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ガチャ狂いの掃除人
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ピーポーピーポー……
今日「も」彼は救急車によって病院へと搬送される……今日「も」と言う事は、1度や2度の話ではないというわけだ。
救急外来を担当する医師は顔なじみの患者に対し、顔面に青筋を浮かべながら怒鳴り声をあげる。
「またお前か! どうせまともに食事を摂ってないんだろ!? なぜ懲りないんだ!? これでいくらかかると思ってるんだ!?」
「10連5~6回がパーだ」
「……」
怒りを通り越して呆れる、とはこういう事だろう。緊張感がカケラたりともない患者に対し、現場には呆れと言う名の静寂が訪れる。
今回救急車で病院に運び込まれた患者は交通事故を起こしたり巻き込まれたわけではないし、心筋梗塞や脳梗塞などの文字通り「1分1秒が生死を分ける」致命的な病を発症したわけでもない。
外を歩いていたらあまりの空腹に耐えきれず、その場に倒れてしまったのだ。そのためケガや病気の類ではない、あえて病名をつけるとしたら「栄養失調」とでもいうべきものだ。
その後彼は栄養補給として点滴を受けた後で解放された。もちろん医者による説教を受けつつ、だ。
「いい加減ガチャから離れたらどうなんだ!?」
「そんなこと言っても限定ガチャがあるんですよ!? 今引かなきゃ永遠に手に入らないんですよ!? だったら回すしかないでしょ!?」
「それで食事は1日1食、それも栄養ドリンク1本っていう生活を送ってるのかね?」
「はいそうです。食費をケチれば回せますからね」
「今回でもう勘弁してほしいぞ。お前のせいで本当に救急車が必要な人間を待たせたら命に係わる事なんだぞ?」
ガチャに出会って以降、運ばれた男の生活はこんな感じだ。全ての価値基準はガチャ何回分か? という計算をしていて、ガチャのためなら食事すら抜く始末だ。
今日も医者からの説教を右耳から左耳に流した後、彼は根城であるアパートの部屋に帰ってくる。だが、玄関前に男が1人立っていた。彼は病院帰りの男を見つけるなり声をかける。
「よおノムラ。相変わらずやせた顔をしてんな。しっかしまぁお前も随分と堕ちたものだな。ここ1~2年で財産をガチャで溶かして極貧の生活を送ってるんだって?」
「だって面白いじゃないかガチャって。あれを知らないなんて人生丸損だぞ? お前もやったらどうだ?」
男はハァッ。とため息をついて仕事のあっせんを行う。
「お前宛ての依頼がある。とある男を『掃除』して欲しいそうだ」
「ふーん……分かった、引き受けるよ。クライアントにも連絡しといて」
『掃除人』であるノムラと呼ばれた男は仕事を引き受けることにした。
翌日。ノムラの根城近くにあるラーメンチェーン店。そこで彼は麺を2玉使った豚骨醤油のチャーシュー麺大盛を盛大にすすって久しぶりの満腹感を味わう。クライアントに対して要求した「前金」だ。
「しっかし前金がラーメンとはねぇ……本当に大丈夫なのか?」
「ああ大丈夫だ」
ラーメンを胃袋に納め飢えから解放されたのか、ノムラは「仕事人」の顔つきになる。それを見てクライアントは背筋にピリリとしたものが走る。
「用件を聞こうか?」
「この男を『掃除』して欲しい」
依頼人はノムラに『掃除』対象の男に関する資料を渡す。
「報酬は?」
「200」
「分かった、引き受けよう。ただ俺の仕事を低く見積もるのなら容赦しねえからな」
こうして依頼は成立した。
2日後の都内某所の駅近く。そこに高性能のカメラを搭載したドローンの「親機」が3機空を飛んでいた。依頼人の『標的』が来ることを事前に察知したノムラが放っていたものだ。
今ではドローンは民間にも幅広く、当たり前のように普及している時代だ。通行人たちはドローンの存在には気づいているが、どうせTV局の撮影か何かだろうと思って視界には入るが積極的に見ようとはしない。
ノムラも近くのファミレスでパソコンを広げ、3機ある「親機」から送られてくる情報を捌いている。一見ファミレスで仕事をしている人と変わらないのか、彼も特に誰からも注目はされていない。
その時、カメラが『標的』を感知した。親機に搭載されたカメラ──50メートル以上離れた場所からでも人の顔を詳細に判別できるほどの性能を持つもの──で捉えた情報を「子機」及びノムラのパソコンに送信する。
「特徴合致率98.5%」というドローンからの情報を見たノムラは子機に命令を送る。
『標的』の情報を受信した、高度150メートルの上空を飛行していた「子機」は指定されたプログラム通りに動き、一気に地上へと降下する。
「子機」はぐんぐんと加速していき『標的』の頭部に衝突した瞬間、抱えていた爆薬を爆発させた。
ボンッ!
