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砂糖に練乳をかけた甘さ

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 私はラーシュさんの申し出を受け入れた。というか、断る理由がなかった。甘さ全開の笑顔も、甲斐甲斐しく世話をしてくれたのも、正真正銘の好意からだったのだ。私の勘違いかも……と一線を引いていたけれど、好きだって言われたら嬉しくない筈がない。

 一輝のことがチラっと頭の片隅に浮かんだけど、比べるのも失礼に思えた。今まで困った時に助けて貰ったことがなかったな、と改めて気付いたからだ。
 残業で終電を逃した時も大雨で電車が止まった時も、気を付けろと言うだけだった。約束をドタキャンしたことはなくても、されたことは何度もあった。
 一つ粗を思い出せば、芋づる式に次々と浮かんできた。誕生日のプレゼントも私は一輝が欲しいと言ったブランド物のネクタイを贈ったけれど、お返しはシルバーのピアスとネックレスだった。金属アレルギーだからアクセサリー以外でと事前に伝えておいたにも関わらずだ。他にも、夏冬は我が家に入り浸りだったけど、一度も光熱費とか食費をもらった事がなかった。たまにお礼だと言って牛丼屋とかのファストフードのテイクアウトは買ってきてくれたけど、今にして思えば全然割に合わなかった。

(うわぁ、もしかして私、めっちゃ都合のいい女だった?)

 同僚たちの話を聞くと皆何かしら不満を抱えていたし、空気読めない奴だからこんなもんかと思っていたけど……大切にされていなかったのは明白だった。

(うん、あんな男、笠井さんに熨斗付けてあげるわ)



 晴れて恋人同士になって、ラーシュさんの態度が更に甘くなった。あれ以上甘くなることはないと思っていたけれど、甘かった。砂糖に練乳を加えた感じだ。

「シャナ、お茶にしましょうね」

 そう言って甲斐甲斐しくお茶の準備をしてくれるラーシュさんは、とってもご機嫌だった。麗しい尊顔は花が咲いたように華やいで見える。笑顔の威力、凄い。

「あの、ですね……」
「はい?」
「この体勢じゃ、お茶が飲みにくいんですが……」

 そう、今の私はラーシュさんの膝の上、だった。あれから私の定位置と化しているけれど、お陰で食事がしにくいったらない。食事もお茶も零さないかと緊張するから、普通に座って食べさせてほしいんだけど……

「飲みにくいなら私が飲ませてあげますよ。さぁ」

 そう言ってカップを口元に持って来たラーシュさんだけど、そう言う意味ではないのに……

「シャナのお世話をするのが私の楽しみなんです」

 そんなことを笑顔全開で言われると……何だか無下にも出来なかった。何というか……また耳と尻尾が見える気がするのだ。わんこ美形なんて反則だろう。



 それから数日は穏やかに時が流れた。相変わらずラーシュさんは甘さ全開で、今ではそんなラーシュさんが可愛くて仕方がなかった。
 一輝と笠井さんの存在は時折不安を思い出させたけれど、彼らがここに来るのは簡単ではないし、仮に来てもこの家の周りには結界が張ってあるからラーシュさんが認めた人しか入れないのだという。

(だったら、大丈夫よね?)

 さすがに押しかけてはこないだろうと思った私の予想は、直ぐに裏切られた。

「えええっ? あの二人が来てるって……」
「はい。トーレが連れて来たようですね。全く、こちらに断りもなく勝手に……」

 ラーシュさんは穏やかそうに見えるけれど、かなり怒っているようにも見えた。あのトーレという人が好きじゃないのもあるだろうけど、そんな態度に私の心は少しだけホッとした。

(笠井さんに誘惑なんて、されないよね?)

 彼女が目を輝かせていたから、きっとあの子がトーレさんに頼み込んだのだろう。一輝は……私に未練なんてないだろうし。あっても知らんけど。
 ラーシュさんは三人を家の中ではなく、家の庭の四阿へと案内した。家の中にいれたくないのだろう。

「トーレ。それで何の用ですか?」

 何か企んでいるとしか見えない笑顔のトーレさんに、目を輝かせてラーシュさんを見つめる笠井さん、そして一人だけ困惑気味の一輝に対して、ラーシュさんの態度には欠片も歓迎の意が含まれていなかった。よっぽどあのトーレという人が嫌いなんだろう。国王候補という関係性もあるだろうけど、あの人の揶揄う態度が最たる理由だろうなと思う。私もあの手のタイプは苦手だ。

「いやね、こちらのお嬢さんがシャナ嬢に会いたいというから」
「そうなんです。私、先輩の誤解を解きたくて……」

 もじもじと遠慮がちな仕草だけど、どう考えても演技にしか見えない。こういうあざとさは同性からすると反感しか感じないから、あの仕草はラーシュさん向けなのだろう。

「誤解、って何が?」
「私と秋山先輩のことでです」

 両手を組んでウルウルした目で見上げてきた。
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