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第五章〜私達兄妹は冒険者になります〜
5-7 次の依頼も頑張ってこなします
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簡単なお金のお勉強をしてから、お昼ご飯を食べて私とお兄ちゃんはもう一度冒険者ギルドに向かい、今日の依頼を受けることにした。
買い物するにもお金は必要だし、経験を積まないとランクも上がらないので、今はひたすら依頼をこなすしかなかった。
(お金に関して考えるのは放棄したって言う方がはやいかも...。)
自分達で用意したお昼ご飯をドラしゃんと一緒に食べて、冒険者ギルドに向かった私とお兄ちゃん。
ギルドにつくなり、職員の人にある掲示板へと案内された。
それは...いつのまにか作られた私達専用の掲示板だった。
(いつの間に?!!昨日どころか今朝来た時はなかったよ!!)
私は掲示板の前でお兄ちゃんを見ると、お兄ちゃんも私と同じ気持ちなのだろう。
驚いた表情をして私を見つめる。
と、とりあえず...掲示板を見る私とお兄ちゃん。
てっきりいつメンからの依頼しかないのかと思ったら、ドラしゃん達以外の依頼主からの依頼書も貼られていた。
依頼内容 野菜の収穫手伝い
依頼主 カブさん
報酬は出来高払い
依頼内容 食器洗いの手伝い 満腹食堂
依頼主 ナナ&ロナ
報酬は出来高払い
などほぼ身内からの依頼がメインだったが、報酬は出来高払いとされていたのでこれらをやってみることにした。
最初から金額提示してあるものより、自分達の働きを見て考えてもらえる方がちゃんとした金額を貰えるのでは?と思ったからだ。
私とお兄ちゃんはこの二枚の依頼書を持って受付へと向かう。
受付には笑顔の奈々ちゃんがいた。
「こちらの依頼でよろしいですか?」
「「もちろん。」」
「では、お願いします。」
私とお兄ちゃんは話し合って、まずナナばぁーちゃん達の方へと向かった。
ナナばぁーちゃんとロナばぁーちゃんが経営している食堂、満腹食堂の方へと向かった私達。
最初は兵舎の食堂で食事を振舞っていたのだが、街に人が増えて一般の人が兵舎に入るのは...と言う意見が聞かれて、空いている土地に食堂をお父さんが作ったのだ。
食堂なら誰でも気軽に通えるだろうと言う事で建てたのだが、これが大成功!!
もちろん街の人達は大喜びで、連日満員のお客さんで賑わっている。
兵士達も足蹴なく食堂の方へと通っているしね。
満腹食堂は朝の五時から晩の二十三時頃まで営業している。
最初はナナばぁーちゃんとロナばぁーちゃんだけで切り盛りしていたのが、いつのまにか従業員も増えて、食堂も大きくして二階建てとなっていた。
今や街一番の食事処となっているのだから凄いことだと思う。
ちなみに従業員は、同盟国から先に来た孤児院の人達がおもにいる。
最初はお手伝いで面倒見ていたのが、いつの間にか従業員として正式に雇ったのだとか。
ガリガリだった子達が今やふっくらとして、来た時の面影がないぐらいだ。
食堂に行くと、昼のピークを過ぎていたためかお客さんはまばらだった。
「おや?いらっしゃい。何を食べるんだい?」
私とお兄ちゃんの姿を見たナナばぁーちゃんが調理場から顔を出して声をかけてくれた。
「大丈夫。ご飯は食べて来たの。」
「今日は依頼を受けに来ました。」
私とお兄ちゃんの言葉に嬉しそうにするばぁーちゃん。
「おや?そうだったね。念願の冒険者になれたんだったね。おめでとう。」
「良かったわ。今たくさん洗い物ができてるのよ。助かるわ。」
そう言ってロナばぁーちゃんも調理場より顔を出して声をかけてくれた。
「こっちに来れる?」
「「はい。」」
私とお兄ちゃんは、返事をして二人の居る調理場へと向かう。
調理場に着くとエプロンを手渡されて、中に入ると...?!!
いったいどんだけ?!!!と言う量の食器の山が。
「まだまだあるのよ。」
「頼んだよ。」
私とお兄ちゃんは気合を入れ直して、目の前の食器の山を片付けにとりかかる。
洗い方は以前ばぁーちゃん達から教わっているので問題はない。
(もしかして、この時のための予行練習だったのかなぁ??)
一瞬そんな考えがよぎったが、この二人だからそんな事はないだろうと考えを振り払い、作業に専念する。
食器ごとと汚れ方によって洗い方があり、それさえ守れば簡単に洗えるのだが.......。
量が尋常じゃない。
「これは依頼だすよね。」
「だすね。」
私とお兄ちゃんは、魔法を使いながらもこなしていくが全く洗い物が減る様子がなかった。
そこでだ。
裏技使用する事にした。
「ウンディーナ、シルフ手伝って!」
腕輪に話しかけて、【大聖霊】である彼らに手伝いをお願いすることにした。
『お安い御用だぜ。』
『しっかし多いなぁー。』
「なかなか減らないの。」
「すみません。協力お願いします。」
ウンディーナは、山のように積まれた食器を水の玉で包み込み汚れを浮かしてくれた。
私とお兄ちゃんが洗った食器をシルフが風魔法で乾かして、それぞれの食器棚に片付けていってくれた。
二人の協力を得られた事により、がぜん洗い物がスピードアップして片付けられていく。
しかし容赦なく次々と洗い物はナナばぁーちゃん達によって運ばれてくる。
(えっ?!来た時そんなにお客さんいなかったよね???)
