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二度目の謁見
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二度目の謁見の間は、以前よりも周りがよく見えた。その中には皇子の姿もあって、元気そうだった。近くにいる赤い髪の男性が多分彼の兄皇子なのだろう。似たような容貌で、燃えるような赤い髪が一際目についた。
(この前より、護衛騎士が多い……?)
前回と違うと感じた。尤も、前回は緊張もあって殆ど周りが見えていなかったから、変化があっても気が付いていない可能性もあるけれど。でも、騎士の姿が前回の倍はいるように見えて、それはそれで不安になった。
程なくして皇帝陛下がお見えになった。伏せて待つ間に覚悟を決めた。何のために呼ばれたのかわからないけれど、父たちが逃げたのなら決していい話にはならないだろう。もしかしたら私たちも幽閉されるか、最悪処刑だ。恭順すると言いながら逃げたなんて重大な裏切り行為でしかない。だったら帝国が我が国と私たちをどう扱っても文句は言えないだろうから。
「今日この場に呼んだのは他でもない。第三皇子の妃が決まったからだ」
(……え?)
皇帝陛下の第一声は全く予想しないものだった。このタイミングで王妃を決めるのは時期早々ではないだろうか。それとも父王たちが見つかって、その処罰が決まったのだろうか。
「発表の前に、彼の者たちをここに」
「はっ!」
陛下の言葉に騎士が応じ、謁見室の右側のドアから入ってきた人物を見て息を呑んだ。
「お母様!! お父様!!」
声を上げたのは異母姉で、騎士に囲われて入ってきたのは、父王と王妃だった。
(何時の間に帝国に? あれからまだ二十日しか……)
アシェルと帝都は早くても半月はかかる。前回の謁見の直後に捕まって、連れて来られたのだろうか……それとも……
(もしかして、かなり前に逃亡を? あの謁見は確認のため……?)
私たちが父たちの逃亡に関与など出来る筈もない。ずっと軟禁されていて、外部からの連絡手段はなかったのだから。帝国はそれをわかっていたから、形だけの尋問にしたのか。
「お母様!!」
「ああ、アンジェリカ!!」
王妃の元に異母姉が駆け寄った。騎士がそれを阻止しようとしたが、皇帝陛下が手を軽く振ると後ろに下がった。異母姉は泣きながら王妃に抱きついた。
(完全に入れ替わったこと、忘れているわね……)
異母姉も王妃もそのことは頭から抜けているように見えた。父王はそんな二人を冷めた目で見ていた。随分疲れた表情で髪も乱れ、痩せたように見える。王妃に至ってはかつての美貌の欠片もなく、化粧の乗っていない顔は二十は老けて見えて別人だった。きっと異母姉が言わなければ気付かなかったかもしれない。
「……そろそろよろしいか、アシェルの元王妃よ」
感動の再会を割ったのは宰相の声だった。そこには他国の王族への配慮はなく、どこか蔑むような響きさえあった。宰相の声に王妃と異母姉がハッと我に返り、父王は眠たそうな目を玉座へ向けた。
「さて、逃亡した元国王と元王妃よ。愛娘との時間は後で設けよう」
陛下の言葉に、彼らが有罪でこの先にあるのは本当の別れだと悟った。逃亡した元国王夫妻は生涯幽閉か処刑だろうか。
「アシェルの元国王よ、申し開きがあれば聞こうか」
皇帝陛下が玉座から見下ろした。その姿は完全に格下を見る目で侮蔑すらも感じさせられた。父もそれを感じ取っただろうに、表情は変わらなかった。
「何もない」
「そうか。では元王妃はどうだ?」
