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新しい職場
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第一騎士団に移動してから二月が経った。あの頃はまだ肌寒い季節だったけれど、季節は夏に向かって徐々に暑さをはらむ様になってきた。
「エリアーヌさん、凄いです!ありがとうございます」
天敵の執務室でキラキラした目で私を見つめて褒めてくれたのは、私と同じ副団長付きのエミール=ローラン公爵令息だった。彼は花の二十歳で柔らかそうな金の髪と澄み切った水色の瞳を持つ、ベビーフェイスのイケメンだ。私の好みとは外れるけれど、弟のリアムを彷彿させる彼はこの職場における私の癒しになった。性格も素直で一生懸命で、そんな姿は子犬のようでもある。
まだ文官になって二年目の彼は不慣れな部分もあって、何かある度に私のところにやってきてアドバイスを求めた。そして教える度にこうして喜んでお礼を言ってくれるのだから、可愛いと思わない理由がない。素直で可愛いイケメンは何でも許せちゃうのは当然と言えよう。
「この書類は王宮で処理されるから、書き方に注意が必要なの。こことここをきちんと書き込んでおかないと、却下されるか戻されちゃうのよ」
「そうなんですか。前に却下された事があって、何でだろうと思っていたんですけど…ここを適当に書いていたからなんですね」
「多分ね。あっちではこことここ、それからここを特に見ていたわ。だから、この三か所を抑えれば逆に通りやすくなるとも言えるわね」
「そうなんですか!勉強になります」
意外にも、会計監査局で得た知識がここでも大いに役立っていた。と言うのも、騎士団の文書の四分の一程度は会計監査局で決済されていたからだ。騎士団内の文章は騎士団の中で片付くが、団長や副団長ともなれば王宮への申請書がその大半を占める。その中の半分は元の職場に上がっていたのだ。
「おい、いるか?ミュッセ、これやっとけ」
エミール様との癒し会話を楽しんでいたところに乱入してきたのは、団長の補佐をしているセザール=アルノワ侯爵令息だった。侯爵家の三男で年は私の三歳年上だから、一応先輩にあたる。でも騎士団に異動してきたのは一年ほど前で、職歴で言えばエミール様の方が長かったりするのだけど…なんでも前の職場は宰相府だったそうで、それを鼻にかけて偉そうなのだ。そして、何かと私に仕事を振って来る。
「セザール様、それ団長の仕事でしょう?エリアーヌ様にやらせるのはルール違反ですよ」
すかさずエミール様が窘めてくれた。彼は公爵家の出で身分的には彼の方が上だし、職歴も長い。それに文官内のルールを破る事にいい顔をしない真面目さも持っていた。そんなところもまさに天使と呼ぶに相応しいのよね。
「…っ。こ、これはそういうんじゃねぇよ。急ぎだって言うし、俺はこれから会議なんだ」
「会議?あれ、そんな予定ありましたっけ?」
「煩い!あるんだよ」
そう言うとアルノワ令息は部屋を出て行ってしまった。会議の話は嘘なのかもしれない。
「またサボる気なのかな?全く、もう少し真面目にして貰わないと困るんだけど…」
「困りましたね。でも、大した書類じゃないからいいですよ。急ぎなら団長がお困りになるでしょうし」
「もう!エリアーヌ様は優し過ぎです!この前だって、エリアーヌ様が考えた書式統一の提案、自分が考えたって団長に言ってたんですよ。腹が立ったからあれはエリアーヌ様が考えたんだって言っておきましたけど」
こんな風にエミール様が私の代わりに怒ってくれたのが嬉しかった。確かにアルノワ殿は私の提案をさも自分がしたように団長に報告して、それをエミール様がそれを団長に訂正すると言うのが最近続いている。団長も馬鹿じゃなないし、不正を嫌う清廉なお人柄だから、アルノワ殿の戯言に気付いてくれている筈だ。何を言っても、書類の筆跡を見ればわかってしまうのだから。
「エリアーヌさん、凄いです!ありがとうございます」
天敵の執務室でキラキラした目で私を見つめて褒めてくれたのは、私と同じ副団長付きのエミール=ローラン公爵令息だった。彼は花の二十歳で柔らかそうな金の髪と澄み切った水色の瞳を持つ、ベビーフェイスのイケメンだ。私の好みとは外れるけれど、弟のリアムを彷彿させる彼はこの職場における私の癒しになった。性格も素直で一生懸命で、そんな姿は子犬のようでもある。
まだ文官になって二年目の彼は不慣れな部分もあって、何かある度に私のところにやってきてアドバイスを求めた。そして教える度にこうして喜んでお礼を言ってくれるのだから、可愛いと思わない理由がない。素直で可愛いイケメンは何でも許せちゃうのは当然と言えよう。
「この書類は王宮で処理されるから、書き方に注意が必要なの。こことここをきちんと書き込んでおかないと、却下されるか戻されちゃうのよ」
「そうなんですか。前に却下された事があって、何でだろうと思っていたんですけど…ここを適当に書いていたからなんですね」
「多分ね。あっちではこことここ、それからここを特に見ていたわ。だから、この三か所を抑えれば逆に通りやすくなるとも言えるわね」
「そうなんですか!勉強になります」
意外にも、会計監査局で得た知識がここでも大いに役立っていた。と言うのも、騎士団の文書の四分の一程度は会計監査局で決済されていたからだ。騎士団内の文章は騎士団の中で片付くが、団長や副団長ともなれば王宮への申請書がその大半を占める。その中の半分は元の職場に上がっていたのだ。
「おい、いるか?ミュッセ、これやっとけ」
エミール様との癒し会話を楽しんでいたところに乱入してきたのは、団長の補佐をしているセザール=アルノワ侯爵令息だった。侯爵家の三男で年は私の三歳年上だから、一応先輩にあたる。でも騎士団に異動してきたのは一年ほど前で、職歴で言えばエミール様の方が長かったりするのだけど…なんでも前の職場は宰相府だったそうで、それを鼻にかけて偉そうなのだ。そして、何かと私に仕事を振って来る。
「セザール様、それ団長の仕事でしょう?エリアーヌ様にやらせるのはルール違反ですよ」
すかさずエミール様が窘めてくれた。彼は公爵家の出で身分的には彼の方が上だし、職歴も長い。それに文官内のルールを破る事にいい顔をしない真面目さも持っていた。そんなところもまさに天使と呼ぶに相応しいのよね。
「…っ。こ、これはそういうんじゃねぇよ。急ぎだって言うし、俺はこれから会議なんだ」
「会議?あれ、そんな予定ありましたっけ?」
「煩い!あるんだよ」
そう言うとアルノワ令息は部屋を出て行ってしまった。会議の話は嘘なのかもしれない。
「またサボる気なのかな?全く、もう少し真面目にして貰わないと困るんだけど…」
「困りましたね。でも、大した書類じゃないからいいですよ。急ぎなら団長がお困りになるでしょうし」
「もう!エリアーヌ様は優し過ぎです!この前だって、エリアーヌ様が考えた書式統一の提案、自分が考えたって団長に言ってたんですよ。腹が立ったからあれはエリアーヌ様が考えたんだって言っておきましたけど」
こんな風にエミール様が私の代わりに怒ってくれたのが嬉しかった。確かにアルノワ殿は私の提案をさも自分がしたように団長に報告して、それをエミール様がそれを団長に訂正すると言うのが最近続いている。団長も馬鹿じゃなないし、不正を嫌う清廉なお人柄だから、アルノワ殿の戯言に気付いてくれている筈だ。何を言っても、書類の筆跡を見ればわかってしまうのだから。
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