで異母姉との関係は深まっていないらしい。そのことに安堵した。
「アルヴィド様?」
「何を言い出すかと思ったら、二人が入れ替わっただと? そんな荒唐無稽な話をされてもなぁ」
感情が高ぶっている私や異母姉に対し、皇子は呑気なほどに凪いでいた。
「帝国が最初に掴んでおられた情報が正しかったのです」
「ほう」
皇子からはさっきまでの穏やかさが消えていた。だからと言って謁見室の時のような鋭さもない。
「私は王妃に、言うことを聞かなければ弟がどうなっても知らないと言われて、引き受けるしかありませんでした」
「お姉様ったら……あれは誤りだったと王妃様も仰っていたではありませんか」
「ええ。お異母姉様を守るためにそう証言なさったのでしょう。王妃様にとって大切なのはご自身の娘であるアンジェリカ異母姉様お一人だったのですから」
そう、王妃にとって私や弟は憎しみの対象であり、ただの駒でしかない。異母姉さえ無事なら後はどうでもいいのだ。
「アルヴィド様、どうか信じて下さい。私がソフィです。王族に仕えていた者なら本当のことを見ています。調べて下さればわかりますわ!」
意外にも異母姉の方が先にそう言い出した。
「そうだな。俄かには信じがたいが、さりとて無視するわけにもいかない。私の方で調べさせて貰おう。あなたもそれでいいな?」
皇子は私をアンジェリカとは呼ばなかった。それだけでも皇子がまだ異母姉に傾倒しているわけではないと感じた。
「勿論です。是非とも厳選な調査をお願い致します」
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