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一章 異世界へようこそ 新たな人生の幕開け

1-1 生まれる前の準備 ②

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 僕の手をそっと掴んできた相棒を僕が見つめると不安そうな表情を浮かべていたので、僕はどうしたのか訊ねる。

すると...

《私達...生まれてもいいのかなぁ??怖いよぉ~。》

相棒がそう言って目を潤ませる。
何が怖いのだろうかと思っていると外から"冷たい声"が聞こえてきた。

(この声は...あ...おばあちゃんか...。)

外から聞こえてきた冷たい声の主は祖母にあたる人の声だった。
口調がツンケンしているから冷たく聞こえるが、この程度は冷たいとは僕は思わない。

(本当に冷たい人間の声色はこんなもんじゃないからなぁー...。)

僕は外の声を聞きながら昔...あの鬼の様な姉達が僕に投げかけてきた言葉の数々を思い出してしまった。

あれこそ本当に冷たい声だと僕は思う。人を人と思わぬ物言い...それにあの冷たい目線が加わったら...。

思わず僕は遠い目をしてしまった。
すると...僕の手を握っていた手の強さが強くなるのと同時に抱きついてきた。

思わず驚く僕。
すると...

《大丈夫よ!お姉ちゃんがいるから!どんな悪い奴でもお姉ちゃんが守ってるからね!》

先ほどまで怖いと目を潤ませていた相棒なのに...。
僕はそんな相棒に優しく抱きついて声をかける。

(大丈夫。あのね、あれは"冷たい声"じゃないよ。怖くない。あの声は僕達と僕達のお母さんの事を心配している声だよ。だから怖くない。)

《えっ?そうなの?》

相棒はゆっくり僕から離れて問いかけてくる。
僕は相棒の顔を優しく見つめながら言葉を続ける。

(本当に"冷たい声"っていうのは心まで凍るような声なんだ。でも...あの声には温かみがあるよ。少し...照れてるのかなぁ??ちょっとツンツンしてるけど、言葉を聞いているとちゃんと温かみがあるよ?だから大丈夫。僕達の事を嫌っている人は今の所だれもいないよ。)

僕がそう言うと相棒はかなり驚いた表情を浮かべて僕を見つめる。

《あなた...私の"妹"なのに凄いわね...。まるであなたの方が姉みたいだわ。
 でも...あなたが言うならそうなのね。私達ずっと一緒だからあなたのこと信じるわ。》

相棒馬そう言って優しく微笑む。
僕はその姿を見て、この人は絶対に大丈夫。
僕がしっかり彼女を"導けば"悪女にはならないと確信を持てた。

なにより...彼女なら"姉"でも大丈夫だとも思った。

(僕の姉があなたで良かった。僕も僕ができる範囲で"お姉ちゃん"を守るからね。)

僕はそう言って相棒である姉の手を今度は僕の方からしっかり握りしめた。

姉はそれを照れくさそうに見つめながら微笑した。

この日僕達は互いの手を握ったまま眠りについた。


 僕達が母親のお腹の中で順調に成長している頃、外の世界では僕達を迎えるための準備が着々と行われていた。

僕達の家は神様が言った通り、国王の次に偉い公爵家。ライリッシュ公爵家。
しかも国に一つしかない家系な上に、国王に並ぶ有力な能力を備えた人達が生まれる家系でもあるため一目置かれていた。

そんな家に新たに子供が産まれるとなると他の貴族達も大慌てとなるみたい。

まずこの国の貴族達は伴侶が孕ったら必ず国王に報告する義務がある。

それは国王を支える貴族達の管理をする名目と同時に、貴族達の家系図を国王も管理しているからだ。

これは嫡子を隠すのを防ぐために設けられたルールだそうだ。
この国は僕が住んでいた世界と違って一夫一妻ではない。

一夫多妻が許される世界なのだ。
もちろん逆も許される。
一妻多夫も許される世界でもある。

そのため、出生を誤魔化す貴族達が増えて戸籍にも載らない子供が増えて問題化されたことが何代前かの国王の時代にあり、今のルールが設けられたのだという。

ちなみにその一夫多妻と一妻多夫が許されるのは貴族のみ。
平民はまず金銭的に難しいのもあるため許されていない。

そのため、妻以外の女または夫以外の男との間に子供を儲けたら、その子は養子に出すか堕されるのだ。

色々と問題がありそうな世界だと思うが、そんな世界の有力者でもある公爵家が僕の新しい家で家族になる人達なのだが...僕達が母親のお腹に居ることが分かってから毎日が大忙くなった。

