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思いがけない再会
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エドとグレンが私を人質にする。相手がどちら側の人間かわからなかった私が急ごしらえに考えた策だった。勿論ふりだけで本気で人質にしているわけじゃない。でも、他に策が浮かばなかったのだから仕方がない。二人も難色を示したけれど、意外にもティアは乗り気だった。四人しかいないのだから他に手がない、私を人質にして食料や水を要求すればいいし、こうしている間に皇弟殿下の部下の誰かが異変に気付くだろうと言ってくれた。
「さぁ、どうするんだ? ソフィ王女を害されたくなかったら武器を捨てろ!」
「この卑怯者め!! ソフィ様をお放ししろ!!」
「何だ? 脅しだとでも思っているのか!?」
「きゃあ!!」
「ソフィ様!!」
グレンが短剣を私の首に食い込ませたので、大袈裟に悲鳴を上げた。
「くっ!! 卑怯者めが!」
「待て!! ソフィ様の御身が最優先だ。お前達、剣を捨てろ!」
「……え?」
騎士たちをかき分けて前に出てきた人物を見て、私は息を呑んだ。あの茶色には見覚えがある。騎士らしくない眼鏡も……他の騎士よりも格上とわかる騎士服を纏って現れたのは、あの王宮の庭で出会った茶髪の騎士だった。どうして彼が、ここに……信じられない思いと疑念が心の中で絡み合う。彼は帝国に忠誠を誓ったのではなかったのか……
「あ、あなたは……」
「ああ、私を覚えていてくださいましたか、ソフィ様」
「え、ええ……でも、どうして……」
演技中なのに思いがけない再会に驚き過ぎて取り繕えなかった。彼が王党派だったなんて……では、あの襲撃犯の仲間なのだろうか。
「ジャ、ジャンは……」
「あの馬番ですか? 彼が知らせてくれたのです。ソフィ様をお助け下さいと」
「ジャンが……」
それでは、ジャンは裏切ったのだろうか……
「それで、あなた達は……」
「私共はアシェル王家に忠誠を誓った者たちです」
「アシェル王家に? それじゃ……」
「そうですね。帝国からは王党派と呼ばれている者です。でもご安心ください。ソフィ様をお守りするのが我らの務めにございますれば」
最悪の展開だった。どうせ呼ぶなら帝国の騎士の方がよかったのだけど。でも、そう言わなかった私の落ち度だ。
「それで、私たちをどうしようと言うの?」
「ソフィ様には帝国を排除し、アシェルの女王になって頂きたい。それが我らの願いです」
「そ、そんなこと、出来ると本気で思っているの? 今のアシェルに帝国に抗う力はないわ」
「そこはご心配なく。ネルダールが我らを支えてくれます」
最悪だ。ネルダールに援助だなんて。あの国の思惑を知らないのだろうか。でも、彼がそういうのなら悪い話ではないのかもしれない。彼は王宮で孤立していた私を案じ、父らの態度に憤ってくれていた。もしかしたら……
「お喋りはそこまでだ! ソフィ様を害されたくなかったら外に出ろ!!」
「……っ!」
会話を切ったのはグレンの怒号だった。そう言えば今の私は人質なのだ。あまりにも思いがけない相手でつい気が緩んでしまった。グレンに続きエドも剣を向けたため、彼らは一旦小屋の外へと引いていった。そんな彼らにエドが食べ物と水、薪の追加を頼んで、それらは直ぐに届けられた。
「変な薬を入れるんじゃないぞ。毒見はソフィ様にやらせるからな!」
いかにも悪漢な怖い笑顔でエドが言ったせいか、私が最初に食べたけれど特に問題なかった。彼らが私を害する気はないのは間違いなさそうだ。その後ティアの提案で、私の着替えのドレスやコート、などを部屋から取ってくるように頼んだ。
「これからどうしましょうか」