「まだまだあるからね。」
「頑張ってね。」
やっと一山片付いたと思ったら...また一山...。
全ての洗い物が終わる頃には日が暮れていた。
しかも私達がした洗い物は、朝五時から十二時までの洗い物だと言うのが驚きだ。
「ばぁーちゃん達いつもどうしてるの?」
「いつもかい?」
「店が終わってから纏めてしてるね。」
「洗い物担当の子も居るんだがね、店が繁盛しているから追いつかなくてね。」
「しかも、今はその子らも手を痛めて休んでてね。」
「本当に助かったよ。ありがとうよ。」
二人はそう言うと、私とお兄ちゃんに温かいお茶をご馳走してくれた。
私とお兄ちゃんはそれを遠慮なく飲んでいると
「洗い物担当の子を増やそうかね。」
ナナばぁーちゃんがボソッと呟くので思わず
「その方がいいと思います。」
「私もそう思うよ。」
『そうするがよいぞ。』
『これは、キツイよ。』
私、お兄ちゃん、ウンディーナとシルフが思わずその呟きに返答してしまった。だって、【大聖霊】達でさえヘトヘトになっているのだから。
しかも、洗い物担当の子は二人でこの量を毎日こなしているのだとか。
そりゃー無茶ですわ。
今回の依頼をこなした後、満腹食堂は急遽洗い物担当の従業員を五人募集したようで、直ぐに見つかったようだからホッとした。
ヘロヘロになった私とお兄ちゃんは、なんとか依頼を終えた依頼書を持ってギルドに向かった。
今日は満腹食堂の依頼しかこなせなかった。
が、もう一つの依頼書は期限が一週間あるので問題ないと言われた。
とりあえず今日の報酬は後日集計して渡すと言われたのだが、私とお兄ちゃんはもう動けずに、受付の床に倒れ込んでしまった。
見かねたロドじぃーちゃんに抱えられて、私とお兄ちゃんは家路に着いた。
ヘロヘロになって帰ってきた私とお兄ちゃんをみて1番焦ったのはドラしゃんだった。
お父さんとお母さんは平然としていて、運んできたロドじぃーちゃんにお礼を普通に言っていたしね。
私達をお父さん達に預けて帰ろうとしたロドじぃーちゃんを捕まえて、何の依頼をこなしてこうなったかを問い詰めるドラしゃん。
ロドじぃーちゃんは別に大怪我をしているわけでもないのにと言ってなかなか答えないようにしていたが、相手はドラしゃん。
そう簡単に引き下がる相手ではない。
最終的にはロドじぃーちゃんが押し負けて白状するハメになった。
「満腹食堂の皿洗いだよ。依頼を受けてから日が暮れるまでぶっ続けで頑張っていたらしいぞ。」
ロドじぃーちゃんの言葉に納得する両親。
「あそこは常にお客さんが多いからね。」
「美味しいね。」
「街の大半のやつはあそこに通ってるよなぁ~。」
そんな会話を聞いた私とお兄ちゃんは、だからあんなに次から次へと皿が来るんだと改めて思っていた。
すると側から不穏な空気が漂ってくるではないか。
犯人は見なくてもわかる。
ドラしゃんだ。
『何を呑気に話している。お嬢様とアキラ坊ちゃんがこんなにヘロヘロなんですよ!やりすぎです!
少し抗議に行ってきます!!』
とんでもない事を言い出すドラしゃん。
そんなドラしゃんを止めたのはお母さんだった。
「ドラしゃん。ナナばぁーちゃん達は間違った事はしてないわ。
ちゃんと仕事内容を提示して、この子達もそれを理解して"仕事"を引き受けたのよ?遊びじゃないんだから、疲れるのは当たり前よ。
この歳で楽してお金を儲けようなんて、そんな最低な事はさせないわ。
させては駄目よ!お金を稼ぐのは大変なことだということを身をもって勉強しないと、この子達はろくな大人にならないわ。
そうならない為に、ナナばぁーちゃん達にお願いしたのよ!」
「「えっ?!」」
『なっ?!』
お母さんの思いもよらない言葉に驚く私とお兄ちゃんとドラしゃん。
「だって、ドラしゃんを含めて皆んな、この子達には超が付くほどの過保護ですもの。依頼で出している報酬金額もとんでもない金額にしてるって聞いてますよ?!それでは困ります!
この子達が大事だと思うなら、甘やかしすぎるのは駄目です!
そりゃ~初めての事ばかりだから心配なのはわかるわ。
依頼内容と仕事内容が違ってて、この子達の身に危険が生じるなら怒ってくれてもいいわ。
でも、そうじゃないなら見守ってあげて。」
お母さんの言葉にさすがのドラしゃんシュンとなる。
「アキラ、リン。あなた達も、小さい時から皆と過ごしていたから仕事の厳しさはわかってると思うわ。
今日してきた仕事も大変だったと思うわ。でも、あれでもナナばぁーちゃん達は遠慮してくれたのよ。
本来ならあれの倍の仕事量をこなさいと行けなかったのよ?
自分達がどれだけ未熟なのかこれでわかったでしょう?だからと言って凹んでばかりではダメよ!