まず、子供が本当にいるかいないかは医師のみが所有している固有能力の一つである【妊娠鑑定】で知ることができる。

ちなみに国王はもちろんのこと、この国の貴族達には専属の医師がおり、その医師全員がその能力を備えている。

この公爵家も母上が体調を崩してから専属医師が呼ばれて日々診察と【妊娠鑑定】を行なっていた。

妊娠初期では、【妊娠鑑定】をしてもはっきりとは鑑定結果がでないのだ。
ある程度胎児が大きくならないと確定の鑑定結果が出ないため、専属医師は毎日母上に【妊娠鑑定】を行なっていた。

母上はすでに兄を身籠り出産している経験があるから、今自分が体調不良を起こしているのは妊娠しているからだと思ってはいたが、医師による【妊娠鑑定】のしっかりした結果が出るまで厳重な安静を強いられていた。

なぜなら...母上は兄を産む前にも一度妊娠していたが、その時はしっかりとした【妊娠鑑定】の結果が出る前に流産してしまった過去があったのだ。

そのため兄の時もそうだったが、妊娠したら出産するまで普通の妊婦さんより厳重な扱いになるのだった。

今回も義父母の命にて厳重に安全を強いられることになった母上。

 母上の名前は、"フランチェスカ・リリス・ライリッシュ"。
フランチェスカというのは母上の旧姓。
リリスが名前で、ライリッシュが嫁ぎ先の姓である。

ちなみに、世継ぎを産んだ本妻のみ旧姓と嫁ぎ先の姓を名乗らせてもらえるのだという。

つまり、一夫多妻が許されるが男の子を産んでも、女の子を産んでも世継ぎとみなされなかったらその女性は側室扱いな上に、旧姓も嫁ぎ先の姓もなることが許されないという事なのだ。

ちなみにこのライリッシュ公爵家は唯一この世界で一夫一妻を貫いている家系。
浮気もせず、娶るのは一人のみのこの世界では珍しい家系なのだ。

しかも、一夫一妻の家系の割には代々子沢山な家系のため、世継ぎに困ることはないらしい。

ちなみにこれらのことは僕が生まれてから父上から聞く話なんだけどね...。
聞いた時は驚いたよ。

 で、話をもどして...、今僕達を身籠っている母上は上質なベッドの上で安静を強いられており、その側には専属の医師と義父母と夫と兄。

そして、母上の専属の侍女達と執事と乳母が取り囲んでいる。

「先生?まだはっきりとわからなくて?」

義母つまり、僕達の祖母にあたる人が母上を診察している専属医師に声をかける。

彼女は公爵家の女主人に相応しい貫禄と気品に触れた女性だ。

慣れない人からしたら畏怖感と冷徹さを感じさせる雰囲気と声色、口調をしている。

が、それは彼女が公爵夫人が故であるのと、彼女が実は"ツンデレ"な上に"極度の人見知りが災いしているのだった。

彼女のその性格を知る人は特に怖がることもせず普通に対応しているが、それに気付くまでが大変だ。

この専属医師も代替りをして日が浅いのもあり、祖母が苦手な様で怯えていた。

祖母を怒らせない様に必死に顔色を伺いながら言葉を選ぶために返事が遅くなる。

祖母はそんな彼の態度にイラッとしたのだろう...いいや本当は申し訳なく思っているのだが、それを上手く表現できないため、イラッとした様に見えてしまった。

祖母の表情に専属医師は怯えて青ざめる。
専属医師のその表情と態度を祖母は悪い方に捉えたのだろう。
まだ、医師が何も答えていないのに

「もしかして、またお腹の子はダメになったのですか?!!あーー!どうしましょう!!」

一人慌てふためく祖母。
そんな祖母を義父、つまり僕の祖父が宥める。

「これ、まだ先生は何も言ってないだろう?彼女も体調を崩してから君の言うことを聞いてベッドで安静にしているから大丈夫だよ。そうだよね?リリス??」

ベッドの上で横たわっている母上を見ながら祖母の肩を優しく両手で包む祖父。

そんな祖父の言葉に母上は優しく微笑して頷く。

「はい。お義父様。お義母様の言いつけをちゃんと守って一日のほとんどをここで過ごしてますから大丈夫です。」

母上の言葉を聞いてホッとした表情を浮かべる祖母と専属医師。

そんな専属医師に今度は父上が声をかけた。

「先生。妻のお腹の中に子供はいますか?」

父上の言葉に専属医師は自分が先ほど行った【妊娠鑑定】の結果を告げた。

「はい。ようやく【妊娠鑑定】で確定の結果がでました。しかも今回は、奥方様のお腹に二つの命が宿っていることが分かりました。」

専属医師の言葉にその場にいる全員が歓喜と驚きの声を上げるのだった。
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