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第二章
盗賊と二号さん3『エルーシャ・ニゴー』
しおりを挟む「サラス、ジェロム。終わったー?」
馬車の扉が開かれ、干し肉をむしゃむしゃと咥えた金髪碧眼少女が降りてきた。
二人目の御令嬢の登場だ。どうしよう、レグル嬢とキャラが被るぞ。
人間の顔と名前はただでさえ覚えにくいのに。
「エルーシャ様。こちらのエルフの方の助力もありまして比較的速やかに賊を無力化することができました」
メイドが恭しく頭を下げ、主に俺を紹介する。
「ん? エルフの人が協力してくれたの?」
エルーシャと呼ばれた少女がこちらにブルーの瞳を向けてくる。
ぺたっとした猫っ毛っぽい金髪をツインテールに結んだ髪型。
少女は丸っこく幼い顔立ちながら、貴族の令嬢らしく整った容姿をしていた。
「はい、彼が賊の放った攻撃魔法を打ち払ってくださいました」
「へえ……(もぐもぐ)」
少女が興味深そうに俺を見つめてきた。
だが、口に咥えた干し肉を離そうとはしなかった。
どんだけ食い意地張ってるんだよ。
「こちら、我々のお仕えするニゴー子爵家の御令嬢、エルーシャ・ニゴー様です。そして私はニゴー家にお仕えするメイドのサラスと申します」
メイド……サラスから少女を紹介される。なるほど二号さんか。二人目の御令嬢だから覚えやすくていいな。
「エルーシャだよ。なんか助けてもらったみたいでありがとね?」
御令嬢二号……エルーシャ嬢はフランクな挨拶をしてきた。
随分砕けた態度だな。同じ貴族令嬢でもレグル嬢とは印象が随分違う。
令嬢も人それぞれってことか。こういう違いがあると差別化しやすくて助かるぜ。
「お嬢、生かしておいた賊から拠点の場所を訊きだしましたぜ」
騎士、ジェロムだったか? が、ズルズルと何かを引きずってきた。
ジェロムが引きずってきたのは顔面をボコボコにされた盗賊だった。最後に命を取られずに気絶させられたやつか……。
盗賊は両手を後ろに縛り上げられ、息も絶え絶えな死にかけボロ雑巾状態。かなり激しい尋問を受けたようだな。憐れな。自業自得だから知ったこっちゃないけど。
「ほんと? じゃあ早く残りも全滅させに行こ!」
エルーシャは手の平をぽんと合わせて嬉しそうに飛び跳ねる。
目の前の死に体の人間がいるのに気に留めず、無邪気に喜んでいる。
なんや、こいつ……。
「……なあ、全滅ってなんだ?」
俺はショートカットの銀髪メイド、サラスにひっそり訊ねた。
「はい、エルーシャ様と我々はこれから盗賊の拠点を潰しに行きます」
『それがなにか?』って続きそうな感じで言われた。
そんなあっさりしたノリで暴露することじゃねえだろ。
この世界では違うのか? だったらごめん、
「お嬢、本当にやるんですかい? こんなのは領地を治める貴族か冒険者に任せることですよ」
確定事項のように語ったメイドと違い、騎士のジェロムは乗り気ではなさそうだった。
この男は比較的まともな思考をしていそうだ。
よかった、やっぱり普通のことじゃなかったんだ。
だが、エルーシャが言う、
「やるに決まってるじゃん! 盗賊がいなくならないとフォンダー村の名産品、フリードフォックスの串焼きがいつまでも食べられないんだよ!」
……串焼き?
「そう、君たちも方向的に通って来たでしょ? 美味しい串焼きで有名なフォンダー村!」
エルーシャが力説してくるが、全然知らん。
フォンダー村ってのは素通りしてきた村のどれかかね。
「せっかく王都からここまで来たのに、盗賊がうろうろしてるせいで猟師がなかなか狩りに出れなくて品切れだったの! まったく許せないことだよね!」
ぷんぷん、と効果音が聞こえてきそうな怒り方。緊張感が一気にそがれるな……。
しかし彼女は本気で怒りを表しているのだろう。
幼げな容姿と頬を膨らませた所作のせいで児戯めいて見えるが、やろうとしていることは結構エグイ。
聞けばエルーシャたちは盗賊をおびき寄せるため、わざと護衛の数を減らして街道をうろついていたらしい。
まんまと引っかかって撃退された盗賊どもは運が悪いというか、因果応報というか。
そこまでして串焼きを食べたいのか? 飽くなき食への執着心である。
エルーシャ嬢にとって、食以外のことは二の次にされるようだ。
一体、何が彼女を駆り立てるのだろう……。
「美味しいものを美味しく頂き、幸せそうに食べる。それがわたしのライフウェイ……」
意味がわからなかった。
だけど彼女のなかでは大事なことなのだろう。
神妙な顔で語ってるし。
俺は同調したフリをして静かに頷いておいた。俺だってこれくらいの空気は読める。
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