『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

文字の大きさ
61 / 71

騒ぎの後

しおりを挟む
 セザール様とオレリア様がいなくなった後、夜会は恙なく終わりました。どうやらジルベール様にはあのお二人の態度は想定内だったらしく、むしろ騒ぎを起こしてくれた事で彼らとフェローの評判を下げるという目的は達成できたとお喜びだったそうです。
 まぁ、マリアンヌ様に聞いた話では、彼らや国王陛下達は、容姿が人並みのジルベール様やマリアンヌ様を長年小馬鹿にしていたそうで、彼らの態度に憤りながらもいずれ王になれば黙らせることが出来ると耐え忍んでいたのだとか。
 そんな中、マリアンヌ様が流産してしまい、お二人は失意の中で過ごしていたのですが、彼らはその時も無神経な言動を繰り返したため、完全に彼らを見限ったそうです。タイミングよくそこにセレン様が現れたため、王国を捨てる決心をされたのだと聞いています。

「これでオレリアは益々婚期が遠ざかるだろう」
「そうですわね、あれだけ人前で騒ぎを、それも驕慢さを露わにしては、縁談を持ち込む者もいないでしょう」
「水面下で打診をしていた話も、今回の件で全て断られたよ」
「まぁ、熱心なお話もありましたのに、残念ですわ」
「見た目だけはいいからな。だが、中身があれでは無理だと言われてしまったよ」

 オレリア様の事をジルベール様とマリアンヌ様は嬉々として話題にされました。フェローの至宝とも謳われたオレリア様でしたが、婚期を過ぎた上に今回の振る舞いですっかりその価値を落としてしまったようです。ジルベール様はよほど腹に据えかねていたのか、こうなって大変楽しそうに見えます。マリアンヌ様を溺愛しているので、これで少しは溜飲が下がったのでしょう。

「いっそ本当に結界を解呪してくれてもよかったのだぞ?」

 ジルベール様がにこやかな表情でさらりと物騒な事を仰って、私は思わずお茶でむせそうになりました。さすがにそれは…マズくないでしょうか…

「それも考えましたが…その前に盛大に恩を売っておくのもありかと思いまして。あれで少なくとも弟君の方は考えを改めたようにも見えましたが?」
「そう、だな…確かにセザールはオレリアと一緒になって騒ぎ立てるかと思っていたが…」
「王太子になって、少しは自覚が出たのではありませんの?」
「いや、どうだか…」

 どうやらジルベール様はセザール様が少しはまともになった、とのマリアンヌ様の見解には否定的でした。

「セザールも信用は出来ないな。あいつが今回大人しかったのは、ルネ嬢に見とれていたからじゃないか?」
「確かに。オレリア様が目立っていてわかり難かったけど、視線はルネにしっかり向かっていましたものね」

 お二人の指摘に、私はあの時感じた視線を思い出しました。話しかけてこなかったので、もう私には興味がないのだと思っていましたが…

「もう結婚しちゃったのですもの。今更ルネに何か言ってくるとは思えないけど…」
「確かに。愚弟がそこまで命知らずだとは思いたくないね」

 大公ご夫妻の会話をセレン様は薄く笑みを浮かべて聞くだけで、話に加わることはありませんでしたが…その笑みに何だか危険なものを感じたのは気のせいでしょうか…私の視線に気づいたセレン様がにこりと甘い笑みを浮かべられました。

「セレン殿にルネ嬢、いちゃつくのは二人の時にしてくれ」
「でしたら、そろそろ帰ってもよろしいでしょうか?こちらは新婚なのですよ」
「ああ、すまない。配慮が足りなかったな。夜会もそろそろお開きだし、帰っていいぞ」
「ありがとうございます」

 一応夜会が終わるまではと思っていましたが、お許しを頂いたので私達はその場を辞しました。今日は遅くなるので大公宮で私達が頂いている部屋に泊まる予定です。部屋に着くと、侍女がオレリア様から手紙が届いていると告げました。何でしょうか…先ほどきっぱり拒否されていましたのに…