反省したら次に活かせる様に復習しないとね。冒険者になったばかりなんだから、失敗しながら学びなさいね。」
お母さんの言葉に私もお兄ちゃんも素直に頷いた。
確かに私とお兄ちゃんは少し周りに甘えている気がした。
いいや。周りが甘やかしてくれるのが当然と思っていたのだ。
でも、それはダメな考えだ。
小さな子供の時ならまだしも、今や冒険者として一人前になろうとしているのだ。
そんな考えでいては、自分達の為にならない。
「私やお父さん。ドラしゃんやロドじぃーちゃん。ムキじぃーちゃん達だって、いつまであなた達の側にはいられないのよ。まぁ~ドラしゃんはどうにかしてでもあなた達の側に居るかも知れないけどね。
だから、自分達の力だけでも生活していける能力や知恵を身につけて欲しいの。わかる?」
お母さんの言葉に頷く私とお兄ちゃん。
「大変だと思う。思うようにことが運ばなくて歯痒い思いもする事は沢山あると思うわ。でも、めげずに頑張って欲しいの。
愚痴や相談ぐらいはいつでも聞くわ。
本当に困ったことなら私達だって協力するわ。その為に今まで頑張ってきたんだから。
でも、根本的にはあなた達自信が頑張らないと意味がないよ。」
そういって私とお兄ちゃんの頭を優しく撫でるお母さん。
そんなお母さんの肩を優しく抱きしめながら
「そうだぞ。助けてやるのは簡単だ。でも、楽ばかりしたら私達がいなくなったあと辛い思いをするのはお前達なんだ。それが嫌だから、今頑張って欲しいんだ。頑張って欲しいが、無茶だけは駄目だぞ。」
父さんも優しく諭すように私とお兄ちゃんに話をする。
そんな両親の言葉を私とお兄ちゃんだけでなく、ドラしゃんも素直に聞いて頷く。
「今日は疲れただろう。しっかり食べて、ゆっくりお風呂に入って寝なさい。明日も依頼を我慢張るんだろう?」
「はい。」
「もちろんよ!」
私とお兄ちゃんは元気よく返事をして、ヘロヘロの体を奮い立たせた。
なんとか立ち上がりテーブルまで行って、用意されたご飯を食べた。
「ドラしゃん。たまには心を鬼にしてね。」
「そうだね。でも、ドラしゃんが甘やかしている分、私だが鬼になったらいいんじゃない?」
「えっ?!それは嫌よ!私だってたまにはあの子達を甘やかしたいもの!」
私達が一生懸命ご飯を食べている後ろでそんな会話を大人達がしているのを聞いて、私とお兄ちゃんは微笑してしまった。
翌日、冒険者ギルドに行くとコイムさんが前日の依頼の報酬を準備して待っていてくれた。
私とお兄ちゃんは次の依頼の確認をする前にコイムさんの所へ向かう。
ナナばぁーちゃん達からの報酬は、大銀貨六枚ずつだった。
どうやらこれが適正な金額だそうだ。
「従業員の子達と同じ金額となりますとの事です。よろしいでしょうか?」
コイムさんの言葉に私とお兄ちゃんは頷く。
「問題ないです。」
「あんだけしてこの金額なんだ。大変だよね。」
「確かに。でも楽しいよね。」
「そうだね。もっと頑張らないとね。」
私とお兄ちゃんの会話にコイムさんは微笑しなが聞いていた。
「では、それぞれのギルドカードをお願いします。」
コイムさんに言われてギルドカードを提出して、報酬を貰った。
「では、本日の依頼はどうされますか?」
「昨日受けたもう一つの方をこなしてきます。」
「カブさんの依頼がまだ出来てないので。」
「わかりました。では、お気を付けて。」
「「はーい。」」
私達はコイムさんに挨拶してギルドを出て、カブさんの元へ向かった。
カブさんのところへ行くと家は無人で、扉に"御用の方は畑まで"と書かれている掛札を見つけた。
私とお兄ちゃんは掛札通りに畑へ向かうと、カブさん夫婦が作物の収穫をしていた。
以前作っていた畑より遥かに大きくなっている畑を見て私とお兄ちゃんは普通に驚く。
植えてある作物もかなり種類が増えていて、今やこの街の、いやこの世界一の畑となっていた。
畑だけではない。田んぼもかな。大きくなっている。
人が増えて町や村が増えたため、受注が一気に増えたため規模を大きくしたのだ。
そのため、街の一部を拡張して畑と田んぼ専用にしたとたしかムキじぃーちゃんがお父さんに話をしていたような...気がする。
拡大した為に管理も収穫も格段と大変な作業となっている。
私とお兄ちゃんも子供の時から毎年手伝っていたからその大変さは知っている。
だから慣れたものだ...と言いたかった。
畑へ行くといつもなら他の子供達や街の人達が居るのに、今日はカブさん夫婦しかいなかった。
「カブさん!」
「依頼を受けに来ました!」
私とお兄ちゃんが声をかけるとカブさん夫婦が手を振って迎えてくれた。
「依頼を受けてくれたのはお前さん達だったか。助かるよ。」
「本当、助かるわ。いつもなら沢山の手伝いが来てくれるだけど、他の町や村にで払ったりして困ってたのよ。」
確かに今年はどこも忙しそうだ。
商売が繁盛しているのは良いことだが、人手が足りないのは困ったことだ。
「大丈夫よ。私とお兄ちゃんが来たからには百人力よ!」
「カブさん達はゆっくりしてて。」
私とお兄ちゃんはカブさん夫婦を木陰に連れて行って休息してもらうことにした。
そして。
「皆んな。お願いがあるの。この畑の収穫を手伝って!」
「僕からもお願い!」
私とお兄ちゃんは腕輪にお願いした。
すると【大聖霊】と【聖獣】達が出てきた。
『わかってましたわ。任せて下さい。』
『久しぶりだね!頑張るぞ!』
『よし!』
本来ならこんな事をさせる人達ではないのだが、はなから私とお兄ちゃんだけではどうにもならない。
彼らもそれがわかっているから文句も言わず協力してくれるし、意外と楽しんで協力してくれている。
ドライアドが蔦で収穫した作物を入れる籠を作ってくれ、その中に、作物ごと仕分けしながら入れて行くことにした。
収穫した籠はカブさん夫婦が手配してくれている荷馬車に乗せて行く。
荷馬車にはギルドの職員さんが居て、馬車が一杯になったらギルドへと運んでまた戻って来るを繰り返してくれるのだ。
「納品日が今日までなんじゃ。頑張ってくれるかい?」
「無理だけはしないでねぇ~。」
「大丈夫でーす!」
「任せて!」
私とお兄ちゃん。そして、【大聖霊】と【聖獣】達で中央の街二つ分の広さを誇る畑の収穫に精を出す。
そうなんです。
