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帝国の王宮
(これが……帝都……)
馬車と船で辿り着いた先は、アシェルの王都の何倍あるのだと呆然となる壮大な街だった。圧倒的な街並みに息を呑む。建物の高さも造りも違った。これだけでもどれほど国力に差があるのかは一目瞭然だった。父がこの街を一度でも見ていたら宣戦布告などしようとは思わなかっただろう。アシェルよりも南にある帝都は思った以上に温かかった。日差しの強さが眩しいのに、心の中には果てしない敗北感が広がっていった。
王宮はアシェルの何倍も大きな宮殿が何棟も並んでいた。それらは統一されたデザインで、まるで一つの巨大な要塞のようにも見えた。国力の差が……違いすぎる。
港からは私は異母姉と同じ馬車に乗せられた。弟の姿は見えなかった。違う場所に連れていかれたのだろうか。挨拶以外で言葉を交わすことが出来なかったことが悔やまれた。
そのまま宮殿の一角で下ろされると、侍女と騎士が並んで待っていた。その先頭にいるのは四、五十歳くらいの女性だった。服装はカチッとしたもので侍女には見えない。どちらかといえば文官だろうか。そういえばこの国では女性でも文官や騎士になれると聞いた。
「お二方様、初めまして。私はメルネス。皇帝陛下の命により、お二人のご案内を仕りました」
彼女が頭をされると、後ろに控えていた侍女や騎士も一斉にそれに習った。一糸乱れぬその様は如何に躾が行き届いているかを示していた。
「どうぞこちらへ。お住まいになる宮にご案内します」
メルネスに従って宮殿の中に進むと、その棟を突っ切って庭へと出た。回廊の先には、一回り小さな棟があった。よくよく見るとここは四つの棟に四方を囲まれていて中庭のようになっていて、その中心に宮があった。
中に入るとは繊細な装飾がされていて、玄関ホールは日差しが降り注ぎ解放的な明るさに満ちていた。最初に案内されたのは応接室だった。内装は上品で置かれている家具のデザインからしても女性向けだろう。どれも一級品でアシェルではお目にかかれないような細かな装飾が施されていた。圧倒されたのかさすがに異母姉は何も目を丸くして辺りを見渡している。
「改めて、この翠晶宮の責任者を仰せつかっておりますメルネスと申します」
この建物は翠晶宮と呼ばれ、彼女はこの宮を管理する文官だった。私たちはこれからここで暮らすのだと言われた。
「ここには他国の王女殿下もお住いの宮。お国の名を背負っている自覚をお持ちの上でお過ごし願います」
生真面目そうなメルネスの口から出た言葉は意外なものだった。ここは皇帝直轄の宮で、属国となった国の王女などが住んでいるという。私と異母姉はここで一年間教育を受けるそうだ。その後も長々と説明が続いたが、さすがに一度で覚えきれない量だった。それを想定してか、詳しいことは文書に纏めてあるので後で読むように言われた。
その後、部屋へと案内された。私たちの部屋は二階の東側で、異母姉の隣だった。部屋に入ると日当たりのいい居間があり、その隣には寝室と化粧室が、反対側には湯あみのための部屋と侍女の控室があった。貴族牢よりも広くて立派だし、窓が大きい分明るくて開放感があった。
窓の外を眺めると本当に四方を他の棟に囲まれているのがわかった。そこでなんとなく違和感があった。目に見える範囲とはいえ、この宮を囲う棟の一階と二階にはバルコニーはなく、採光窓らしき小さな窓が並んでいるだけなのだ。
(何だか、変な造り……)
この宮の周りには低木だけど草花が植えられていて、小さな四阿も見える。中庭なら風の影響も小さくてちょっと散策するにはちょうどいいだろうに、この庭に出入りするためのドアがないのだ。
そのことを不思議に思っていると、ドアが開いてティアが入ってきた。その後ろには別の侍女の姿も見えた。ティアに紹介された彼女たちは、今後私に付く侍女だという。
その中の一人、ヘレンという侍女はティアと共に私の専属となり、他の五人が交代で付いてくれることになった。
ヘレンはティアの一つ下の二十三歳。暗い金の髪と濃い緑の瞳の持ち主で、ティアよりも少しだけ背が高い。ティアは落ち着いているが、ヘレンは反対にとても活発そうだ。
「アンジェリカ様、何なりとお申し付けください。ですがお受けできないこともございますので、その点はご了承ください」
「わかりましたわ。これからよろしくね」
敗戦国の王女が戦勝国の王宮で自由に振舞えるはずもない。しかも私たちは教育を受けに来たのだ。帝国風の思想に添えるように。この後アシェルで即位する皇子を支えるために。観光に来たわけではないし、もし選ばれなかったらここから出られないのかもしれない。
「早速ですが、明日から授業が始まります」
「明日から?」
「はい」
ティアにそう言われて驚いた。てっきり数日は旅の疲れを癒し、ここの生活に慣れるための猶予期間が与えられると思ったからだ。
「授業の内容はこちらに。最初はお二人の学力を図るためのテストになります。その後、レベルに応じた授業が組まれます」
「そ、そう」
示された授業内容に目を通すと、かなりの量だった。帝国語をはじめ、歴史、政治、経済、地理は帝国だけでなくその周辺国も含まれている。当然アシェルもだ。それ以外でもマナーやダンスに話術、兵学や医学、薬草学まである。
(こ、これを一年で?)
