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第一章
結末と予兆3『【メタモル・ミラージュ】』
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ダイアンは――ダイアンの姿を騙って成り代わっていたその男は、元の姿に戻って街道をひた走っていた。
【メタモル・ミラージュ】
彼が持つ固有魔法で、己の姿を違うものに見せることができる幻覚魔法の一種だ。
物理的な感触も同じようにできるため、触ったところで違いにも気が付かない。
隊長や衛兵を欺いた彼の『死んだふり』のカラクリである。
この力を使って彼は自分を死体に見せかけたり、テックアート家の忠義に厚い騎士、ダイアンに成りすましたりしていた。
ちなみに途中で本人が現れては困るので本物のダイアンは事前に始末して遺体は王都の用水路に捨ててある。
見つかったとしてもその頃にはすべてが片付いている……はずだった。
「くそっ、どうしてこうなった……こんなはずじゃなかったんだ!」
今回の仕事はそう難しいものではなかった。
組織のことを嗅ぎ回っているテックアート伯爵に脅しをかける意味合いでレグル嬢を亡き者にする。
たったそれだけのシンプルな暗殺任務。
彼の能力を使えばいくらでも達成可能な内容だった。
それでも万全を期して護衛の騎士に成り代わって潜入し、慎重に準備を進めてきた。
なのに肝心の襲撃は偶然通りがかった謎のエルフによって妨害されてしまった。
オークやゴブリンを跳ね飛ばす、冗談としか思えないエルフだった。
段取りを崩された彼は焦った。
このままでは任務を遂行できない。
機密性が重視される自分たちの組織で直接的な襲撃が悪手なのはわかっていた。
しかし自分の失敗を帳消しにすることばかり考えて彼は領主邸に強襲をかけた。
領主も組織から買った奴隷を解放しようとしている噂があったのでまとめて消して口を封じてしまえばいい――
そんな安易な考えだった。そしてそれは最悪の選択だった。
今度はエルフだけでなく、王立魔道学園の【神童】までいたのである。
それでも数で押せばどうにかなると思った。しかし、大量の魔物による数の優位もまるで意味をなさず呆気なく蹴散らされた。悪あがきのような騙し討ちも理解の範疇を超えたエルフの魔法によって空振りに終わった。
あのエルフはデタラメだ……。
隷属の首輪を難なく破壊し、ハイオークを単独で倒す。
おおよそ、彼が知っている魔法だけが取り柄の貧弱なエルフとは一線を画す存在だった。
だからといって言い訳にはならない。自分は任務を果たせなかった。
組織が判断するのはその一点だけ。
「失敗した失敗した失敗した……」
彼は大量の汗を書きながら虚ろに呟き続ける。
隙を作って逃げ出すことはできたが組織は絶対に自分を許しはしないだろう。
任務の遂行確率を上げるために借りたダークエルフを伯爵側に奪われ、おまけに独断専行で組織による襲撃の事実を残してしまった。
上層部は極端に目立つことを嫌う。
今回のテックアート嬢襲撃も組織の存在は匂わせる程度で、あくまで事故に見せかけて消せと言われていた。
そのほうが組織の異質性を演出し、見えない脅威で伯爵の恐怖を煽れるからと。
それなのにこの様では……。
テックアート家は敵の存在を明確に認識し、準備を進めるだろう。
下手をすれば国が組織の掃討に動き出すかもしれない。
「どうすりゃいいんだ……」
このままニッサンの町にいた同胞との集合場所に行くべきか。
完全な逃亡者となり果て、当てなく彷徨い続けるか。
彼が途方に暮れていると街道の先に小さな人影があった。
「ニク……」
夜の街道という不釣り合いな場所に立っていたのは幼い少女だった。
(こんなところに子供? 一人でか?)
幸か不幸か。
彼はその幼い少女がひっそり呟いた言葉を聞き取ることができなかったおかげで恐怖心に駆られずに済んだ。
しかし、この後に起こったことを考えるなら明らかに不幸だったのだろう。
「ニク。おいしいニクの匂いがスル」
メキ……メキ……メキメキ……
「おい、ガキ。お前なんでこんな時間に外に……えっ?」
迂闊にも近づいてしまった彼が驚嘆したときにはもう遅い。
その異形は大きく口を広げて目の前に迫っていた。
「アッチにもっと美味そうなニクの匂い、いっぱいスル……」
二人が一人になった静かな街道で幼女はクンクンと鼻をひくつかせた。
……幼女は街道沿いにある小さな森に目をつけ、フラフラと歩き始めるのだった。
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