カセットコンロに使うガスボンベが爆発するような音が1発。と同時に『標的』が『掃除』された。彼の頭部は吹っ飛び地上を転がる。それを見て女の甲高い悲鳴や男の叫び声が辺りにこだまする。
全てが終わった後、ノムラはドローンに対し帰還プログラムを作動させ、指定の位置まで自動で飛行させる。ノムラもパソコンをしまい、現場を後にした。
「!! いゃったあああ!」
報酬の200万の内50万円分のガチャを回してピックアップ中のお目当てのキャラを手に入れた。これで限定の物は全部引いたことになる。
残りは150万ほどだがキャッシングの未払い金もあるし、家賃も滞納している。仕事道具の「子機」の作成もタダではないし、カネはいくらあっても足りないのだ。
今やっているゲームのガチャは上限が無いが「出るまで引けば排出率100%」という発想なので特に気にしない。
この調子だとまたすぐに金欠を起こすだろうが、ガチャが生活の基準となっている彼の事だから懲りずに栄養失調を起こして病院に担ぎ込まれるだろう……バカは死ぬまで治らないとは言ったものだ。
掃除屋としての腕はあるのだがそれが内外に知れ渡ることは無いだろう。今日も彼はガチャを回す……当たりが出るまで何度でも。
今日「も」彼は救急車によって病院へと搬送される……今日「も」と言う事は、1度や2度の話ではないというわけだ。
救急外来を担当する医師は顔なじみの患者に対し、顔面に青筋を浮かべながら怒鳴り声をあげる。
「またお前か! どうせまともに食事を摂ってないんだろ!? なぜ懲りないんだ!? これでいくらかかると思ってるんだ!?」
「10連5~6回がパーだ」
「……」
怒りを通り越して呆れる、とはこういう事だろう。緊張感がカケラたりともない患者に対し、現場には呆れと言う名の静寂が訪れる。
今回救急車で病院に運び込まれた患者は交通事故を起こしたり巻き込まれたわけではないし、心筋梗塞や脳梗塞などの文字通り「1分1秒が生死を分ける」致命的な病を発症したわけでもない。
外を歩いていたらあまりの空腹に耐えきれず、その場に倒れてしまったのだ。そのためケガや病気の類ではない、あえて病名をつけるとしたら「栄養失調」とでもいうべきものだ。
その後彼は栄養補給として点滴を受けた後で解放された。もちろん医者による説教を受けつつ、だ。
「いい加減ガチャから離れたらどうなんだ!?」
「そんなこと言っても限定ガチャがあるんですよ!? 今引かなきゃ永遠に手に入らないんですよ!? だったら回すしかないでしょ!?」
「それで食事は1日1食、それも栄養ドリンク1本っていう生活を送ってるのかね?」
「はいそうです。食費をケチれば回せますからね」
「今回でもう勘弁してほしいぞ。お前のせいで本当に救急車が必要な人間を待たせたら命に係わる事なんだぞ?」
ガチャに出会って以降、運ばれた男の生活はこんな感じだ。全ての価値基準はガチャ何回分か? という計算をしていて、ガチャのためなら食事すら抜く始末だ。
今日も医者からの説教を右耳から左耳に流した後、彼は根城であるアパートの部屋に帰ってくる。だが、玄関前に男が1人立っていた。彼は病院帰りの男を見つけるなり声をかける。
「よおノムラ。相変わらずやせた顔をしてんな。しっかしまぁお前も随分と堕ちたものだな。ここ1~2年で財産をガチャで溶かして極貧の生活を送ってるんだって?」
「だって面白いじゃないかガチャって。あれを知らないなんて人生丸損だぞ? お前もやったらどうだ?」
男はハァッ。とため息をついて仕事のあっせんを行う。