気が遠くなるほどの量だ。とても頭に詰め込みきれそうにない。こんなの、十何年もかけてやる内容ではないだろうか。アシェルの、それも貴族として最低限の教育すら受けていたかどうかの自分では、到底やり切れるとは思えなかった。
(これをやるの……?)
そう思ったら、何故か異母姉の勝ち誇った顔が見えた気がした。あんたには無理よという副音声まで付いて……憎々し気な顔に怒りが込み上げてきた。
(冗談じゃないわ!)
あんな女に負けるなんて冗談じゃない! きっと贅沢三昧の上やりたい放題するに決まっている。何なら皇子を暗殺して父王や王妃を復位させるかもしれない。そんなことは絶対に許せなかった。特に王妃が元の地位を取り戻すなんて、神様が許しても私が許さない!
(刺し違えても……それだけはさせないんだから!)
私から「ソフィ」を奪った彼らを絶対に許せない。私は「ソフィ」のためにも、この戦いに負けるわけにはいかなかった。
馬車と船で辿り着いた先は、アシェルの王都の何倍あるのだと呆然となる壮大な街だった。圧倒的な街並みに息を呑む。建物の高さも造りも違った。これだけでもどれほど国力に差があるのかは一目瞭然だった。父がこの街を一度でも見ていたら宣戦布告などしようとは思わなかっただろう。アシェルよりも南にある帝都は思った以上に温かかった。日差しの強さが眩しいのに、心の中には果てしない敗北感が広がっていった。
王宮はアシェルの何倍も大きな宮殿が何棟も並んでいた。それらは統一されたデザインで、まるで一つの巨大な要塞のようにも見えた。国力の差が……違いすぎる。
港からは私は異母姉と同じ馬車に乗せられた。弟の姿は見えなかった。違う場所に連れていかれたのだろうか。挨拶以外で言葉を交わすことが出来なかったことが悔やまれた。
そのまま宮殿の一角で下ろされると、侍女と騎士が並んで待っていた。その先頭にいるのは四、五十歳くらいの女性だった。服装はカチッとしたもので侍女には見えない。どちらかといえば文官だろうか。そういえばこの国では女性でも文官や騎士になれると聞いた。
「お二方様、初めまして。私はメルネス。皇帝陛下の命により、お二人のご案内を仕りました」
彼女が頭をされると、後ろに控えていた侍女や騎士も一斉にそれに習った。一糸乱れぬその様は如何に躾が行き届いているかを示していた。
「どうぞこちらへ。お住まいになる宮にご案内します」
メルネスに従って宮殿の中に進むと、その棟を突っ切って庭へと出た。回廊の先には、一回り小さな棟があった。よくよく見るとここは四つの棟に四方を囲まれていて中庭のようになっていて、その中心に宮があった。
中に入るとは繊細な装飾がされていて、玄関ホールは日差しが降り注ぎ解放的な明るさに満ちていた。最初に案内されたのは応接室だった。内装は上品で置かれている家具のデザインからしても女性向けだろう。どれも一級品でアシェルではお目にかかれないような細かな装飾が施されていた。圧倒されたのかさすがに異母姉は何も目を丸くして辺りを見渡している。
「改めて、この翠晶宮の責任者を仰せつかっておりますメルネスと申します」
この建物は翠晶宮と呼ばれ、彼女はこの宮を管理する文官だった。私たちはこれからここで暮らすのだと言われた。
「ここには他国の王女殿下もお住いの宮。お国の名を背負っている自覚をお持ちの上でお過ごし願います」
生真面目そうなメルネスの口から出た言葉は意外なものだった。ここは皇帝直轄の宮で、属国となった国の王女などが住んでいるという。私と異母姉はここで一年間教育を受けるそうだ。その後も長々と説明が続いたが、さすがに一度で覚えきれない量だった。それを想定してか、詳しいことは文書に纏めてあるので後で読むように言われた。