父は呆気ないほど一言だけ返した。その声には何もかもを諦めているようにも、何も考えていないようにも見えた。 一方で話を振られた王妃はまだ目に力があった。
「私はアシェル王妃。蛮族の王風情に礼をとる必要など認めません」
皇帝に頭を下げないその態度に、騎士たちが殺気立つのを感じた。胸を張ってそう告げる姿はいっそ天晴とも言えるものかもしれない。あの怖いもの知らずの胆力は大したものだろう。案外父よりも王に向いていたかもしれないとすら思う。
「なるほど。で、そなたらはネルダールと共謀してアシェルの領土奪還を計画していたそうだな。成功すると思っていたのか?」
「な……! なぜそれを……?」
王妃が声を詰まらせた。まさかネルダールが絡んでいたなんて。ネルダール王国はアシェルの東、マイエル王国の北に位置する王国だ。アシェルとネルダール、さらに東のノルデンの参加国は反帝国に同盟を結んでいて、その可能性はないとは言い切れなかった。それでも三か国を合わせても帝国に対抗する力はないだろう。三国とも大陸の北にあり、食料などの面で後れを取っていたから。
「ネルダールの王からの書状がある。宰相、読み上げろ」
「はい。ネルダール国王陛下から皇帝陛下への親書です。我がネルダールはアシェルに関して一切手を出さないことを約束する。これに違反した場合、今後三年、帝国からネルダールへの穀物の輸出を禁じられても異議は唱えない」
「そんなっ!!」
「……そう、か……」
王妃が驚きの表情を浮かべたけれど、父の表情は変わらないままだった。どこか諦めた様にそう呟いて、こうなる事を予想していたようにも見えた。
「ネルダール……! 裏切るなんて……!」
王妃は尚も忌々しそうに顔をしかめた。どうやらネルダールとの間で密約があったらしいが、それも帝国と天秤にかけて切り捨てられたらしい。食料を帝国に頼っている以上、仕方がないだろう。ネルダールもアシェル同様農作には向かない気候だから。
「アシェル王族への沙汰を下す。国王と王妃、正妃の娘は共に処刑。王子は今後の再教育の結果を見て処遇を決める。最後に側妃が産んだ王女を、我がヴァルカード帝国第三皇子であり初代ヴァルカード朝アシェル国王の妃とする」
謁見の間がしんと静まり返った。
(この前より、護衛騎士が多い……?)
前回と違うと感じた。尤も、前回は緊張もあって殆ど周りが見えていなかったから、変化があっても気が付いていない可能性もあるけれど。でも、騎士の姿が前回の倍はいるように見えて、それはそれで不安になった。
程なくして皇帝陛下がお見えになった。伏せて待つ間に覚悟を決めた。何のために呼ばれたのかわからないけれど、父たちが逃げたのなら決していい話にはならないだろう。もしかしたら私たちも幽閉されるか、最悪処刑だ。恭順すると言いながら逃げたなんて重大な裏切り行為でしかない。だったら帝国が我が国と私たちをどう扱っても文句は言えないだろうから。
「今日この場に呼んだのは他でもない。第三皇子の妃が決まったからだ」
(……え?)
皇帝陛下の第一声は全く予想しないものだった。このタイミングで王妃を決めるのは時期早々ではないだろうか。それとも父王たちが見つかって、その処罰が決まったのだろうか。
「発表の前に、彼の者たちをここに」
「はっ!」
陛下の言葉に騎士が応じ、謁見室の右側のドアから入ってきた人物を見て息を呑んだ。
「お母様!! お父様!!」
声を上げたのは異母姉で、騎士に囲われて入ってきたのは、父王と王妃だった。
(何時の間に帝国に? あれからまだ二十日しか……)
アシェルと帝都は早くても半月はかかる。前回の謁見の直後に捕まって、連れて来られたのだろうか……それとも……
(もしかして、かなり前に逃亡を? あの謁見は確認のため……?)
