『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

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休日出勤

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 結婚休暇四日目の今日、私とセレン様は絶賛休日出勤でした。火急な要件があるとジルベール様に呼び出されたのです。ジルベール様の執務室に入ると、既に大公ご夫妻とコーベール公爵、エドガール様にクロード様が集まっていました。着る服がなかったので、急いで仕立て屋を呼んで、とりあえず既製の服を何着か頂いたりと、出仕するだけでも大仕事になりましたが…

「まぁ、ルネ!どうしたのよ?!」
「ええっ?別人になってるんじゃね…」
「これは…セレン殿、どんな魔術を使ったのですか?」

 案の定というべきか、最初に問われたのは私の体型の変化でした。うう、やっぱり目立ちますよね…ここに来るまでも何人もの人に二度見されましたから…女性らしい体型になったとはいえ、数日前とは別人のような変わりようです。しかもそうなった原因が原因なだけに…もう恥ずかしさしかありません。ここにいる皆さんにじろじろ見られるのも居心地が悪すぎます。そしてなぜかセレン様の表情が引き攣っているようで、冷たい空気が漂っているような気もします。





「まぁ、そんな事が…」

 セレン様が渋々ながらも皆さんに説明して下さって、納得といいますか、事情は分かって頂けたようです。それでもその原因を知られた事に居心地が悪すぎるのですが…マリアンヌ様は感嘆の声を上げられましたが…男性陣は何とも表現しがたい表情で、それが一層恥ずかしいのです。

「こんなに綺麗になったルネ嬢を見たら、セザールも悔しがるだろうね。あいつは面食いの上に女性らしい体型を好んだから」
「そうね。今のルネはまさにセザール様の好みそのままよね」

 大公ご夫妻の言葉に、ぴくっとセレン様の眉が反応したように感じました。リアさんの話ではセレン様は、セザール様を抹殺リストの一番に載せるほどに嫌っていらっしゃるそうです。もしセザール様が私に興味を持たれたら…血の雨が降りそうです。いえ、セザール様は身分意識の強い方なので、平民の私に興味を持たれるとは思えませんが…

「何にしても、ルネがこんなに綺麗になって、オレリア様も悔しがるでしょうね」
「ああ、それを言ったらマリアンヌもだよ。王都では地味にしていたけど、ここではそんな必要はないからね」
「まぁ、ジルベール様ったら…」
「本当の事だよ。もう戻る気もないから、これからは私が着飾らせてもらうよ」
「オレリア様は、ご自分が一番美しいと思っていらっしゃるから…」
「きっと今回も、マリアンヌやルネ嬢の事を自分の引き立て役だと思っているだろう。だが、今回はそうはさせないよ」

 ジルベール様の目がキランと光ったような気がしました。ジルベール様、こんなお人だったでしょうか…

「元より私は両親とも弟妹とも一線引かれていたんだ。見た目が両親に似ず美しくなかったからね」
「まさか、そんな事で…」

 確かにジルベール様はセザール様のように目を引く麗しさはありませんが、それでも顔立ちは十分に整っている方ですし、気品ある所作もあって十分に美青年に見えます。

「そんな事で差別するんだよ、彼らは。だから私の妃は見目のいい者を勧めてきたんだ。私としては見た目よりも中身が大事だと思うけどね」

 それは意外な話でしたが、一方で納得でもありました。確かに陛下はジルベール様よりもセザール様やオレリア様に甘かったからです。でもそれは、次期国王としての立場ゆえだと思っていました。まさか見た目が原因だったなんて…

「ジルベール様は昔からマリアンヌ様一筋でしたからねぇ…」

 そうしみじみと言ったのは、ジルベール様の側近で幼馴染でもあるエドガール様です。お二人は軽口を叩くほど仲が良く、気の置けない親友のような関係ですから、昔の事もご存じなのでしょう。聞けば昔から陛下たちはマリアンヌ様はジルベール様に相応しくないといい、邪険にしていたのだとか。その恨みは今でも根強く残っていて、ジルベール様が王太子の地位を退いた一因にもなったそうです。

「知ってますか、セレン殿。こいつはマリアンヌ様を妃にしようと、妃候補を片っ端から潰していったんですよ」
「潰すとは人聞きの悪い。彼らに似合いの相手に縁付けてあげただけだよ」
「なるほど…ジルベール様は随分と情が深いお方なのですね」

 セレン様がにっこり笑ってそう言うと、ジルベール様がニヤッとした笑みを浮かべました。どうやらその言葉通りで、否定されるおつもりは微塵もなさそうです。そして何となくですが、二人が意気投合しているようにも見えるのは、気のせいでしょうか…

「ふふ、オレリアの鼻っ柱をへし折るのは楽しそうだ。ああ、それについての報告なのだが…」

 ジルベール様の報告とは、七日後に到着予定のセザール様達が、予定よりも早くに王都を発ったというものでした。王都からここまでは馬車で十日の距離ですが、どうやら五日も早く出発したそうで、何か企んでいるようにしか思えない、というのがこの場にいる皆さんの共通認識でした。ちなみにその報告は、ジルベール様の部下がセレン様の魔術を使って知らせてくれました。そのこともあって、セレン様と私も呼ばれたのですが…

「彼らは今のところ寄り道せず、真っすぐこちらに向かっているよ」

 ジルベール様がそう告げると、セレン様が不機嫌を隠さずにため息をつかれました。せっかくの休暇を台無しにされてご機嫌斜めのようですが、その原因があのお二人というのが一層怒りに拍車をかけているようです。

「一応ここは独立した公国だし、早くに来られても困るのだけどねぇ」
「一体、どういうつもりでいらっしゃるのやら…」
「全くですわ。自国の視察でもなさってから来るならいいのですが…」
「あの面子ではその可能性は低そうに見えるね」

 コーベール公爵やマリアンヌ様達も、彼らの勝手な振る舞いにはうんざりしているようです。一応バズレールは公国として独立しているので、訪問は日程通りが当然なのですが…

「まぁ、国境に辿り着いても予定と違うと突っぱねては?」
「それも考えたけど…そんな指示に従うあいつらじゃないだろう…」
「じゃ、暫く苦労して頂きましょうか?」

 先ほどから不機嫌を隠しもしないセレン様でしたが、何かを思いついたのか、表情を和らげました。それはそれで何だか薄ら寒い気がします…

「セレン殿、何か策でも?」
「そうですねぇ…通過予定の街道で山が崩れたとかで足止めをして頂く、などどうでしょうか?もしくは大雨で道が水に浸かってしまうと、馬車では移動出来ないでしょうね」

 ジルベール様の問いかけに、セレン様はにっこりと悪戯を思いついた子供のような表情を浮かべられました。しかし…言っている事はとても物騒で危険ではないでしょうか…

「確かにあの二人にはそれくらいのお灸をすえても足りないが…民が困るだろう?」
「ああ、実際にそうするわけではありません。幻術を見せてそう勘違いして頂くのですよ」

 楽しそうにそう提案するセレン様はとってもいい笑顔なのに、何だか黒く見えたのは気のせいでしょうか…

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