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杜撰すぎる計画
さすがにこれ以上異母弟の醜態を晒すのは憚られる。そう思いながら父に視線を向けると、目が合った父はディアークに向けて微かに顎をしゃくった。この場を収めろと言いたいのだろう。父がその気なら仕方がない。私は彼らの間に進み出た。あまりにも浅慮な言動は、王家にとって瑕疵にしかなり得ないからだ。
「ディアーク、それでは話にならないな」
「あ、姉上……」
さすがに私が間に入ると、三人はあからさまに怯んだ。彼らは二人を断罪すればいいと思っていたが、私が出てくると想定していなかったらしい。
「この場を汚すなと、父上、いや、国王陛下に言われたのを忘れたのか?」
「そ、それは……」
「そもそも、お前たちがしていることはどうなのだ?」
「ど、どういうことですか?」
「国が認めた婚約者をエスコートせず、婚約者でもない令嬢を伴うとはどういう事だ? 婚約は家同士が決めた重要な契約であり王の承認があってのもの。それを疎かにしている自覚はあるのか?」
「そ、それは……」
ここから説明しなければならないとは思わなかったが、もうこんな茶番は一刻も早く終わらせるべきだろう。
「しかも公明正大を掲げる王族に生まれながら、片方の証言だけを用いて断罪するとはどういうことだ? その様な世迷言が通じると本気で思っているのか?」
そんなことがまかり通れば、王家は終わりだ。独裁は最も忌避されるべきことなのだ。
「し、しかしミリーは……」
「ああ、それと公のこの場で、婚約者の前で、婚約者以外の令嬢を相性で呼ぶとはどういう了見だ?」
「あ……」
反論しようとしたディアークだったが、それ以上声が出てこなかった。他の二人も同じだ。
「あ、あの……ディアーク様たちは間違っていませんわ! 皆さん、私のことを心配してくれて……それで……」
意外にもこの場で果敢にも発言したのはミリセント嬢だった。勇気があるのか考えなしなのかは判断がつかないが、はっきりしていることがある。
「どこの令嬢かは知らぬが、そなたに発言を許した覚えはない。どのような権限で私たちの会話に口を挟むのか?」
挨拶も交わしていない以上、現時点では彼女は『知らない令嬢』でしかない。そんな彼女の言葉に耳を傾ける必要はないだろう。
「え? あ、だって……」
「上の者の許しなく発言するのはマナー違反。王族相手であれば不敬罪にも問われるが、そなたはマナーを学んでいなかったのか?」
「え? だ、だって……」
「ここはマナーと一般常識を学び、成人として認められた者のみに許された場だ。そんな基本的なことも理解していないとは、本当に学園を卒業したのか?」
暗にこの場にいる資格はないと言うと、彼女ははらはらと涙を流した。それを見てディアークたちが慌てて彼女に声をかけたが、周囲の彼らへの視線は冷たいままだった。なんせ私の言っていることはマナーの初歩の初歩、七歳児なら既に理解しているレベルのものなのだ。
「泣いて許されるのは初等科に入学前の子どもだけだ。相応の振る舞いが出来ないのであればこの場を去るがいい」
「姉上! 言いすぎです!」
「アリーセ様、言葉が過ぎますぞ!」
ディアークが怒気を込めて声を上げるとローリングがそれに続いた。憎々しげに私を睨みつけるが、それで怯む私でもない。
「ローリング卿、言葉が過ぎるのはどちらだ? そもそもそなたは私の婚約者候補の一人。なぜそこにいる?」
「な! こ、これは……」
「最近は交流会にも顔を出さなかったな。他の令嬢と懇ろになりたいならその前にすべきことがあるのではないか?」
「……っ! そ、それは……」
「こちらから望んだ話ではなかったが? それとも、王族の婚約者候補はそんなにも軽いものだったのか?」
事ある毎に男尊女卑の発言を繰り返す彼に辟易していただけに、これくらい言っても罰は当たらないだろう。筋を通さない方が悪いのだ。
「それまでだ」
彼らが何も言い返せなくなって沈黙が暫く会場内を支配したが、それを割ったのは父上だった。
「ディアークよ」
「は、はい……」
「そなたはわしの言葉が理解出来なかったか?」
「ち、父上? 何を……」
急に父に名指しされたディアークが動揺を露わにした。
「最初に言っただろう? この晴れの舞台を汚すなと」
「そ、しれは……!」
