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王子と王女の企み
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「お兄様、どうして私の味方をして下さらなかったのですか?!」
夜会を辞し滞在用の離宮に戻った途端、オレリアが騒ぎ始めた。オレリアが言いたい事はわかっている。夜会でアシャルティが結界を解呪すると言ったのを止めようとしたオレリアを俺が諫めた事を怒っているのだろう。
だが、あの時はああするしかなかったのだ。フェローの結界を解呪されたりしたら、我が国に魔獣が侵入してきてしまう。そうなれば…俺たちだって被を被るのは必須だ
「落ち着けオレリア。仕方ないだろう?もし結界が解呪されたら、俺たちだって危険なんだぞ」
「危険だなんて…私達には護衛の騎士団がいますわ!」
「その騎士団でも、魔獣相手では勝てるかわからないんだぞ?もし強い魔獣が出たらどうする?もしそんなものに襲われたら、俺たちだって…」
「でも、その為の護衛騎士でしょう?彼らが私達を守るのは当然ではありませんか!」
「いくら護衛騎士でも、魔獣相手には無力だ」
「そんなの関係ないわ。彼らが私達を守るのは当然の事でしょう?もしそれで命を失っても、王族を守ったとして名誉な事ではありませんか」
傅かれるのが当然のオレリアには俺の話が通じなかった。王宮から出た事がないから、魔獣の恐ろしさも話でしか聞いた事がないのもあるだろう。王子は十六を迎えると必ず魔獣の恐ろしさを知るために討伐隊に参加する義務がある。だから俺は護衛騎士がどこまで当てに出来るかわからないと知っているが…
「全く、ジルベールお兄様もお兄様よ!セレン様との結婚はお父様のご意志でもあるのに!」
「だが、あの男はお前を望んでいないんだろう?」
「それは…あの小娘がセレン様を誘惑したから…」
「ルネが、ね。あの女にそんな度胸があるとは思えないが…」
「いいえ、あのような女は、弱弱しく見せて取り入るのが上手いのですわ。きっとセレン様にも同情させる様な事を言って…」
忌々しそうに、爪を噛みながらそういう妹は、どうやら本気であの男を手に入れたいらしい。能力が未知数で危険だが、それも味方にできればこれ以上ない戦力になるのは間違いない。それはこの一年、バズレールの様子を見ていれば明らかだ。あんなにも酷かった魔獣の被害が、この半年ほどで激減しているのだ。それもあの男の力故だろう。あの力が手に入れば、我が国がバズレールを支配する事も、それ以上を望むことも可能かもしれない…だが…
「ねぇ、お兄様ったら!」
自分の思考に入り込んでいた俺は、妹の声にはっと我に返った。
「もう、さっきから何度もお呼びしていますのに!」
「ああ、すまない。何だ?」
邪魔をされたのは気に入らないが、そうは言ってもオレリアは可愛い妹だ。怒りをぶつける気にはなれなかった。
「お兄様にお願いがあるの」
「俺に?」
「ええ。あの平民の女を貰って下さらない?」
「は?」
「あの平民、随分見栄えが良くなったじゃない?見た目だけならお兄様の好みでしょう?」
「まぁ、確かに」
「あの女はお兄様に捨てられたから、セレン様に乗り換えたのよ?だったらお兄様が声をかければすぐに戻って来る筈よ。そしてあの女がいなくなればセレン様も私に靡くはず。そうなればフェローも安泰だわ」
オレリアの言葉は、俺の不安を治めるには十分だった。そう、あの男がオレリアの婿になれば、結界は維持されて我が国は安泰だ。俺が即位する以上、結界の維持はどうしても維持したい。それが目に見えぬものであっても、万が一という事もある。それに、代々王家が結界を維持してきたのだから、それなりに意味がある筈なのだ。
(ルネを…か)