私たちが父たちの逃亡に関与など出来る筈もない。ずっと軟禁されていて、外部からの連絡手段はなかったのだから。帝国はそれをわかっていたから、形だけの尋問にしたのか。
「お母様!!」
「ああ、アンジェリカ!!」
王妃の元に異母姉が駆け寄った。騎士がそれを阻止しようとしたが、皇帝陛下が手を軽く振ると後ろに下がった。異母姉は泣きながら王妃に抱きついた。
(完全に入れ替わったこと、忘れているわね……)
異母姉も王妃もそのことは頭から抜けているように見えた。父王はそんな二人を冷めた目で見ていた。随分疲れた表情で髪も乱れ、痩せたように見える。王妃に至ってはかつての美貌の欠片もなく、化粧の乗っていない顔は二十は老けて見えて別人だった。きっと異母姉が言わなければ気付かなかったかもしれない。
「……そろそろよろしいか、アシェルの元王妃よ」
感動の再会を割ったのは宰相の声だった。そこには他国の王族への配慮はなく、どこか蔑むような響きさえあった。宰相の声に王妃と異母姉がハッと我に返り、父王は眠たそうな目を玉座へ向けた。
「さて、逃亡した元国王と元王妃よ。愛娘との時間は後で設けよう」
陛下の言葉に、彼らが有罪でこの先にあるのは本当の別れだと悟った。逃亡した元国王夫妻は生涯幽閉か処刑だろうか。
「アシェルの元国王よ、申し開きがあれば聞こうか」
皇帝陛下が玉座から見下ろした。その姿は完全に格下を見る目で侮蔑すらも感じさせられた。父もそれを感じ取っただろうに、表情は変わらなかった。
「何もない」
「そうか。では元王妃はどうだ?」
父は呆気ないほど一言だけ返した。その声には何もかもを諦めているようにも、何も考えていないようにも見えた。 一方で話を振られた王妃はまだ目に力があった。
「私はアシェル王妃。蛮族の王風情に礼をとる必要など認めません」
皇帝に頭を下げないその態度に、騎士たちが殺気立つのを感じた。胸を張ってそう告げる姿はいっそ天晴とも言えるものかもしれない。あの怖いもの知らずの胆力は大したものだろう。案外父よりも王に向いていたかもしれないとすら思う。
「なるほど。で、そなたらはネルダールと共謀してアシェルの領土奪還を計画していたそうだな。成功すると思っていたのか?」
「な……! なぜそれを……?」
王妃が声を詰まらせた。まさかネルダールが絡んでいたなんて。ネルダール王国はアシェルの東、マイエル王国の北に位置する王国だ。アシェルとネルダール、さらに東のノルデンの参加国は反帝国に同盟を結んでいて、その可能性はないとは言い切れなかった。それでも三か国を合わせても帝国に対抗する力はないだろう。三国とも大陸の北にあり、食料などの面で後れを取っていたから。
「ネルダールの王からの書状がある。宰相、読み上げろ」
「はい。ネルダール国王陛下から皇帝陛下への親書です。我がネルダールはアシェルに関して一切手を出さないことを約束する。これに違反した場合、今後三年、帝国からネルダールへの穀物の輸出を禁じられても異議は唱えない」
「そんなっ!!」
「……そう、か……」
王妃が驚きの表情を浮かべたけれど、父の表情は変わらないままだった。どこか諦めた様にそう呟いて、こうなる事を予想していたようにも見えた。
「ネルダール……! 裏切るなんて……!」
王妃は尚も忌々しそうに顔をしかめた。どうやらネルダールとの間で密約があったらしいが、それも帝国と天秤にかけて切り捨てられたらしい。食料を帝国に頼っている以上、仕方がないだろう。ネルダールもアシェル同様農作には向かない気候だから。
「アシェル王族への沙汰を下す。国王と王妃、正妃の娘は共に処刑。王子は今後の再教育の結果を見て処遇を決める。最後に側妃が産んだ王女を、我がヴァルカード帝国第三皇子であり初代ヴァルカード朝アシェル国王の妃とする」
謁見の間がしんと静まり返った。
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