あの畑が。もとは、お父さんの家庭菜園が、今や街二つ分の大きさまで進化したんですよ。
田んぼなんて街二つ半の大きさですよ...。
その為、四方の街との移動距離がだいぶ短くなりましたけどね...。
拡張するのも一苦労...と言いたいところが、【大聖霊】と【大聖獣】達が椀飯振舞してくれたお陰で一日もかからず完成したけどねぇー....。
ははっ。
拡張したことにより収穫数も増えて、他の街や国で飢饉が生じても直ぐに対応できて、飢え死にする人が減って良かったんだけどね。
最初は色んなものを栽培していた畑。
野菜だけにとどまらず、花や薬草も育てていたが、他の国や街でも栽培したいと申し出があり、栽培するものを手分けすることにした。
私達の街は野菜がメイン。
北側の街は根菜類。
西側の街はキノコ類と薬草。
南側の街は花類。
東側の街は木のみ類。
同盟国もそれぞれの地質を生かして栽培できる様に、【大聖霊】達に協力して貰って新しい食物や植物の種を生み出して貰った。
もちろん私達の協力必須だけど、産み出した種や苗を同盟国に配布して、それをその国の特産品として輸出して貰っている。
そうすることにより、それぞれの街も収益がしっかり得ることができて、貧困に苦しんでいた同盟国も持ち直すことができたのだ。
子供も沢山産まれる様になり国としても、世界としても未だかつてないぐらい潤っているのだった。
そんな立役者という自覚もなく、汗水垂らしながら畑で野菜を収穫する私とお兄ちゃん。
街の人達もそうだが、同盟国の人達。
特に大人達は王様や国王達より事情を聞いて理解している人ばかりなので、私達家族を特別視する人が多いのだが、私の両親がそれを拒んだ。
「私達は有名人や英雄になりたくてこの世界に来たんじゃないんです。
家族で平和に暮らしたくて来たんです。
それで、この世界や他の国が平和になってくれたんなら良かったです。」
「でも、私達は普通の人間です。貴族でもなんでもないんです。普通に接して下さい。困った人がいたら手を差し伸べるのは当たり前ですから。」
両親がこう言った為、大恩人の言う事は従わないと...という事で、露骨に神聖視したり特別扱いして来る人は居なかった。
が、それでも特に私やお兄ちゃんに対する対応は若干違っていた。
街の人達、国中の大人達が全力で護らなければ!!助けなければ!!みたいな感じになっているのだった。
もちろんそんな事は私もお兄ちゃんも知らない。
何せ小さい頃から過保護な大人達に囲まれて育ったため、色んな感覚が麻痺(鈍く)なっているのだ。
実は今回のこのカブさんの依頼に関しても、街の人や他の国の人達もグルなのだ。
確かにこの収穫の時期はどこも忙しい。
しかし、全く誰も手伝いに来れないほど忙しくはなかったらしい。
そう。
大人達が、少しでも私とお兄ちゃんに危害がない依頼をこなせる様にとあえて、誰も手伝いに来ないようにしていたのだった。
出来高払い制の依頼というのもありなお私とお兄ちゃんに花を持たせてあげようという、心遣いだったのだ。
それは、依頼主であるカブさんも知っていた。
知らないのは私とお兄ちゃんだけだ。
「リン!そっちは終わったか?」
「終わったよ!お兄ちゃんは?」
「こっちは終わった!」
「他は?」
『収穫はもう後はここ一筋のみです!』
『じゃー収穫時期が終わっている野菜の茎類は土に還しても問題ない?』
『大丈夫だろう?!』
『じゃー僕しとくねぇ~。』
『僕も手伝うよぉ~。』
ノームとシルフが手分けして、収穫時期を過ぎた野菜達の茎や葉を土に還していく。
そうする事で次の作物の栄養となるし、土も潤って良い作物が育つのだという。
残っていた作物も無事全部収穫し終えた。
なんとか日が暮れる前に全ての作物の収穫を終える事ができたのだった。
「これで全部です。」
「お願いします!」
「わかりました。お疲れ様です。」
そういて、荷馬車に最後の収穫物を乗せるとギルド職員さんは馬車を走らせてギルドへと向かった。
「疲れたね。」
「もう動けないよ。」
私とお兄ちゃんは荷馬車を見送りながらその場に座り込んだ。
「ありがとうね。リンちゃん。アキラくん。」
「助かったわぁ。ありがとうよ。」
カブさん夫婦がコップに飲み物を入れて持って来てくれた。
私とお兄ちゃんはそれを受け取り一気に飲み干していく。
「生き返るぅ~。」
「美味しい!!」
私とお兄ちゃんは笑顔で飲み干すと、カブさん夫婦馬驚いた顔を一瞬したものの、笑顔で私達を見つめる。
「本当にありがとうね。皆さんもありがとう。」
「また次もよろしく頼むね。」
カブさん夫婦は私とお兄ちゃんだけでなく、畑で残りの作業をしている【大聖霊】や【聖獣】達にも御礼を言ってくれた。
『これくらいの事ならいつでも引き受けますわ。』
『じぃーさんらも無理したらダメだよ!』
『そうそう。体は大事にしないとなぁー。』
明らかにカブさん達より年上であろう【大聖霊】と【聖獣】達にそう言われて苦笑いを浮かべるカブさん夫婦。
『畑は全て耕し直してます。』
『いつでも次のが植えれるからね。』
『美味しい野菜を頼むぞ。』
そう言って【大聖霊】と【聖獣】達は腕輪等に戻って行った。
「じゃー僕達も戻りますね。」
「その前に、依頼書にサイン下さい。」
「わかったよ。ありがとうなぁ。」
私とお兄ちゃんはカブさん夫婦から依頼完了のサインを貰い、ヘロヘロの足でギルドへと向かった。
ギルドに着く頃には完全に日が暮れていた。
ギルドの入り口でへたり込む私とお兄ちゃんの元へ職員さんが駆け寄ってきた。
「どうされました!」
「誰か!ギルマスを呼んで!」
「あ、あのうコレ。」
「依頼終わりました。」
私とお兄ちゃんはそう言ってサインを貰った依頼書を職員さんに渡して、その場で眠ってしまったのだ。
職員に呼ばれてロドじぃーちゃんとルミばぁーちゃんが来た時には、私とお兄ちゃんはぐっすり眠り寝息を立てていたのだった。
シルフ:
あっ!しまった!
ドライアド:
どうしましたの?
シルフ:
つい張り切ってさ、あの畑の土かなりグレードアップさせてしまった。
ドライアド:
はい???
ノーム:
そうそう、あまりにもいい土になってたからシルフと頑張ってもっといい土にって奮発したんだよね。
ウンディーナ:
えっ?それ...まずくないか?
イフリート:
どんな副産物ができるか不安だな?