「……」

 着替えを済ませて湯あみをしている間に、セレン様はオレリア様からの手紙に目を通していました。私が夜着に着替えて寝室に戻ると、セレン様はソファでワインを手に軽食を頂いていました。

「ルネも食べるだろう?夕方から何も食べていなかったからお腹が空いただろう」
「え、ええ、そうですね」

 そう言えば…ドレスを着る前に少しサンドイッチなどを頂きましたが…それからはほとんど飲まず食わずだったと思い出すと同時に、私のお腹が鳴きました。私はセレン様に促されるまま隣に座ると、セレン様がぴったりとくっついてきました。うう、まだこの体勢には慣れなません…

「それで…オレリア様は、何と…」

 食事を頂きながらも、セレン様が何も仰らないので、私は痺れを切らして手紙の内容を尋ねました。いえ、何となく予想はつくのですが…

「ああ、あまり気分のいいものじゃないからルネには見せたくなかったけど…やっぱり気になる、よね?」
「…ええ」
「ルネと別れて私の夫になれと。まぁ、予想通りだよ。全く、あんな驕慢な女、好かれるのも遠慮したいのだけどね」

 ため息をつきながらセレン様は手紙を私に見せてくれました。そこにははっきりと、私との婚姻を無効にさせるから、自分の夫になってフェローに戻るように。もし自分と結婚すれば公爵位を授けると書いてありました。

「公爵って…」

 フェローでは公爵は王族の分家の位置付で、公爵になっても三代限り、四代目には伯爵位に降爵されるルールです。今は公爵家は八家のみで、次代には五家に減ります。王女は公爵にはなれないので、特例でセレン様を公爵とするとありました。これは特例中の特例ですが…

「馬鹿馬鹿しい。私が公爵位という餌に飛びつくと思われているとはね」
「セレン様、でも…フェローで王族以外が公爵になるのはとても異例です」

 そうです、公爵位と王女との結婚は、普通の男性なら喉から手が出るほどの幸運でしょう。そしてそれにふさわしいものをセレン様はお持ちです。きっとフェローでは誰も反対しないでしょう。そうした方がセレン様にとってはずっといい人生を送れる可能性も高いです。

「だからって、ルネと別れるのが条件だなんて、受け入れられないね」
「セレン様…」
「ルネ、私の全ては貴女だけのものだ。あんな見た目だけの無神経な女など、ルネの足元にも及ばないよ」

 王女殿下、それも周辺国でもフェローの至宝と呼ばれたオレリア様をそんな風に言って大丈夫なのでしょうか…それに、私にはオレリア様のような美貌も教養も品格も身分もありませんのに…

「ルネ、何を考えているか凡その見当はつくけど、貴女は自分が思う以上に価値があるよ」
「そ、そうでしょうか…」

 何でしょう?セレン様の笑顔はそのままですが…何と言いますか、目が笑っていないと言いますか、表現のしようのない圧を感じると言いますか…

「全く、貴女は自分の素晴らしさを全く理解していない」
「え?そ、そんな事は…」
「まぁいい。これからたっぷりと教えて差し上げるよ」

 そういってセレン様に押し倒された私は…恥ずかしさに気を失いたくなるほどの称賛の言葉と甘い攻めを受け、翌日自宅へ戻る際はセレン様に抱きかかえられて運ばれるという、途方もなく恥ずかしい経験をする羽目になったのでした。



 
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

捨てられた私が聖女だったようですね 今さら婚約を申し込まれても、お断りです

木嶋隆太
恋愛
聖女の力を持つ人間は、その凄まじい魔法の力で国の繁栄の手助けを行う。その聖女には、聖女候補の中から一人だけが選ばれる。私もそんな聖女候補だったが、唯一のスラム出身だったため、婚約関係にあった王子にもたいそう嫌われていた。他の聖女候補にいじめられながらも、必死に生き抜いた。そして、聖女の儀式の日。王子がもっとも愛していた女、王子目線で最有力候補だったジャネットは聖女じゃなかった。そして、聖女になったのは私だった。聖女の力を手に入れた私はこれまでの聖女同様国のために……働くわけがないでしょう! 今さら、優しくしたって無駄。私はこの聖女の力で、自由に生きるんだから!

処理中です...