竜と剣と里帰り

Monozu

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 翌日、郷里から手紙が届いた。おやじが死んだと書いてある。もう十何年も会っていなかったおやじだ。たぶん、この手紙をよこしたのは下の妹だろう。おやじはいつまでもお盛んで、その妹は俺より十二も下だ。
「お墓に花を供えにいかないとね」とグラばあさんが言った。「こんなあんたでも、おやじさんがいなかったらここにはいないんだ」
「そしてたぶん、そのほうがよかったんだ」
 郷里への馬車はその昼に雪山の麓の町を出た。
 その乗合馬車には、もう雪にはうんざりしました、だから出てきたんですというような田舎娘が一人、似合っていない都会風の革の手袋をして座っていた。俺はその斜め前の台に座って、隣のおやじが腕を組んだまま、うつらうつらと俺に肩をぶつけるのに耐えていた。その馬車の終点はある宿場町だった。俺は田舎娘に粉をかけて、うまく運べば今夜の慰めにできるかと思ったが、それより先に眠りこけていたおやじが何やら言いに行って、つま先を踵で踏みつぶされていた。こんなに気の強い女とは思わなかった。話しかけなくて正解だ。
 宿の部屋を一つ取ってから、たまたまこの町に立ち寄った古物商にグラばあさんの値打ちを聞いてみた。
「なかなかいい剣だ」小さな鼻眼鏡に両の目を集めて、古物商の男が言った。「多少錆びているところはあるが、これは魔導性の剣だから、薬草や鉱石でそれを取ることもできる。五〇〇〇ゼニーまでなら出せるよ」
 俺は驚いた。グラばあさんは本物だったのだ。こんなところにいる古物商が五〇〇〇出せるということは、その値打ちは七〇〇〇にはなるはずだ。都会で売れば一万にだってなるだろう。前途が明るい。その古物商には雪山で凍りついていた死体から剥ぎ取った懐中時計を五十ゼニーで売って、グラばあさんは背中に担ぎ直した。
「あたしを売るつもりだったのかい?」背中で声がする。「それより、あたしが力を貸してやるよ。危険な魔物――いや、魔神だって倒せる。懸賞がかけられてる悪玉の首を取ってもいいね」
「でも、売ったほうが苦労がないだろ」
「とことんまで怠け者ときたか。そんなあんたがなんで冒険者稼業なんかしてるんだい?」
「渡り歩いてるのさ。やり捨てた女とその旦那に刺されないように」
「ハッハッハ」剣が高笑いするので、すれ違う人間が見ている。「あんたそれ、童貞がいきがったようなセリフだよ。煙たいねえ」
 だが俺は、実際何人かの女としたことがある。確かなのは、そのうちの最初の一人は自殺したということだった。彼女が本当に愛する男は別にいて、その男はくずだった。彼女を仲間内で回したあとで捨てた。俺になびいたのは、もっと自分を汚したい、どうせ愛に失敗した女だから、という捨て鉢な気持ちだったのだろう。幼馴染だった。あのとき、俺が欲望に抗って手を出さなければ、やさしくしていれば、紳士的であったなら、あの結末は迎えなかったのかもしれない。彼女のあとに寝た二、三人の女は、俺が自分の悲しみを乗り越えたかどうか、試すための道具のようにしてしまった。結局、長くは続かなかった。
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