【完結】呪いで異形になった公爵様と解呪師になれなかった私

灰銀猫

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訪ねてきた女性

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 突然の来客はウィル様ともお知り合いのようで、さすがに玄関ホールで話をするわけにもいかず、そのまま応接室へと移動になりました。私も一緒にと言われて今はウィル様の隣に腰かけています。

 女性は艶やかな黒髪と意志が強そうな鮮やかな緑色の瞳が目を引きました。年はウィル様と同じくらいでしょうか。胸が立派で腰はきゅっと細くて、とても女性らしい身体つきをしています。身体の線がわかるドレスはお似合いですが、胸元が開き過ぎているので女性の私でも目のやり場に困ってしまいます。それにしても……

(……何だか睨まれている、ような……?)

 何だかさっきから向けられる視線が険しいです。何でしょう……

(も、もしかして、ウィル様の昔の恋人、とか?)

 なるほど、それなら納得です。年も近そうですし、私よりもずっとお似合いに見えます。ただ、突然訪問するような方をウィル様が恋人にしていたとは意外でした。ウィル様の愛称を呼んでいたので、それだけ親しかったのかもしれませんが……

「久しいな、ボレル伯爵令息夫人。急な訪問とは何用か?」

 デリカがお茶を入れて下がると、ウィル様が淡々とした口調で尋ねました。女性の気安い態度に反して、ウィル様のそれは随分と温度差を感じます。

「ああ、実はボレル伯爵家とは縁が切れましたの……」

 そう言うと女性と悲しそうな表情でまつ毛を伏せ、愁いを帯びた表情を浮かべました。

「子が出来ぬと言われて、追い出されてしまって……今は実家に戻って肩身の狭い居候ですわ」

 言葉だけ聞いているととてもしおらしく感じますが、露出の多いドレスでは効果が半減です。こういう場合、清楚なドレスの方が向いているでしょうに。

「そうか、それは残念だったな。だが子が出来るかどうかは天の采配だからな。それで、用件は?」
「え……?」
(えええっ!?)

 ウィル様が改めて用件を尋ねましたが、女性はそんな風に言われるとは思わなかったのか戸惑いの表情を浮かべました。そして私は……悲鳴を上げそうになるのをこらえるので精一杯でした。

(ウ、ウィル様、何を……?)

 突然ウィル様が私の手を握ったのです。このタイミングで私の手を握るなんて……相手からはテーブルが邪魔して見えないかもしれませんが、ウィル様がそうした理由がわかりません。

(この女性、恋人ではないのですか……?)

 相手の名前もわからない中、私は一人混乱していました。

「……ウィル様、怒っていらっしゃいますの? 私が婚約者を辞退して、他家に嫁いだことを……」

 女性は両手を前に組んで、ウルウルと潤んだ瞳でウィル様を見上げました。どこかで見たことがある光景です。あ、あれです! お姉様がよくお父様にお願いごとをする時にするポーズです。美人なので効果はあるのですが、ドレスがやはり邪魔をしているように見えます。そしてウィル様、指を一本一本指で撫でるのは止めて下さい……!

「いや、怒ってなどいないが? そもそもあなたは候補の一人だっただけだし、他の者も辞退した。それも呪い故とわかっているからな。当家としては当然のことと思っていたが?」
「そ、そうですの……」

 ウィル様の淡々と事務的な答えに、女性は何だか落胆したように見えました。ということは、離婚されて実家に居場所がないから復縁を狙っていらっしゃった、と? お二人の関係を考えようとするのですが、ウィル様の手がそれを許してくれません。指と指の間を撫でられるとくすぐったくて背筋がぞくぞくするので止めてほしいのですが……

「だが今は感謝している」
「え?」

 突然の謝意に、女性が益々混乱を深めたようですが、私もです。こちらはウィル様の奇行のせいですが。

「お陰でこんなに可愛い妻を娶ることが出来たからな」
「え? か、可愛い……?」
(……は?)

 ウィル様の言葉に女性が目を見開いて私を見ましたが、私も思わずウィル様を見上げてしまいました。か、可愛いって……私が!?

「ウ、ウィル様、まさか本気でこの方を妻に迎える気ですか!?」

 たっぷり十は瞬き出来た時間女性が固まっていましたが、突然我に返ると語気を強めました。

「ああ、陛下からのご紹介だからな」
「で、ですがこの方、王都では……王都では癇癪もちで我儘だと噂されていますわ。それで社交界では『出涸らし令嬢』とも呼ばれているのですよ? そんな方が由緒ある公爵家の妻になど……」

 久しぶりに『出涸らし令嬢』と呼ばれました。学園の中だけかと思っていましたが……社交界でもそのように言われているのですね。

「自分が何を言っているのか、理解しているのか?」

 尚も言い募ろうとした女性に、ウィル様が唸る様に問いかけました。そんな風に凄まれると威圧感が凄いです。私に向けられているわけではないとわかっていても、条件反射で謝ってしまいそうです。

「……え?」
「国王陛下が勧め、お認めになった妻をその様に貶めるとは。ヒルスナー侯爵家とは父の代から付き合いがあったとは言え、そのような暴言を見過ごせるほどの仲ではなかったと思うが?」
「そ、それは……」

 益々声のトーンを落としたウィル様に、令嬢の顔色も薔薇色から青へと急降下です。

「無礼な客に割く時間はない。早々にお取引願おう。ライナー、デリカ、客人がお帰りだ」
「はっ」
「え? ウ、ウィル様? そ、そんな……」
「失礼する」

 そう言うとウィル様は私の手を握ったまま立ち上がってしまいました。そのまま私を立たせると手を繋いだまま部屋を出てしまいました。後ろでは女性のウィル様を呼ぶ声が聞こえましたが、ウィル様はそれを機にすることなく歩を進めましたが……

(な、何が起きているの?)

 置かれている状況が全くわからないまま、女性との面会が終わってしまいました。




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