『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

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異形との闘い

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「まずいな…」

 異形の様子を見ていたセレン様の微かな呟きが、私の耳に届きました。異形の者は激しく暴れていて、膜のような物の中でも炎を吐き出しています。きっとあの膜を壊して外に出ようとしているのでしょう。そして今のセレン様の呟きから、あの膜があまりもたない事を私は感じました。そんな事になったら…その予感に私は身体の奥から震えが湧きあがるのを感じました。圧倒的な力の差を感じたせいでしょうか。
 そんな私の前で、セレン様が動きました。私達と異形の間に光のカーテンのようなものが現れると、一瞬で消えました。あれは何でしょうか…そして次の瞬間、異形を包み込んでいた膜のようなものが消えるのが見えました。

「やはり…」
「そんな…」

 あの異形が膜を破ってしまったのでしょうか。あっという間に消えた膜の代わりに、今度は炎が、いえ、火柱が異形を中心に上がるのが見えました。あれはセレン様の魔術でしょうか。でも、相手は炎を操るので、それでは意味がないのでは…いえ、よく見ると、火柱は光のカーテンが現れた場所よりこちら側には入り込んでいません。もしかして…

「ルネ。ここでじっとしているんだよ」
「な…」

 そう言うとセレン様はあの異形の前に歩み出ました。セレン様に目を止めた異形は…次の瞬間、セレン様に向けて炎を吐き出しました。

「セレン様!」

 炎に包まれたセレン様に、私は思わず声を上げましたが…炎が消えるとその中には無傷らしいセレン様が見えました。服が無事なので炎はセレン様に届かなかったのでしょうか。しかしホッとする間もなく、異形は鋭い爪を立ててセレン様に向かってきました。しかし、そんな異形の動きを読んだかのようにセレン様はひらりと身を翻しました。
 それからは…私の目が追い付けない速さで、セレン様と異形の応酬が続きました。空を飛ぶ異形にセレン様は魔術で対抗しているようですが、相手は魔術と物理的な攻撃を繰り返して、息つく間もないように見えます。不思議な事にあの光のカーテンのこちら側には魔術の影響は来ないので、もしかするとセレン様が結界か何かを張ったのかもしれませんが…あまりにも動きが早すぎて、思考も目も追い付きません。
 セレン様は相手の攻撃をかわしながら、魔術を放っていました。どうやらセレン様の方が優勢のように見えます。雷のようなものがあの異形の上に落ちたかと思うと、あの異形が地に落ちるのが見えました。勝負あった…のでしょうか。
 しかし、次の瞬間、セレン様がその場に片膝をついてしまわれました。酷くお疲れのようで、肩で息をしているのが見えます。あんなに魔術を使ったせいで、もしかして魔力切れになったのでしょうか…そんな中、一度は地に落ちたあの異形が、再び飛び上がるとその爪を立てたまま空から一直線にセレン様に向かってきました。

「危ない!!」

 異形の者の爪がセレン様に届く一歩手前で、セレン様が異形に向かって何か術を放ちました。異形はその術をまともに食らい、ホールの壁に吹っ飛んでいくのが見えました。ガラガラと音を立てて、壁が崩れていくのが見えます。でも…

「セレン様!」

 セレン様の身体がぐらりと揺れるのを見た私は、とっさに駆け出しました。身体を支えようとしましたが…体重差でしょうか、セレン様の身体は思った以上に重くて、私は衝撃を和らげるのが精一杯でした。仰向けに寝かせると、セレン様の顔色が酷く赤く、息も荒く、とても苦しそうで意識がありません。魔力切れかと思いましたが…それだと身体が冷たくなるので、そうではないようです。

「セレン様?しっかりして下さい!」

 そう呼びかけるも、セレン様は苦しそうに息を繰り返すだけです。こんな時どうすればいいのでしょうか…魔術の知識もない私には、どうすればいいのかがわかりません。そうしている間にも、あの異形が起き上がってきそうで私の中に焦りが膨れ上がりました。そしてそんな私を嘲笑うかのように、あの異形の落ちた場所でガラガラと音がしました。

「まさか…」

 ようやく戦う力がなくなったかと思っていましたが…異形はまだ立ち上がるだけの力が残っていたようです。一方のセレン様はお倒れになってしまい、意識もありません。私はセレン様の頭を抱きかかえたまま、異形を見上げるしか出来ませんでした。そうしている間にも異形は私達の近くまで移動すると、再び息を吸い込むのが見えました。あれは…また炎を吐き出すつもりなのでしょう…

(もう…ダメ…)

 何とかセレン様だけでもお守りしたいと思い、頭の中でセレン様の周りに結界を張るイメージを浮かべると、私はセレン様を守る様に抱きしめて目を閉じました。今度こそ死を覚悟した私でしたが…しかし…またしても来るはずの衝撃は、来ませんでした…

(え?)

 恐る恐る異形の方に視線を受けると…異形の者は再び膜のようなものに包まれて、その中で炎が渦巻いているのが見えましたが…一体何が起きたのでしょうか…

「あ~あ、セレン、限界迎えちゃったかぁ」

 緊張感に満ちたその空間に突然、場違いなほどに茶目っ気のある声が響きました。振り返るとそこには、腰の下まである銀糸のような髪の女性が立っていました。薄紫の瞳がキラキラと輝き、整った顔立ちはこれまでに見た誰よりも美しく見えます。歳は…私よりも年上…いえ、セレン様と同じくらい、でしょうか…セレン様の名を呼んでいたので、もしかしてセレン様のお知り合い、でしょうか…

「な…せ、聖女様…?!」
「聖女様がご降臨なされたのか?!!」

 この状況に私が固まっていると、先ほどまでセレン様の魔術で動きを封じられていたらしい他の人達の声が上がりました。セレン様が意識を失われた事で、術が解けたのでしょうか…

「あ~もう、うるさいなぁ…」

 ご自身に向かう称賛の言葉にうんざりした表情を浮かべたその女性は、そちらに一瞥するとまた彼らの声が止みました。もしかして…またセレン様と同じような術をかけたのでしょうか。

「あ、あの…貴女は…」
「ルネ、ごめんね。今は時間がないの。後で説明するから、今はセレンの魔力を吸い上げて?」


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