ノーム:
うーん、品質がよくなるのと
シルフ:
大きさがたまに特大ものができるぐらいじゃない?
ドライアド:
主人達怒られるわね...
買い物するにもお金は必要だし、経験を積まないとランクも上がらないので、今はひたすら依頼をこなすしかなかった。
(お金に関して考えるのは放棄したって言う方がはやいかも...。)
自分達で用意したお昼ご飯をドラしゃんと一緒に食べて、冒険者ギルドに向かった私とお兄ちゃん。
ギルドにつくなり、職員の人にある掲示板へと案内された。
それは...いつのまにか作られた私達専用の掲示板だった。
(いつの間に?!!昨日どころか今朝来た時はなかったよ!!)
私は掲示板の前でお兄ちゃんを見ると、お兄ちゃんも私と同じ気持ちなのだろう。
驚いた表情をして私を見つめる。
と、とりあえず...掲示板を見る私とお兄ちゃん。
てっきりいつメンからの依頼しかないのかと思ったら、ドラしゃん達以外の依頼主からの依頼書も貼られていた。
依頼内容 野菜の収穫手伝い
依頼主 カブさん
報酬は出来高払い
依頼内容 食器洗いの手伝い 満腹食堂
依頼主 ナナ&ロナ
報酬は出来高払い
などほぼ身内からの依頼がメインだったが、報酬は出来高払いとされていたのでこれらをやってみることにした。
最初から金額提示してあるものより、自分達の働きを見て考えてもらえる方がちゃんとした金額を貰えるのでは?と思ったからだ。
私とお兄ちゃんはこの二枚の依頼書を持って受付へと向かう。
受付には笑顔の奈々ちゃんがいた。
「こちらの依頼でよろしいですか?」
「「もちろん。」」
「では、お願いします。」
私とお兄ちゃんは話し合って、まずナナばぁーちゃん達の方へと向かった。
ナナばぁーちゃんとロナばぁーちゃんが経営している食堂、満腹食堂の方へと向かった私達。
最初は兵舎の食堂で食事を振舞っていたのだが、街に人が増えて一般の人が兵舎に入るのは...と言う意見が聞かれて、空いている土地に食堂をお父さんが作ったのだ。
食堂なら誰でも気軽に通えるだろうと言う事で建てたのだが、これが大成功!!
もちろん街の人達は大喜びで、連日満員のお客さんで賑わっている。
兵士達も足蹴なく食堂の方へと通っているしね。
満腹食堂は朝の五時から晩の二十三時頃まで営業している。
最初はナナばぁーちゃんとロナばぁーちゃんだけで切り盛りしていたのが、いつのまにか従業員も増えて、食堂も大きくして二階建てとなっていた。
今や街一番の食事処となっているのだから凄いことだと思う。
ちなみに従業員は、同盟国から先に来た孤児院の人達がおもにいる。
最初はお手伝いで面倒見ていたのが、いつの間にか従業員として正式に雇ったのだとか。
ガリガリだった子達が今やふっくらとして、来た時の面影がないぐらいだ。
食堂に行くと、昼のピークを過ぎていたためかお客さんはまばらだった。
「おや?いらっしゃい。何を食べるんだい?」
私とお兄ちゃんの姿を見たナナばぁーちゃんが調理場から顔を出して声をかけてくれた。
「大丈夫。ご飯は食べて来たの。」
「今日は依頼を受けに来ました。」
私とお兄ちゃんの言葉に嬉しそうにするばぁーちゃん。
「おや?そうだったね。念願の冒険者になれたんだったね。おめでとう。」
「良かったわ。今たくさん洗い物ができてるのよ。助かるわ。」
そう言ってロナばぁーちゃんも調理場より顔を出して声をかけてくれた。
「こっちに来れる?」
「「はい。」」
私とお兄ちゃんは、返事をして二人の居る調理場へと向かう。
調理場に着くとエプロンを手渡されて、中に入ると...?!!
いったいどんだけ?!!!と言う量の食器の山が。
「まだまだあるのよ。」
「頼んだよ。」
私とお兄ちゃんは気合を入れ直して、目の前の食器の山を片付けにとりかかる。
洗い方は以前ばぁーちゃん達から教わっているので問題はない。
(もしかして、この時のための予行練習だったのかなぁ??)
一瞬そんな考えがよぎったが、この二人だからそんな事はないだろうと考えを振り払い、作業に専念する。
食器ごとと汚れ方によって洗い方があり、それさえ守れば簡単に洗えるのだが.......。
量が尋常じゃない。
「これは依頼だすよね。」
「だすね。」
私とお兄ちゃんは、魔法を使いながらもこなしていくが全く洗い物が減る様子がなかった。
そこでだ。
裏技使用する事にした。
「ウンディーナ、シルフ手伝って!」
腕輪に話しかけて、【大聖霊】である彼らに手伝いをお願いすることにした。
『お安い御用だぜ。』
『しっかし多いなぁー。』
「なかなか減らないの。」
「すみません。協力お願いします。」
ウンディーナは、山のように積まれた食器を水の玉で包み込み汚れを浮かしてくれた。
私とお兄ちゃんが洗った食器をシルフが風魔法で乾かして、それぞれの食器棚に片付けていってくれた。
二人の協力を得られた事により、がぜん洗い物がスピードアップして片付けられていく。
しかし容赦なく次々と洗い物はナナばぁーちゃん達によって運ばれてくる。
(えっ?!来た時そんなにお客さんいなかったよね???)