食事を終えた私たちは外に聞こえないように今後のことを相談した。私を人質にしていれば三人に害を加えることはないだろうけど、長丁場になると厳しい。ここに私がいると皇弟殿下に知らせることが出来ればいいのだけど……
「皇弟殿下は今頃必死にソフィ様を探していらっしゃるでしょう。アルヴィド様がお留守の間にこんなことが起きては後で殿下に何を言われるかわかりませんもの」
「左様ですね。些細な変化でも見逃したりはしないでしょう。ただ、ここは王宮から離れすぎています。気付いて貰えるかどうか……」
問題は彼らの仲間がどれくらいいるかだ。まだ王宮内に仲間がいるのなら厳しい。でも、あの十数人程度ならいずれボロが出るだろう。
「失礼します。ソフィ様のお召し物をお持ちしました」
ノックの後でかけられた声に、エドとグレンが反応した。エドが私を抱きかかえるようにして首元に剣を当て、グレンが立ち上がって警戒しながらティアに視線を送ると、ティアがドアを開けた。現れたのが女性だったせいか騎士が一瞬怯んだが、エドに剣を向けられている私を見ると苦々しい表情を浮かべた。
「ありがとう。私の着替えね? だったらその侍女に渡して」
「は、はい……」
突入のチャンスと思っていたのだろうけれど残念ながらその目論見が外れ、悔しそうな表情を浮かべながらティアに私の服を渡した。
「あ、ごめんなさい。お願いがあるのだけど……」
「おい!」
私が戸を閉めようとする騎士に声をかけると、グレンがそれを諫めた。
「ごめんなさい。でも、大事なことなの」
「チッ! 手短にしろよ」
グレンが舌打ちしながらも許してくれた。演技が上手すぎる。彼は役者の才能もありそうだ。
「ありがとう。どうしてもお願いしたいことがあるの」
「何でしょうか?」
「今日は私のお祖母様に当たる王太后様の命日なの。毎年この日には王太后様のお墓にお花を届けていたのだけど行けそうもないわ。だから誰か代わりにお花を捧げに行ってくれないかしら? 王宮内にある墓所よ」
「王太后様に……」
「ええ。毎年父や王妃様もお参りに行っていたけれど、今年は誰もいないわ。それでは王太后様もお寂しいでしょうから」
そう言うと騎士は少し考えた後、かしこまりましたと言うとドアを静かに閉じた。
「さぁ、どうするんだ? ソフィ王女を害されたくなかったら武器を捨てろ!」
「この卑怯者め!! ソフィ様をお放ししろ!!」
「何だ? 脅しだとでも思っているのか!?」
「きゃあ!!」
「ソフィ様!!」
グレンが短剣を私の首に食い込ませたので、大袈裟に悲鳴を上げた。
「くっ!! 卑怯者めが!」
「待て!! ソフィ様の御身が最優先だ。お前達、剣を捨てろ!」
「……え?」
騎士たちをかき分けて前に出てきた人物を見て、私は息を呑んだ。あの茶色には見覚えがある。騎士らしくない眼鏡も……他の騎士よりも格上とわかる騎士服を纏って現れたのは、あの王宮の庭で出会った茶髪の騎士だった。どうして彼が、ここに……信じられない思いと疑念が心の中で絡み合う。彼は帝国に忠誠を誓ったのではなかったのか……
「あ、あなたは……」
「ああ、私を覚えていてくださいましたか、ソフィ様」
「え、ええ……でも、どうして……」
演技中なのに思いがけない再会に驚き過ぎて取り繕えなかった。彼が王党派だったなんて……では、あの襲撃犯の仲間なのだろうか。
「ジャ、ジャンは……」
「あの馬番ですか? 彼が知らせてくれたのです。ソフィ様をお助け下さいと」
「ジャンが……」
それでは、ジャンは裏切ったのだろうか……
「それで、あなた達は……」
「私共はアシェル王家に忠誠を誓った者たちです」
「アシェル王家に? それじゃ……」
「そうですね。帝国からは王党派と呼ばれている者です。でもご安心ください。ソフィ様をお守りするのが我らの務めにございますれば」