「どうやらそんな些細なことも守れぬようだな。であれば仕方がない。そなたの立太子は取りやめとする」
決して大きくはなかったが、父の声は会場内に無言の悲鳴をもたらしたように感じた。
「ディアーク、それでは話にならないな」
「あ、姉上……」
さすがに私が間に入ると、三人はあからさまに怯んだ。彼らは二人を断罪すればいいと思っていたが、私が出てくると想定していなかったらしい。
「この場を汚すなと、父上、いや、国王陛下に言われたのを忘れたのか?」
「そ、それは……」
「そもそも、お前たちがしていることはどうなのだ?」
「ど、どういうことですか?」
「国が認めた婚約者をエスコートせず、婚約者でもない令嬢を伴うとはどういう事だ? 婚約は家同士が決めた重要な契約であり王の承認があってのもの。それを疎かにしている自覚はあるのか?」
「そ、それは……」
ここから説明しなければならないとは思わなかったが、もうこんな茶番は一刻も早く終わらせるべきだろう。
「しかも公明正大を掲げる王族に生まれながら、片方の証言だけを用いて断罪するとはどういうことだ? その様な世迷言が通じると本気で思っているのか?」
そんなことがまかり通れば、王家は終わりだ。独裁は最も忌避されるべきことなのだ。
「し、しかしミリーは……」
「ああ、それと公のこの場で、婚約者の前で、婚約者以外の令嬢を相性で呼ぶとはどういう了見だ?」
「あ……」
反論しようとしたディアークだったが、それ以上声が出てこなかった。他の二人も同じだ。
「あ、あの……ディアーク様たちは間違っていませんわ! 皆さん、私のことを心配してくれて……それで……」
意外にもこの場で果敢にも発言したのはミリセント嬢だった。勇気があるのか考えなしなのかは判断がつかないが、はっきりしていることがある。
「どこの令嬢かは知らぬが、そなたに発言を許した覚えはない。どのような権限で私たちの会話に口を挟むのか?」
挨拶も交わしていない以上、現時点では彼女は『知らない令嬢』でしかない。そんな彼女の言葉に耳を傾ける必要はないだろう。
「え? あ、だって……」
「上の者の許しなく発言するのはマナー違反。王族相手であれば不敬罪にも問われるが、そなたはマナーを学んでいなかったのか?」
「え? だ、だって……」
「ここはマナーと一般常識を学び、成人として認められた者のみに許された場だ。そんな基本的なことも理解していないとは、本当に学園を卒業したのか?」
暗にこの場にいる資格はないと言うと、彼女ははらはらと涙を流した。それを見てディアークたちが慌てて彼女に声をかけたが、周囲の彼らへの視線は冷たいままだった。なんせ私の言っていることはマナーの初歩の初歩、七歳児なら既に理解しているレベルのものなのだ。
「泣いて許されるのは初等科に入学前の子どもだけだ。相応の振る舞いが出来ないのであればこの場を去るがいい」
「姉上! 言いすぎです!」
「アリーセ様、言葉が過ぎますぞ!」
ディアークが怒気を込めて声を上げるとローリングがそれに続いた。憎々しげに私を睨みつけるが、それで怯む私でもない。
「ローリング卿、言葉が過ぎるのはどちらだ? そもそもそなたは私の婚約者候補の一人。なぜそこにいる?」
「な! こ、これは……」
「最近は交流会にも顔を出さなかったな。他の令嬢と懇ろになりたいならその前にすべきことがあるのではないか?」
「……っ! そ、それは……」
「こちらから望んだ話ではなかったが? それとも、王族の婚約者候補はそんなにも軽いものだったのか?」
事ある毎に男尊女卑の発言を繰り返す彼に辟易していただけに、これくらい言っても罰は当たらないだろう。筋を通さない方が悪いのだ。
「それまでだ」
彼らが何も言い返せなくなって沈黙が暫く会場内を支配したが、それを割ったのは父上だった。
「ディアークよ」
「は、はい……」
「そなたはわしの言葉が理解出来なかったか?」
「ち、父上? 何を……」
急に父に名指しされたディアークが動揺を露わにした。
「最初に言っただろう? この晴れの舞台を汚すなと」
「そ、しれは……!」
「どうやらそんな些細なことも守れぬようだな。であれば仕方がない。そなたの立太子は取りやめとする」
決して大きくはなかったが、父の声は会場内に無言の悲鳴をもたらしたように感じた。
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