「まだまだあるからね。」
「頑張ってね。」
やっと一山片付いたと思ったら...また一山...。
全ての洗い物が終わる頃には日が暮れていた。
しかも私達がした洗い物は、朝五時から十二時までの洗い物だと言うのが驚きだ。
「ばぁーちゃん達いつもどうしてるの?」
「いつもかい?」
「店が終わってから纏めてしてるね。」
「洗い物担当の子も居るんだがね、店が繁盛しているから追いつかなくてね。」
「しかも、今はその子らも手を痛めて休んでてね。」
「本当に助かったよ。ありがとうよ。」
二人はそう言うと、私とお兄ちゃんに温かいお茶をご馳走してくれた。
私とお兄ちゃんはそれを遠慮なく飲んでいると
「洗い物担当の子を増やそうかね。」
ナナばぁーちゃんがボソッと呟くので思わず
「その方がいいと思います。」
「私もそう思うよ。」
『そうするがよいぞ。』
『これは、キツイよ。』
私、お兄ちゃん、ウンディーナとシルフが思わずその呟きに返答してしまった。だって、【大聖霊】達でさえヘトヘトになっているのだから。
しかも、洗い物担当の子は二人でこの量を毎日こなしているのだとか。
そりゃー無茶ですわ。
今回の依頼をこなした後、満腹食堂は急遽洗い物担当の従業員を五人募集したようで、直ぐに見つかったようだからホッとした。
ヘロヘロになった私とお兄ちゃんは、なんとか依頼を終えた依頼書を持ってギルドに向かった。
今日は満腹食堂の依頼しかこなせなかった。
が、もう一つの依頼書は期限が一週間あるので問題ないと言われた。
とりあえず今日の報酬は後日集計して渡すと言われたのだが、私とお兄ちゃんはもう動けずに、受付の床に倒れ込んでしまった。
見かねたロドじぃーちゃんに抱えられて、私とお兄ちゃんは家路に着いた。
ヘロヘロになって帰ってきた私とお兄ちゃんをみて1番焦ったのはドラしゃんだった。
お父さんとお母さんは平然としていて、運んできたロドじぃーちゃんにお礼を普通に言っていたしね。
私達をお父さん達に預けて帰ろうとしたロドじぃーちゃんを捕まえて、何の依頼をこなしてこうなったかを問い詰めるドラしゃん。
ロドじぃーちゃんは別に大怪我をしているわけでもないのにと言ってなかなか答えないようにしていたが、相手はドラしゃん。
そう簡単に引き下がる相手ではない。
最終的にはロドじぃーちゃんが押し負けて白状するハメになった。
「満腹食堂の皿洗いだよ。依頼を受けてから日が暮れるまでぶっ続けで頑張っていたらしいぞ。」
ロドじぃーちゃんの言葉に納得する両親。
「あそこは常にお客さんが多いからね。」
「美味しいね。」
「街の大半のやつはあそこに通ってるよなぁ~。」
そんな会話を聞いた私とお兄ちゃんは、だからあんなに次から次へと皿が来るんだと改めて思っていた。
すると側から不穏な空気が漂ってくるではないか。
犯人は見なくてもわかる。
ドラしゃんだ。
『何を呑気に話している。お嬢様とアキラ坊ちゃんがこんなにヘロヘロなんですよ!やりすぎです!
少し抗議に行ってきます!!』
とんでもない事を言い出すドラしゃん。
そんなドラしゃんを止めたのはお母さんだった。
「ドラしゃん。ナナばぁーちゃん達は間違った事はしてないわ。
ちゃんと仕事内容を提示して、この子達もそれを理解して"仕事"を引き受けたのよ?遊びじゃないんだから、疲れるのは当たり前よ。
この歳で楽してお金を儲けようなんて、そんな最低な事はさせないわ。
させては駄目よ!お金を稼ぐのは大変なことだということを身をもって勉強しないと、この子達はろくな大人にならないわ。
そうならない為に、ナナばぁーちゃん達にお願いしたのよ!」
「「えっ?!」」
『なっ?!』
お母さんの思いもよらない言葉に驚く私とお兄ちゃんとドラしゃん。
「だって、ドラしゃんを含めて皆んな、この子達には超が付くほどの過保護ですもの。依頼で出している報酬金額もとんでもない金額にしてるって聞いてますよ?!それでは困ります!
この子達が大事だと思うなら、甘やかしすぎるのは駄目です!
そりゃ~初めての事ばかりだから心配なのはわかるわ。
依頼内容と仕事内容が違ってて、この子達の身に危険が生じるなら怒ってくれてもいいわ。
でも、そうじゃないなら見守ってあげて。」
お母さんの言葉にさすがのドラしゃんシュンとなる。
「アキラ、リン。あなた達も、小さい時から皆と過ごしていたから仕事の厳しさはわかってると思うわ。
今日してきた仕事も大変だったと思うわ。でも、あれでもナナばぁーちゃん達は遠慮してくれたのよ。
本来ならあれの倍の仕事量をこなさいと行けなかったのよ?
自分達がどれだけ未熟なのかこれでわかったでしょう?だからと言って凹んでばかりではダメよ!