久しぶりに見たあの女は、随分と様変わりしていた。あんなに貧相で亡霊のような見た目だったのに、今では肌艶もよくなり、実に美しく官能的な身体付きになった。胸も俺好みの手から零れそうなほどあるし、腰は細く、尻は…ドレスで見えないが胸の豊かさを思えば期待出来そうだ。楚々とした清廉な雰囲気は酷く汚し甲斐があるように見える。あの男の手がついているのは残念だが、慣らしなしで楽しめると思えば悪くない。何も俺の正妃にするわけではないのだ。だったら純潔にこだわる必要もない。
「いいだろう、協力してやるよ、オレリア」
「お兄様、本当に?!」
「構わん、可愛い妹のためだからな」
「大好き、お兄様!」
大人になったとは言っても、まだまだ子供っぽくて可愛い妹の頼みだ。その上で俺も楽しめるのならちょうどいい。ジオネ公爵家のディアナと婚約したが、婚姻が成立するまでは手を出す事は出来ない。ジオネ公爵は娘を溺愛しているし、あの女も嫉妬深いから、他の令嬢や貴婦人と遊ぶのも憚られる。だがルネは平民だし、侍女だとでも言っておけば公爵もディアナも文句は言わないだろう。令嬢相手に出来ない事もあの女なら問題にならないし、あの男を取りこめられれば我が国も安泰だ。それに…
「うふふ、この王家の秘宝の腕輪があれば、セレン様も…」
オレリアが手にしているのは我が王家の秘宝で、古の邪悪な魔術師を封印するために使ったという隷属の腕輪だ。一年前にあの男に使った魔封じのおもちゃとは比べ物にならないほどの力が秘められているという。これをあの男に嵌めれば、死ぬまであの男は俺達には逆らう事は出来ない。そう、今回の訪問はこの腕輪をあの男に嵌めて連れ帰るのが目的なのだ。夜会ではオレリアが感情的になって失敗したが、まだチャンスはあるだろう。
「だがオレリア、既にあちらは俺たちを警戒してしまっている。そう簡単に事が運ぶか?」
「わかっているわ、お兄様。大丈夫よ、ちゃんと策は考えているの」
そういって、悪戯っぽい笑みを浮かべたオレリアは、その策を俺に話して聞かせた。少々強引というか、計画性に欠けるが、自国ではない分、完璧を求めるのは無理というものだ。あの腕輪は主となるべき人間の血を腕輪にある宝珠に一滴垂らし、従わせたい相手の上で嵌めるだけで済むという。そんなに簡単にと思わなくもないが、古文書にはそう記されているのだから大丈夫だろう。それに、失敗してもこちらには特に不利益はないはずだ。
夜会を辞し滞在用の離宮に戻った途端、オレリアが騒ぎ始めた。オレリアが言いたい事はわかっている。夜会でアシャルティが結界を解呪すると言ったのを止めようとしたオレリアを俺が諫めた事を怒っているのだろう。
だが、あの時はああするしかなかったのだ。フェローの結界を解呪されたりしたら、我が国に魔獣が侵入してきてしまう。そうなれば…俺たちだって被を被るのは必須だ
「落ち着けオレリア。仕方ないだろう?もし結界が解呪されたら、俺たちだって危険なんだぞ」
「危険だなんて…私達には護衛の騎士団がいますわ!」
「その騎士団でも、魔獣相手では勝てるかわからないんだぞ?もし強い魔獣が出たらどうする?もしそんなものに襲われたら、俺たちだって…」
「でも、その為の護衛騎士でしょう?彼らが私達を守るのは当然ではありませんか!」
「いくら護衛騎士でも、魔獣相手には無力だ」
「そんなの関係ないわ。彼らが私達を守るのは当然の事でしょう?もしそれで命を失っても、王族を守ったとして名誉な事ではありませんか」
傅かれるのが当然のオレリアには俺の話が通じなかった。王宮から出た事がないから、魔獣の恐ろしさも話でしか聞いた事がないのもあるだろう。王子は十六を迎えると必ず魔獣の恐ろしさを知るために討伐隊に参加する義務がある。だから俺は護衛騎士がどこまで当てに出来るかわからないと知っているが…
「全く、ジルベールお兄様もお兄様よ!セレン様との結婚はお父様のご意志でもあるのに!」
「だが、あの男はお前を望んでいないんだろう?」
「それは…あの小娘がセレン様を誘惑したから…」
