【完結】婚約破棄してやると言われたので迎え撃つことにした

灰銀猫

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五大公爵家の意向

 父の宣言に誰もが動揺しながらも、父の圧に声を上げることが出来ずにいた。それもそうだろう、既に決定していたディアークの立太子を取り消すというのだから。
 母上も珍しく驚きの表情を浮かべ、側妃は両手を口元に当てて目を見開いていた。悲鳴を抑えるだけで精一杯だったろう。

「な! ち、父上、どうしてですか!」
「わしが認めた契約を勝手に破棄しただろう? そなたは契約の重みが理解出来ぬと自ら証明した。王族にとって、いや、貴族にとって契約は命と同じくらいに重いものだ。それがわからぬのであれば当然のことだ」

 淡々と告げる父の言葉に、ディアークが目に見えて蒼白になっていった。それは彼の周りにいる者も同じだった。イーゴンはまだ状況が消化しきれないのか口を開けたまま父を見上げ、ローリングは両手を握りしめているが小刻みに震えているように見えた。そんな三人に囲まれたミリセント嬢も呆然とした表情を浮かべていた。

「ディアークは今をもって廃嫡とする。次期国王はアリーセを指名する」

 父上の声に会場が静かに揺れた。

「ア、アリーセ様が……次期国王に?」
「しかし、今まで女王は……」
「だが、ディアーク様ではさすがに不安だ……」

 父上の宣言に、あちこちから戸惑いや驚きの声が上がった。卒業したばかりで立太子直前だった王子を廃嫡にしたのだ。動揺するなという方が難しいだろう。

「父上! これくらいのことで大袈裟ではありませんか!」
「それが理解出来ぬから、廃嫡せざるを得ないのだ」

 どうやらディアークにとっては大したことではなかったらしい。だが、側妃すらも異を唱えなえなかった。彼女は十分に事の重要性を理解しているのだろう。なのにどうしてディアークは出来なかったのか不思議だった。

「このままそなたが即位したとして、その後どうなるのかわかっているのか?」
「どうって……特に問題は……」
「誰がそなたを支えるのだ?」
「え? それは……」
「そなたはたった今、エーデルマンの支持を失った。そんなお前を正妃の実家のリーベルトは支持しないだろう。五大公爵家の誰がお前を支えるのだ?」
「誰って……」

 そこまで言われて、ディアークはようやく事の大きさに気付いたらしい。

「五大公爵家の一家でも、お前を支持すると言う家があるのか?」
「そ、それは……あ、あります!」
「ほう? どこだ」
「ザ、ザックス公爵家がいます! カスパーは私の側近で……」
「そのカスパーを見限ったと聞いたが? ザックス公爵からはカスパーはアリーセの側近を望んでいると聞いている」
「あ、姉上の側近に?!」

 ディアークはその件は知らなかったらしい。目を見開き驚きの表情で私を凝視した。だが、それも当然だろう。カスパーとザックス公爵家にとっては理不尽極まりない扱いだったのだから。

「ほ、本当なのですか、姉上?」
「ああ。その様な申し出は確かにあったな。まだ受けるかどうかは保留にしているが」
「で、では! 父上! カスパーを側近に戻します。それだったら……!」
「お断りします」

 光明を得たと言わんばかりのディアークだったが、その希望はあっさりと潰えた。拒絶の言葉を発したのは、カスパー本人だったからだ。その後ろには公爵夫妻の姿も見えた。

「殿下の行いを何度もお諫めしましたが、それを汲まれなかったのは殿下です。その様な方にお仕えするつもりはございません」
「何だと!」
「我がザックス公爵家はアリーセ様の即位を支持致します」
「な……!」

 きっぱりとカスパーがそう告げ、その後ろで公爵夫妻も頷いていた。彼の家はディアークを完全に見限ったのだ。

「我がエーデルマンもです。アリーセ様の即位を支持致します」
「当然ながらリーベルトもだ」

 カスパーの宣言に、他の二家も追従した。これで三公爵家が私の支持に回ったことになる。これまでも三家の指示を得た王は盤石な治世だったと言われていて、言い方を変えれば三家の支持を得られれば王に付くことが可能だ。

「そ、そんな……カスパー、どうしてだ? お前は私の側近だったろう?」
「確かにそのような時期もありました。ですが私の忠告を余計なお世話だと切り捨てられたのは殿下です」
「あ、あれはミリーのことを悪く言うから……」

 ディアークは尚も追いすがろうとした。こうなったらカスパーだけでも取り戻さなければと思っているのだろう。

「悪くなど言っておりません。私は事実を申し上げただけです。ミリセント嬢が殿下以外の令息とも懇ろだったのは周知の事実でしたから」
「ね、懇ろだなんて……私はただ、皆さんと仲良くしただけで……」
「それが異常だったのですよ」
「そんな……」

 ミリセント嬢は納得できないと言わんばかりの表情だったが、カスパーはもうミリセント嬢への興味は残っていなかったらしい。徐に父の方に向き合った。

「陛下、この場で確認したい事がございます」
「何だ?」
「今回の件で、ディアーク様、イーゴン卿の婚約は破棄というとこでよろしいでしょうか? ああ、あとローリング卿の婚約者候補もです」

 カスパーの問いかけを受けて、会場内の視線が父に集まった。
 


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