「お前宛ての依頼がある。とある男を『掃除』して欲しいそうだ」
「ふーん……分かった、引き受けるよ。クライアントにも連絡しといて」
『掃除人』であるノムラと呼ばれた男は仕事を引き受けることにした。
翌日。ノムラの根城近くにあるラーメンチェーン店。そこで彼は麺を2玉使った豚骨醤油のチャーシュー麺大盛を盛大にすすって久しぶりの満腹感を味わう。クライアントに対して要求した「前金」だ。
「しっかし前金がラーメンとはねぇ……本当に大丈夫なのか?」
「ああ大丈夫だ」
ラーメンを胃袋に納め飢えから解放されたのか、ノムラは「仕事人」の顔つきになる。それを見てクライアントは背筋にピリリとしたものが走る。
「用件を聞こうか?」
「この男を『掃除』して欲しい」
依頼人はノムラに『掃除』対象の男に関する資料を渡す。
「報酬は?」
「200」
「分かった、引き受けよう。ただ俺の仕事を低く見積もるのなら容赦しねえからな」
こうして依頼は成立した。
2日後の都内某所の駅近く。そこに高性能のカメラを搭載したドローンの「親機」が3機空を飛んでいた。依頼人の『標的』が来ることを事前に察知したノムラが放っていたものだ。
今ではドローンは民間にも幅広く、当たり前のように普及している時代だ。通行人たちはドローンの存在には気づいているが、どうせTV局の撮影か何かだろうと思って視界には入るが積極的に見ようとはしない。
ノムラも近くのファミレスでパソコンを広げ、3機ある「親機」から送られてくる情報を捌いている。一見ファミレスで仕事をしている人と変わらないのか、彼も特に誰からも注目はされていない。
その時、カメラが『標的』を感知した。親機に搭載されたカメラ──50メートル以上離れた場所からでも人の顔を詳細に判別できるほどの性能を持つもの──で捉えた情報を「子機」及びノムラのパソコンに送信する。
「特徴合致率98.5%」というドローンからの情報を見たノムラは子機に命令を送る。
『標的』の情報を受信した、高度150メートルの上空を飛行していた「子機」は指定されたプログラム通りに動き、一気に地上へと降下する。
「子機」はぐんぐんと加速していき『標的』の頭部に衝突した瞬間、抱えていた爆薬を爆発させた。
ボンッ!
カセットコンロに使うガスボンベが爆発するような音が1発。と同時に『標的』が『掃除』された。彼の頭部は吹っ飛び地上を転がる。それを見て女の甲高い悲鳴や男の叫び声が辺りにこだまする。
全てが終わった後、ノムラはドローンに対し帰還プログラムを作動させ、指定の位置まで自動で飛行させる。ノムラもパソコンをしまい、現場を後にした。
「!! いゃったあああ!」
報酬の200万の内50万円分のガチャを回してピックアップ中のお目当てのキャラを手に入れた。これで限定の物は全部引いたことになる。
残りは150万ほどだがキャッシングの未払い金もあるし、家賃も滞納している。仕事道具の「子機」の作成もタダではないし、カネはいくらあっても足りないのだ。
今やっているゲームのガチャは上限が無いが「出るまで引けば排出率100%」という発想なので特に気にしない。
この調子だとまたすぐに金欠を起こすだろうが、ガチャが生活の基準となっている彼の事だから懲りずに栄養失調を起こして病院に担ぎ込まれるだろう……バカは死ぬまで治らないとは言ったものだ。
掃除屋としての腕はあるのだがそれが内外に知れ渡ることは無いだろう。今日も彼はガチャを回す……当たりが出るまで何度でも。
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