「ルネが、ね。あの女にそんな度胸があるとは思えないが…」
「いいえ、あのような女は、弱弱しく見せて取り入るのが上手いのですわ。きっとセレン様にも同情させる様な事を言って…」
忌々しそうに、爪を噛みながらそういう妹は、どうやら本気であの男を手に入れたいらしい。能力が未知数で危険だが、それも味方にできればこれ以上ない戦力になるのは間違いない。それはこの一年、バズレールの様子を見ていれば明らかだ。あんなにも酷かった魔獣の被害が、この半年ほどで激減しているのだ。それもあの男の力故だろう。あの力が手に入れば、我が国がバズレールを支配する事も、それ以上を望むことも可能かもしれない…だが…
「ねぇ、お兄様ったら!」
自分の思考に入り込んでいた俺は、妹の声にはっと我に返った。
「もう、さっきから何度もお呼びしていますのに!」
「ああ、すまない。何だ?」
邪魔をされたのは気に入らないが、そうは言ってもオレリアは可愛い妹だ。怒りをぶつける気にはなれなかった。
「お兄様にお願いがあるの」
「俺に?」
「ええ。あの平民の女を貰って下さらない?」
「は?」
「あの平民、随分見栄えが良くなったじゃない?見た目だけならお兄様の好みでしょう?」
「まぁ、確かに」
「あの女はお兄様に捨てられたから、セレン様に乗り換えたのよ?だったらお兄様が声をかければすぐに戻って来る筈よ。そしてあの女がいなくなればセレン様も私に靡くはず。そうなればフェローも安泰だわ」
オレリアの言葉は、俺の不安を治めるには十分だった。そう、あの男がオレリアの婿になれば、結界は維持されて我が国は安泰だ。俺が即位する以上、結界の維持はどうしても維持したい。それが目に見えぬものであっても、万が一という事もある。それに、代々王家が結界を維持してきたのだから、それなりに意味がある筈なのだ。
(ルネを…か)
久しぶりに見たあの女は、随分と様変わりしていた。あんなに貧相で亡霊のような見た目だったのに、今では肌艶もよくなり、実に美しく官能的な身体付きになった。胸も俺好みの手から零れそうなほどあるし、腰は細く、尻は…ドレスで見えないが胸の豊かさを思えば期待出来そうだ。楚々とした清廉な雰囲気は酷く汚し甲斐があるように見える。あの男の手がついているのは残念だが、慣らしなしで楽しめると思えば悪くない。何も俺の正妃にするわけではないのだ。だったら純潔にこだわる必要もない。
「いいだろう、協力してやるよ、オレリア」
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「うふふ、この王家の秘宝の腕輪があれば、セレン様も…」
オレリアが手にしているのは我が王家の秘宝で、古の邪悪な魔術師を封印するために使ったという隷属の腕輪だ。一年前にあの男に使った魔封じのおもちゃとは比べ物にならないほどの力が秘められているという。これをあの男に嵌めれば、死ぬまであの男は俺達には逆らう事は出来ない。そう、今回の訪問はこの腕輪をあの男に嵌めて連れ帰るのが目的なのだ。夜会ではオレリアが感情的になって失敗したが、まだチャンスはあるだろう。
「だがオレリア、既にあちらは俺たちを警戒してしまっている。そう簡単に事が運ぶか?」
「わかっているわ、お兄様。大丈夫よ、ちゃんと策は考えているの」
そういって、悪戯っぽい笑みを浮かべたオレリアは、その策を俺に話して聞かせた。少々強引というか、計画性に欠けるが、自国ではない分、完璧を求めるのは無理というものだ。あの腕輪は主となるべき人間の血を腕輪にある宝珠に一滴垂らし、従わせたい相手の上で嵌めるだけで済むという。そんなに簡単にと思わなくもないが、古文書にはそう記されているのだから大丈夫だろう。それに、失敗してもこちらには特に不利益はないはずだ。
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