反省したら次に活かせる様に復習しないとね。冒険者になったばかりなんだから、失敗しながら学びなさいね。」
お母さんの言葉に私もお兄ちゃんも素直に頷いた。
確かに私とお兄ちゃんは少し周りに甘えている気がした。
いいや。周りが甘やかしてくれるのが当然と思っていたのだ。
でも、それはダメな考えだ。
小さな子供の時ならまだしも、今や冒険者として一人前になろうとしているのだ。
そんな考えでいては、自分達の為にならない。
「私やお父さん。ドラしゃんやロドじぃーちゃん。ムキじぃーちゃん達だって、いつまであなた達の側にはいられないのよ。まぁ~ドラしゃんはどうにかしてでもあなた達の側に居るかも知れないけどね。
だから、自分達の力だけでも生活していける能力や知恵を身につけて欲しいの。わかる?」
お母さんの言葉に頷く私とお兄ちゃん。
「大変だと思う。思うようにことが運ばなくて歯痒い思いもする事は沢山あると思うわ。でも、めげずに頑張って欲しいの。
愚痴や相談ぐらいはいつでも聞くわ。
本当に困ったことなら私達だって協力するわ。その為に今まで頑張ってきたんだから。
でも、根本的にはあなた達自信が頑張らないと意味がないよ。」
そういって私とお兄ちゃんの頭を優しく撫でるお母さん。
そんなお母さんの肩を優しく抱きしめながら
「そうだぞ。助けてやるのは簡単だ。でも、楽ばかりしたら私達がいなくなったあと辛い思いをするのはお前達なんだ。それが嫌だから、今頑張って欲しいんだ。頑張って欲しいが、無茶だけは駄目だぞ。」
父さんも優しく諭すように私とお兄ちゃんに話をする。
そんな両親の言葉を私とお兄ちゃんだけでなく、ドラしゃんも素直に聞いて頷く。
「今日は疲れただろう。しっかり食べて、ゆっくりお風呂に入って寝なさい。明日も依頼を我慢張るんだろう?」
「はい。」
「もちろんよ!」
私とお兄ちゃんは元気よく返事をして、ヘロヘロの体を奮い立たせた。
なんとか立ち上がりテーブルまで行って、用意されたご飯を食べた。
「ドラしゃん。たまには心を鬼にしてね。」
「そうだね。でも、ドラしゃんが甘やかしている分、私だが鬼になったらいいんじゃない?」
「えっ?!それは嫌よ!私だってたまにはあの子達を甘やかしたいもの!」
私達が一生懸命ご飯を食べている後ろでそんな会話を大人達がしているのを聞いて、私とお兄ちゃんは微笑してしまった。
翌日、冒険者ギルドに行くとコイムさんが前日の依頼の報酬を準備して待っていてくれた。
私とお兄ちゃんは次の依頼の確認をする前にコイムさんの所へ向かう。
ナナばぁーちゃん達からの報酬は、大銀貨六枚ずつだった。
どうやらこれが適正な金額だそうだ。
「従業員の子達と同じ金額となりますとの事です。よろしいでしょうか?」
コイムさんの言葉に私とお兄ちゃんは頷く。
「問題ないです。」
「あんだけしてこの金額なんだ。大変だよね。」
「確かに。でも楽しいよね。」
「そうだね。もっと頑張らないとね。」
私とお兄ちゃんの会話にコイムさんは微笑しなが聞いていた。
「では、それぞれのギルドカードをお願いします。」
コイムさんに言われてギルドカードを提出して、報酬を貰った。
「では、本日の依頼はどうされますか?」
「昨日受けたもう一つの方をこなしてきます。」
「カブさんの依頼がまだ出来てないので。」
「わかりました。では、お気を付けて。」
「「はーい。」」
私達はコイムさんに挨拶してギルドを出て、カブさんの元へ向かった。
カブさんのところへ行くと家は無人で、扉に"御用の方は畑まで"と書かれている掛札を見つけた。
私とお兄ちゃんは掛札通りに畑へ向かうと、カブさん夫婦が作物の収穫をしていた。
以前作っていた畑より遥かに大きくなっている畑を見て私とお兄ちゃんは普通に驚く。
植えてある作物もかなり種類が増えていて、今やこの街の、いやこの世界一の畑となっていた。
畑だけではない。田んぼもかな。大きくなっている。
人が増えて町や村が増えたため、受注が一気に増えたため規模を大きくしたのだ。
そのため、街の一部を拡張して畑と田んぼ専用にしたとたしかムキじぃーちゃんがお父さんに話をしていたような...気がする。
拡大した為に管理も収穫も格段と大変な作業となっている。
私とお兄ちゃんも子供の時から毎年手伝っていたからその大変さは知っている。
だから慣れたものだ...と言いたかった。
畑へ行くといつもなら他の子供達や街の人達が居るのに、今日はカブさん夫婦しかいなかった。
「カブさん!」
「依頼を受けに来ました!」
私とお兄ちゃんが声をかけるとカブさん夫婦が手を振って迎えてくれた。
「依頼を受けてくれたのはお前さん達だったか。助かるよ。」
「本当、助かるわ。いつもなら沢山の手伝いが来てくれるだけど、他の町や村にで払ったりして困ってたのよ。」
確かに今年はどこも忙しそうだ。
商売が繁盛しているのは良いことだが、人手が足りないのは困ったことだ。
「大丈夫よ。私とお兄ちゃんが来たからには百人力よ!」
「カブさん達はゆっくりしてて。」
私とお兄ちゃんはカブさん夫婦を木陰に連れて行って休息してもらうことにした。
そして。
「皆んな。お願いがあるの。この畑の収穫を手伝って!」
「僕からもお願い!」
私とお兄ちゃんは腕輪にお願いした。
すると【大聖霊】と【聖獣】達が出てきた。
『わかってましたわ。任せて下さい。』
『久しぶりだね!頑張るぞ!』
『よし!』
本来ならこんな事をさせる人達ではないのだが、はなから私とお兄ちゃんだけではどうにもならない。
彼らもそれがわかっているから文句も言わず協力してくれるし、意外と楽しんで協力してくれている。
ドライアドが蔦で収穫した作物を入れる籠を作ってくれ、その中に、作物ごと仕分けしながら入れて行くことにした。
収穫した籠はカブさん夫婦が手配してくれている荷馬車に乗せて行く。
荷馬車にはギルドの職員さんが居て、馬車が一杯になったらギルドへと運んでまた戻って来るを繰り返してくれるのだ。
「納品日が今日までなんじゃ。頑張ってくれるかい?」
「無理だけはしないでねぇ~。」
「大丈夫でーす!」
「任せて!」
私とお兄ちゃん。そして、【大聖霊】と【聖獣】達で中央の街二つ分の広さを誇る畑の収穫に精を出す。
そうなんです。
あの畑が。もとは、お父さんの家庭菜園が、今や街二つ分の大きさまで進化したんですよ。
田んぼなんて街二つ半の大きさですよ...。
その為、四方の街との移動距離がだいぶ短くなりましたけどね...。