最悪の展開だった。どうせ呼ぶなら帝国の騎士の方がよかったのだけど。でも、そう言わなかった私の落ち度だ。
「それで、私たちをどうしようと言うの?」
「ソフィ様には帝国を排除し、アシェルの女王になって頂きたい。それが我らの願いです」
「そ、そんなこと、出来ると本気で思っているの? 今のアシェルに帝国に抗う力はないわ」
「そこはご心配なく。ネルダールが我らを支えてくれます」
最悪だ。ネルダールに援助だなんて。あの国の思惑を知らないのだろうか。でも、彼がそういうのなら悪い話ではないのかもしれない。彼は王宮で孤立していた私を案じ、父らの態度に憤ってくれていた。もしかしたら……
「お喋りはそこまでだ! ソフィ様を害されたくなかったら外に出ろ!!」
「……っ!」
会話を切ったのはグレンの怒号だった。そう言えば今の私は人質なのだ。あまりにも思いがけない相手でつい気が緩んでしまった。グレンに続きエドも剣を向けたため、彼らは一旦小屋の外へと引いていった。そんな彼らにエドが食べ物と水、薪の追加を頼んで、それらは直ぐに届けられた。
「変な薬を入れるんじゃないぞ。毒見はソフィ様にやらせるからな!」
いかにも悪漢な怖い笑顔でエドが言ったせいか、私が最初に食べたけれど特に問題なかった。彼らが私を害する気はないのは間違いなさそうだ。その後ティアの提案で、私の着替えのドレスやコート、などを部屋から取ってくるように頼んだ。
「これからどうしましょうか」
食事を終えた私たちは外に聞こえないように今後のことを相談した。私を人質にしていれば三人に害を加えることはないだろうけど、長丁場になると厳しい。ここに私がいると皇弟殿下に知らせることが出来ればいいのだけど……
「皇弟殿下は今頃必死にソフィ様を探していらっしゃるでしょう。アルヴィド様がお留守の間にこんなことが起きては後で殿下に何を言われるかわかりませんもの」
「左様ですね。些細な変化でも見逃したりはしないでしょう。ただ、ここは王宮から離れすぎています。気付いて貰えるかどうか……」
問題は彼らの仲間がどれくらいいるかだ。まだ王宮内に仲間がいるのなら厳しい。でも、あの十数人程度ならいずれボロが出るだろう。
「失礼します。ソフィ様のお召し物をお持ちしました」
ノックの後でかけられた声に、エドとグレンが反応した。エドが私を抱きかかえるようにして首元に剣を当て、グレンが立ち上がって警戒しながらティアに視線を送ると、ティアがドアを開けた。現れたのが女性だったせいか騎士が一瞬怯んだが、エドに剣を向けられている私を見ると苦々しい表情を浮かべた。
「ありがとう。私の着替えね? だったらその侍女に渡して」
「は、はい……」
突入のチャンスと思っていたのだろうけれど残念ながらその目論見が外れ、悔しそうな表情を浮かべながらティアに私の服を渡した。
「あ、ごめんなさい。お願いがあるのだけど……」
「おい!」
私が戸を閉めようとする騎士に声をかけると、グレンがそれを諫めた。
「ごめんなさい。でも、大事なことなの」
「チッ! 手短にしろよ」
グレンが舌打ちしながらも許してくれた。演技が上手すぎる。彼は役者の才能もありそうだ。
「ありがとう。どうしてもお願いしたいことがあるの」
「何でしょうか?」
「今日は私のお祖母様に当たる王太后様の命日なの。毎年この日には王太后様のお墓にお花を届けていたのだけど行けそうもないわ。だから誰か代わりにお花を捧げに行ってくれないかしら? 王宮内にある墓所よ」
「王太后様に……」
「ええ。毎年父や王妃様もお参りに行っていたけれど、今年は誰もいないわ。それでは王太后様もお寂しいでしょうから」
そう言うと騎士は少し考えた後、かしこまりましたと言うとドアを静かに閉じた。
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