『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

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王家の反応と新たな懸念

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「あーっ! もう、おっかし~!!!」

 離宮のサロンで大爆笑中なのは、リアさんでした。陛下達の謁見で獣の姿になったリアさんに、セザール殿下はもとより、その場にいた人々は驚き、言葉を失っていました。セザール殿下に至っては…口を開けたまま固まっていましたが、まぁ仕方ないでしょう。

「これが私の本来の姿。私はセレンの従魔なの」
「な…なっ…」
「セレンとルネを傷つける者は私が許さないわ」

 銀色の獣にそう問われたセザール殿下は、その場であの形のまま意識を失われてしまいました。直ぐに元の姿に戻ったリアさんが、にっこり陛下達に笑みを向けると…陛下達も顔面蒼白です。いつも表情を変えない王妃様ですらも驚きを隠しきれませんでした。でも、それも仕方のない事でしょう。私たちの世界には魔獣はいますがセレン様の世界の魔獣とはものが違います。こちらの世界の魔獣は強い生命力を持つ獣を指し、リアさんのように言葉を話したり魔術を使うなど出来ません。
 結局、その後は話合いどころではなくなり、また後日に話をしようとその場は解散になりました。そして離宮に戻ってきたのですが…

「あ~もう、お腹痛くなってきた!あの王子の間抜け顔!しかも失神って情けなさ過ぎ―!」

 リアさんの爆笑が止まりません。セレン様は苦笑していますが、リアさんの行動を諫める気はないようです。私は…いつも通りセレン様の隣に座って、子犬姿で私の膝の上で眠っているルドさんの背を撫でながら、キリキリと胃が痛むのを感じていました。
 だってこの場には王太子殿下もいらっしゃるのです。殿下は申し訳ないとお感じになったようで、私達に謝罪するために一緒にこちらに来られたのですが…謝罪中もリアさんの笑いが止まりませんでした。それはさすがに不敬ではないでしょうか…幸い王太子殿下は、悪いのはこちらでアシャルティ殿達には非はない、陛下達がつまらない事を言って申し訳なかったと仰っていますが…今頃陛下達はどうお考えなのでしょうか…

「リア、その辺にしておいたら?さすがに王太子殿下の前では失礼だよ。それに…あれでもう何かを言ってくる事はないだろうから」
「いや、私に構わなくていいよ。確かにリア殿の立場から見ればその…笑いたくなる気持ちもわからなくはない」

 苦笑しながら王太子殿下はそう仰いますが…陛下もセザール殿下も身内ですし、さすがにリアさんは笑い過ぎな気がします。セレン様も少し呆れ顔ですが…リアさん、一度笑いのツボに嵌ると暫く抜け出せないそうです。いえ、笑うのはいい事なのですが…さすがに笑い過ぎでしょう…

「アシャルティ殿、本当に申し訳なかった。私からも陛下にはもっときつく進言しよう。それに、皆の安全もだ。勝手に呼び出しておいて、思うようにならないからと排除するのはいくら何でも非道すぎる」
「殿下のお心遣い、痛み入ります」
「すまない、私に力が及ばず…」
「殿下のせいではないでしょう。でも、お互いのためにもこれ以上余計な事は仰らない方がいいとは思いますね。リアたちは人とは違う理の中で生きている。人間の考えを押し付けてもいい結果にはならないでしょう」
「全くその通りだ」

 どうやら王太子殿下は私たちの側に立って考えて下さっているようです。その為セレン様も殿下に対しては少しだけ態度が柔らかいです。殿下は陛下達の様子を見てからまた来ると言って、王宮に戻られました。



「でも、よかったのでしょうか」
「何が?」
「いえ、リアさんの正体をばらしてしまって」

 そうです。人間ではないと相手にわかってしまいましたが、よかったのでしょうか…それこそ悪魔だと言って攻撃してこないか心配なのですが…

「さぁ、どうだろうね」
「セレン様、そんな…」
「でも、そうと知らなければずっとリアを聖女にと言ってくるだろう?リアがそれを聞き流し続けるなんて無理だよ。それに、仮に悪魔だと言って退治しに来たとして…リアが負けると思う?」
「それは…でも、悪魔を葬ったとの言い伝えもあります。だったら何か手が…」
「まぁ、そこは気になるけど、リアやルドが害されるとは思わないね。それよりも…」

 そう言ってセレン様は私に視線を向けましたが…な、何でしょうか…

「一番の心配は、ルネ、君だよ」
「私、ですか?」
「ああ、私やリアに手を出せないからと、君を人質にしようと考える可能性がある」
「まさか…」

 それはいくら何でも考えすぎではないでしょうか。私はもう聖女ではありません。平民の取りに足らない存在です。そりゃあ、セレン様やリアさんは私を気に入ってよくして下さいますが…

「彼らも手がないとなれば、君を人質にして我々を従えようとするかもしれない。私達だって万能じゃないからね。周到に計画をされれば、あるいは…」
「でも、そこは心配ないわよ。ルネにはちゃ~んと護衛を付けているし」
「護衛、ですか?」
「そうよ~私もそうだしルドもね。それに、セレンの術を使えば何とでもなるわ」
「確かにね」

 セレン様もさらりとそう答えられましたが…そこまでする必要はないのではないでしょうか。私にそんな価値があるとは思えないのですが…

「でも、無知だからこそ、斜め上の発想で突っ走りそうだからね。そこが心配なのよ」
「確かにね。だからルナも気を付けて。彼らに呼び出されても、決して付いていかないように」
「でも…」

 さすがに王家の方から呼び出されれば、行かない訳にはいきません。

「だからこそ、私達が常に一緒にいるわ。でも、ルネが気を付けてくれないとどうしようもないからね」
「そう言う事」
「…わかりました」

 う~ん、私なんかを利用しても…そうは思いますが、確かにこの中で一番力がないのは私ですわね。セレン様もリアさんもお優しいので、私を盾にされては断れない可能性もありますし…

「でもまぁ、そんな事をしたら私達の逆鱗に触れるからね。いくら何でもそんなバカな事はしないだろう」

 セレン様はそう仰いましたが…私たちの予想は、残念ながら裏切られる形となるのでした。


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