『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

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贈られた腕輪

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 夜会の後、私達はまた休暇に入りました。オレリア様がセレン様を全く諦めていないことがはっきりしたので、彼らが滞在中は大公宮に近づかない方がいいだろう、とジルベール様が配慮して下さったのです。それをセレン様は新婚休暇だと嬉々として受け入れたので、私は今、自宅でレリアやリアさん達と一緒に過ごしています。

 セレン様のバズレールでの主なお役目は結界や魔獣退治絡みなので、他国の王族の歓待は実のところ無関係なのです。セレン様が子爵位を受けたのも、子爵なら王族と直接会う立場ではないという理由からで、もしこれが伯爵位だったら辞退したのだとか。今回はフェローでしたが、セレン様を我が国に…と考える国は他にも出てくる可能性は高いので、そういう意味でも子爵位のまま表に出ないようにするのだそうです。
 そうは言っても…子爵位なら他国の王族に強要されたら拒めないのでは…と思いましたが、子爵位を授けたのはジルベール様で、セレン様はジルベール様の許可がなければ何も出来ません。少なくともジルベール様が裏切らない限りは問題がないそうです。

 そのジルベール様は陛下をはじめとする家族を苦々しく思っていたので、今更国に戻りたいとは思っていらっしゃらないのだとか。今はここでマリアンヌ様共々伸び伸びとお暮しで、厳しい事も多いですが精神的にはすごく楽なのだそうです。こんなにも嫌悪感を持たれるなんて…一体、陛下達はジルベール様達をどんな風に扱われていらっしゃったのでしょうか…何となく見当は付きますが、頭の痛い事です。




「ええ?ジルベール様から?」

 休暇も残り二日、あのフェローのお二人の帰国が二日後に迫ったその日、大公宮の文官がジルベール様からだと言って包みを持って現れました。届けに来た文官はセレン様が中身を受け取るのを見届けてくるように言われていると言うので、仕方なく応接室に通しました。この屋敷はリアさん達もいるので人を呼ぶことは滅多にないのですが、ジルベール様のお使いだと言われれば通さないわけにもいきません。

「一体どのようなご用件で?」
「これをセレン殿にお渡しするようにと。中身を確認頂いてから帰るように申し付かっております。どうかご確認を」

 応接室に通した文官を前にセレン様が尋ねると、文官は手にしていた箱をセレン様の前に置きました。片手に乗るほどの箱ですが、一体何だというのでしょうか…ジルベール様とは休暇中にも手紙などでやり取りをしていますが、どうやらこの箱の話は聞いていない様で、セレン様が訝し気に眉を顰めました。

「これは?」
「私も中身までは存じておりませんので」

 文官はただ持っていくようにとだけ命じられたそうです。何でしょうか、細かい細工がされた立派な箱ですが、何だか嫌な感じがして思わずセレン様を見上げると、セレン様は私の視線に気づいてくれました。私の言いたい事をわかってくださったのか、はたまた同じように感じていらっしゃるのかわかりませんが、小さく頷かれました。どうやらセレン様も何かを感じていらっしゃるようです。

「それじゃ、失礼するよ」

 そう言ってセレン様が箱を開けると…その中には細かい装飾が施された、でもどこか古さを感じさせる腕輪が入っていました。銀色の地に一際目につくのは腕輪の真ん中にある黒々とした石で、艶々と黒光りしています。それ以外にも細かい宝石が細工されていて、見るからに高価そうですが…何でしょうか、とても素晴らしい品なのでしょうが、素直に綺麗とは思えません。

「これは?」
「私には何とも。中身が何かまでは知らされておりませんので」
「なるほど。それで、ジルベール様はこれを私にどうしろと?」
「それに関しても私は何も。単にジルベール様からの贈り物なのでは?」
「…なるほど。わかった。では、ジルベール様に良い物をありがとうございますとお伝え下さい。要件は以上ですか?」
「は、はい。では、確かにお渡しいたしましたので、失礼致します」

 セレン様が受け取ると、その文官は名残惜しそうな視線を残しながらも帰っていきました。一体この腕輪はどういう事なのでしょうか。ジルベール様ならセレン様に直接お渡しするでしょうに。

「セレン様、綺麗な腕輪ですわね」
「ああ。だけど、ルナは気が付いたんだろう?」
「気付いたと言いますか…素晴らしいお品だとは思うのですけど…何と言いますか、素直に綺麗だと思えなくて…」
「なるほどね」
「あの、セレン様…その腕輪が何か?」

 何となくセレン様の言い方に含みを感じ気になった私が尋ねると、セレン様は悪戯っぽい笑みを浮かべました。

「多分これは、ジルベール様からではないだろうね」
「ええっ?でも、あのお使者は…」
「ジルベール様の名を語った偽物だろうね。ジルベール殿とは数刻前に手紙を交わしたが、この腕輪の事は話題にもなっていない」
「でも、サプライズとか?」
「あのジルベール様がそんな事をすると思う?渡すなら自らの手で渡すだろうよ。それにこのデザインは彼の趣味じゃない。彼ならもっとシンプルな品を選ぶだろうね」

 確かにジルベール様はあまりゴテゴテした物はお好きではありませんわね。マリアンヌ様のドレスを選ぶにしても、シンプルで品のあるものを選ばれますし、ご自身が身に着ける物もそうです。

「…それに…この石からは何らかの力を感じる。あまりいい意味ではなく、ね」
「…それって、もしかして魔術が?」
「断定はできないけど、そうだろうね」
「そんな…一体誰が、何のために…」
「それを今探らせるよ」
「探らせるって…」
「ほら、これでね」

 そう言ってセレン様が指を鳴らすと、小鳥が一羽、現れました。

「セレン様、この鳥は…」
「ああ、私の魔術で作った鳥だよ。さ、あの文官の後を追っておくれ」

 セレン様がそう言うと、小鳥は窓から飛び出てしまいました。あっという間の事で私が呆気にとられていると、セレン様があれは諜報用に使うものなのだと教えてくれました。元の世界ではよく使われる手ですが、相手がセレン様よりも上の魔術師だとばれてしまうのだとか。ただ、こちらの世界ではそのような力を持つ人はいないので、相手を探るのにちょうどいいのだそうです。

「直ぐに送り主がわかるだろう。その目的もね」

 そう言ってセレン様が悪戯っぽい笑みをさらに深めましたが…セレン様の仰る通り、送り主とその目的は直ぐに判明しました。



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