その後、部屋へと案内された。私たちの部屋は二階の東側で、異母姉の隣だった。部屋に入ると日当たりのいい居間があり、その隣には寝室と化粧室が、反対側には湯あみのための部屋と侍女の控室があった。貴族牢よりも広くて立派だし、窓が大きい分明るくて開放感があった。
窓の外を眺めると本当に四方を他の棟に囲まれているのがわかった。そこでなんとなく違和感があった。目に見える範囲とはいえ、この宮を囲う棟の一階と二階にはバルコニーはなく、採光窓らしき小さな窓が並んでいるだけなのだ。
(何だか、変な造り……)
この宮の周りには低木だけど草花が植えられていて、小さな四阿も見える。中庭なら風の影響も小さくてちょっと散策するにはちょうどいいだろうに、この庭に出入りするためのドアがないのだ。
そのことを不思議に思っていると、ドアが開いてティアが入ってきた。その後ろには別の侍女の姿も見えた。ティアに紹介された彼女たちは、今後私に付く侍女だという。
その中の一人、ヘレンという侍女はティアと共に私の専属となり、他の五人が交代で付いてくれることになった。
ヘレンはティアの一つ下の二十三歳。暗い金の髪と濃い緑の瞳の持ち主で、ティアよりも少しだけ背が高い。ティアは落ち着いているが、ヘレンは反対にとても活発そうだ。
「アンジェリカ様、何なりとお申し付けください。ですがお受けできないこともございますので、その点はご了承ください」
「わかりましたわ。これからよろしくね」
敗戦国の王女が戦勝国の王宮で自由に振舞えるはずもない。しかも私たちは教育を受けに来たのだ。帝国風の思想に添えるように。この後アシェルで即位する皇子を支えるために。観光に来たわけではないし、もし選ばれなかったらここから出られないのかもしれない。
「早速ですが、明日から授業が始まります」
「明日から?」
「はい」
ティアにそう言われて驚いた。てっきり数日は旅の疲れを癒し、ここの生活に慣れるための猶予期間が与えられると思ったからだ。
「授業の内容はこちらに。最初はお二人の学力を図るためのテストになります。その後、レベルに応じた授業が組まれます」
「そ、そう」
示された授業内容に目を通すと、かなりの量だった。帝国語をはじめ、歴史、政治、経済、地理は帝国だけでなくその周辺国も含まれている。当然アシェルもだ。それ以外でもマナーやダンスに話術、兵学や医学、薬草学まである。
(こ、これを一年で?)
気が遠くなるほどの量だ。とても頭に詰め込みきれそうにない。こんなの、十何年もかけてやる内容ではないだろうか。アシェルの、それも貴族として最低限の教育すら受けていたかどうかの自分では、到底やり切れるとは思えなかった。
(これをやるの……?)
そう思ったら、何故か異母姉の勝ち誇った顔が見えた気がした。あんたには無理よという副音声まで付いて……憎々し気な顔に怒りが込み上げてきた。
(冗談じゃないわ!)
あんな女に負けるなんて冗談じゃない! きっと贅沢三昧の上やりたい放題するに決まっている。何なら皇子を暗殺して父王や王妃を復位させるかもしれない。そんなことは絶対に許せなかった。特に王妃が元の地位を取り戻すなんて、神様が許しても私が許さない!
(刺し違えても……それだけはさせないんだから!)
私から「ソフィ」を奪った彼らを絶対に許せない。私は「ソフィ」のためにも、この戦いに負けるわけにはいかなかった。
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