【完結】一夜を共にしたからって結婚なんかしませんから!

灰銀猫

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愛しの婚約者~アレクSide

 それからの俺は、持てる力の全てを使ってエリーを囲い込むことに専念した。エリーの身が心配なのもあったが、周りから早く囲い込んで逃げられないようにしておかないと、またスキを見つけて逃げ出すと言われたからだ。そして、その言葉を否定できる材料がなかった。
 真面目で堅物でどんくさいのに、俺からの逃げ足だけは速いのがエリーだ。酔った時にも思ったけれど、こいつは猫みたいだと思う。理屈面でも物理面でもスキが無いか、抜かりのないように囲い込んだ。場合によっては女性陣の押しの強さを借り、クラリス嬢にも協力を頼んで、逃げそうになるエリーを確保し続けた。
 その甲斐あって、一月後には大々的に婚約を発表し、その後は王子妃教育と称して王宮に囲った。逃げられないためでもあるし、安全を考慮してでもある。次期王太子妃として目立ってしまった以上、外に出せば容易に狙われる。これからは側に置いて徹底的に守る事にした。んだけど……

「騎士団の引継ぎが出来ていない」
「はぁ?」
「エミール様一人じゃ、どう考えても無理だわ」

 エリーの口から出たのは、まさかの前職への懸念だった。俺と騎士団長二人分の専属文官として多忙な日々を送っている最中で王宮に連れてきたが、落ち着いてくると仕事の心配を始めたのだ。真面目な王太子妃で何よりだが、今更騎士団に戻すわけにもいかない。こうなった以上、男ばかりのあそこにエリーを置くなど、絶対に無理だ。エリーからエミールの名前が出るのも面白くない。
 騎士団にはエミールがいるし、彼だって優秀だ。少々苦労は掛けるが、会計監査局の人員不足を知った兄が増員をしたところだったので、二人をエミールの元に遣った。文官の専門家二人もいれば、引継ぎはどうにでもなるだろうし、どうにかさせるしかない。とにかくエリーを王宮から出すわけにはいかないのだ。
 命令すればエリーは否やとは言えないが、出来ればそんなことはしたくない。絶対恭順のあの術は精神を病むこともあるだけに、些細なことだって命じたくなかった。



 エリーとの婚約式の後の披露パーティーは見物だった。

「文官風情が次期王太子妃だなんて……」
「貧乏伯爵家の出で、しかも小太りの地味女って話じゃない」
「ええ?以前夜会に出た時は、中々の美女だったぞ」
「まさか! でも騎士団では……」
「マルスリーヌ殿の娘か。どんな令嬢か楽しみだな」

 貴族共がエリーのことを好き勝手噂しているのは知っていた。まぁ、周りの雑音に負ける様な軟な女じゃないし、本来のエリーは美人な上にスタイル抜群だ。しかも王宮で機密を扱う会計監査局にいた才女なのだ。その辺のお洒落と恋愛にしか興味のない女共に負ける筈もない。

「ええっ!? あれが?」
「誰だよ、太っているって言ったのは……」
「滅茶苦茶美人じゃないか!」

 俺がエスコートしたエリーは、今日もマーメイドラインのドレス姿が最高に似合っていた。俺の瞳の色と同じ深みのある青に金と白の刺繍を施したドレスは、露出は少ないが身体の線が綺麗に出て上品なのに艶めかしい。この一月近く、王宮の美容部隊に磨き上げられた彼女は、髪も肌も艶々で誰よりも美しく見えた。
 俺を狙っていた女どもは一様に下を向き、男どもは食い入るように彼女を見つめていた。美しい彼女を自慢出来るのは楽しいが、男どもの不躾な視線は腹立たしい。静かに睨みつけて牽制した。

「アレク?」

 俺が険しい表情をしたせいか、彼女が小首をかしげて俺を見上げた。

(おい! そんな表情するなよ……!)

 可愛すぎて身体に熱が走ったのは俺のせいではないだろう。こいつが悪い、誰が何と言おうとも、だ。

「アレク、むやみやたらと魔力を飛ばすな。寒くなるだろうが」
「殿下、冷気駄々洩れですよ……」

 兄とサロモンがそう言って苦笑していたが、知ったことではなかった。こういうことは最初が大事なのだ。余裕がないなぁと笑ったが、当り前だ。やっと捕まえた彼女をここで逃がすわけにはいかない。そんなことになったら、連れ戻すだけだ。そのためにこの国がどうなろうと知ったことではない。
 この夜会で俺はエリーを囲い込み、手を出そうとする輩に十分な牽制を与えた。今になってわかったが、俺は独占欲が強いというか、執着心が強い、らしい。兄がそう言うのだからそうなのだろう。
 だが、子どもが出来ない俺にとってもエリーにとっても、それが障害になるとは思えない。子どもが出来ない分も存分にエリーを愛し倒すつもりだし、エリーも文句を言いながらもまんざらでもなさそうだから。そう思えたのは、あの女がフランクールから来るまでの間だった。



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