拡張するのも一苦労...と言いたいところが、【大聖霊】と【大聖獣】達が椀飯振舞してくれたお陰で一日もかからず完成したけどねぇー....。
ははっ。
拡張したことにより収穫数も増えて、他の街や国で飢饉が生じても直ぐに対応できて、飢え死にする人が減って良かったんだけどね。
最初は色んなものを栽培していた畑。
野菜だけにとどまらず、花や薬草も育てていたが、他の国や街でも栽培したいと申し出があり、栽培するものを手分けすることにした。
私達の街は野菜がメイン。
北側の街は根菜類。
西側の街はキノコ類と薬草。
南側の街は花類。
東側の街は木のみ類。
同盟国もそれぞれの地質を生かして栽培できる様に、【大聖霊】達に協力して貰って新しい食物や植物の種を生み出して貰った。
もちろん私達の協力必須だけど、産み出した種や苗を同盟国に配布して、それをその国の特産品として輸出して貰っている。
そうすることにより、それぞれの街も収益がしっかり得ることができて、貧困に苦しんでいた同盟国も持ち直すことができたのだ。
子供も沢山産まれる様になり国としても、世界としても未だかつてないぐらい潤っているのだった。
そんな立役者という自覚もなく、汗水垂らしながら畑で野菜を収穫する私とお兄ちゃん。
街の人達もそうだが、同盟国の人達。
特に大人達は王様や国王達より事情を聞いて理解している人ばかりなので、私達家族を特別視する人が多いのだが、私の両親がそれを拒んだ。
「私達は有名人や英雄になりたくてこの世界に来たんじゃないんです。
家族で平和に暮らしたくて来たんです。
それで、この世界や他の国が平和になってくれたんなら良かったです。」
「でも、私達は普通の人間です。貴族でもなんでもないんです。普通に接して下さい。困った人がいたら手を差し伸べるのは当たり前ですから。」
両親がこう言った為、大恩人の言う事は従わないと...という事で、露骨に神聖視したり特別扱いして来る人は居なかった。
が、それでも特に私やお兄ちゃんに対する対応は若干違っていた。
街の人達、国中の大人達が全力で護らなければ!!助けなければ!!みたいな感じになっているのだった。
もちろんそんな事は私もお兄ちゃんも知らない。
何せ小さい頃から過保護な大人達に囲まれて育ったため、色んな感覚が麻痺(鈍く)なっているのだ。
実は今回のこのカブさんの依頼に関しても、街の人や他の国の人達もグルなのだ。
確かにこの収穫の時期はどこも忙しい。
しかし、全く誰も手伝いに来れないほど忙しくはなかったらしい。
そう。
大人達が、少しでも私とお兄ちゃんに危害がない依頼をこなせる様にとあえて、誰も手伝いに来ないようにしていたのだった。
出来高払い制の依頼というのもありなお私とお兄ちゃんに花を持たせてあげようという、心遣いだったのだ。
それは、依頼主であるカブさんも知っていた。
知らないのは私とお兄ちゃんだけだ。
「リン!そっちは終わったか?」
「終わったよ!お兄ちゃんは?」
「こっちは終わった!」
「他は?」
『収穫はもう後はここ一筋のみです!』
『じゃー収穫時期が終わっている野菜の茎類は土に還しても問題ない?』
『大丈夫だろう?!』
『じゃー僕しとくねぇ~。』
『僕も手伝うよぉ~。』
ノームとシルフが手分けして、収穫時期を過ぎた野菜達の茎や葉を土に還していく。
そうする事で次の作物の栄養となるし、土も潤って良い作物が育つのだという。
残っていた作物も無事全部収穫し終えた。
なんとか日が暮れる前に全ての作物の収穫を終える事ができたのだった。
「これで全部です。」
「お願いします!」
「わかりました。お疲れ様です。」
そういて、荷馬車に最後の収穫物を乗せるとギルド職員さんは馬車を走らせてギルドへと向かった。
「疲れたね。」
「もう動けないよ。」
私とお兄ちゃんは荷馬車を見送りながらその場に座り込んだ。
「ありがとうね。リンちゃん。アキラくん。」
「助かったわぁ。ありがとうよ。」
カブさん夫婦がコップに飲み物を入れて持って来てくれた。
私とお兄ちゃんはそれを受け取り一気に飲み干していく。
「生き返るぅ~。」
「美味しい!!」
私とお兄ちゃんは笑顔で飲み干すと、カブさん夫婦馬驚いた顔を一瞬したものの、笑顔で私達を見つめる。
「本当にありがとうね。皆さんもありがとう。」
「また次もよろしく頼むね。」
カブさん夫婦は私とお兄ちゃんだけでなく、畑で残りの作業をしている【大聖霊】や【聖獣】達にも御礼を言ってくれた。
『これくらいの事ならいつでも引き受けますわ。』
『じぃーさんらも無理したらダメだよ!』
『そうそう。体は大事にしないとなぁー。』
明らかにカブさん達より年上であろう【大聖霊】と【聖獣】達にそう言われて苦笑いを浮かべるカブさん夫婦。
『畑は全て耕し直してます。』
『いつでも次のが植えれるからね。』
『美味しい野菜を頼むぞ。』
そう言って【大聖霊】と【聖獣】達は腕輪等に戻って行った。
「じゃー僕達も戻りますね。」
「その前に、依頼書にサイン下さい。」
「わかったよ。ありがとうなぁ。」
私とお兄ちゃんはカブさん夫婦から依頼完了のサインを貰い、ヘロヘロの足でギルドへと向かった。
ギルドに着く頃には完全に日が暮れていた。
ギルドの入り口でへたり込む私とお兄ちゃんの元へ職員さんが駆け寄ってきた。
「どうされました!」
「誰か!ギルマスを呼んで!」
「あ、あのうコレ。」
「依頼終わりました。」
私とお兄ちゃんはそう言ってサインを貰った依頼書を職員さんに渡して、その場で眠ってしまったのだ。
職員に呼ばれてロドじぃーちゃんとルミばぁーちゃんが来た時には、私とお兄ちゃんはぐっすり眠り寝息を立てていたのだった。
シルフ:
あっ!しまった!
ドライアド:
どうしましたの?
シルフ:
つい張り切ってさ、あの畑の土かなりグレードアップさせてしまった。
ドライアド:
はい???
ノーム:
そうそう、あまりにもいい土になってたからシルフと頑張ってもっといい土にって奮発したんだよね。
ウンディーナ:
えっ?それ...まずくないか?
イフリート:
どんな副産物ができるか不安だな?
ノーム:
うーん、品質がよくなるのと
シルフ:
大きさがたまに特大ものができるぐらいじゃない?
ドライアド:
主人達怒られるわね...
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