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7月

第20話 収入が多いだけの貧乏人

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「おはよう小僧。1ヶ月以上毎日6時起床を続けているとはなかなかいい根性してるじゃないか」

 朝6時、進はスマホでススムと会話していた。まだ眠いが1か月以上は何とか6時起床を続けている。

「小僧。良い事を教えてやろう。お前は今この瞬間、ハリウッドスターよりも健康的な暮らしをしているぞ。オレが言うんだから間違いないぞ」

「ええ!? ハリウッドスターよりも、ですか!? どういう意味ですか?」

「通話代を小僧に負担させたくないから今日施設で直接会って話そう。じゃあな」

 ガチャ。ツー、ツー、ツー……

 通話が切れた。



 その日の昼間。ちょうど休憩を終えたころにススムが進のもとへと来る。

「あ、ススムさん。今朝のハリウッドスターよりも健康的な暮らしってどういう意味ですか?」

「まぁ焦るな。すぐ教えてやる」

 ススムはがっつく進をなだめつつ話を始めた。



「いいか小僧。カネは「稼いで」「貯める」だけでは不十分だ。

 カネが逃げ出さないように「守る」事とカネが活きるように「使う」事も出来て初めて1人前だ。

 それができなきゃいつまでたっても『貧乏人』だ。収入の多さは関係ない。

 例を出せばハリウッドスターだってそうだ。オレから言わせればそいつらもほぼ全員が貧乏人だ」

「ええ!? ハリウッドスターが!? でも彼らはお金持ってますよ?」

「収入と持ってる物「だけ」を見れば、な。アイツらは入ってきたカネをあるだけ全部使って貯金しない。そんな生活を送っているようではカネは貯まらん。

 入ってくる金額が20「万」円か20「億」円か、ただそれだけの違いだ。オレからすればこういうやつらは『収入が多いだけの貧乏人』に過ぎん」

「『収入が多いだけの貧乏人』ですか……」

 ススムはそこまで言ってふぅ。と一息ついた。そして再び進に語りかける。



「そうだ。『パーキンソンの第2法則』にもあるように「支出は収入の額まで増加する」ものだ。

 そんな『収入が多いだけの貧乏人』の例として「ジョニー・デップ」がいる。

 実際、コイツは数年前に1ヵ月で2億円以上の浪費を重ねて破産寸前のところまで追い詰められているという報道があった。

「つ、月2億ですか!?」

「そうだ、月2億だ。コイツこそ『収入が多いだけの貧乏人』の典型例だ。

 身体は1つなのに高級車を45台も所有しているそうだがバカげてると思わないか? 見た目と稼ぐ能力は超1流かもしれんが、使ったり残すことに関しては3流未満だ。

 カネの貯まらん貧乏人はスケールの大きさが違うだけでコイツと同じことをやっている。稼いだ額を全額使うようではいつまでたっても「自分に支払う」ことが出来ん!」

 ススムはジョニー・デップを『収入が多いだけの貧乏人』とバッサリ斬り捨ててみせた。



「ハリウッドスターの中には少しは頭の回る奴がいて投資に手を出す奴もいる。

 だがほとんどは自分の頭で考えない。他人の言われるがまま詐欺商材にカネを出す。

 投資しようという意志の強さは認めてやってもいいが、自力で考えない限り50歩100歩だな。

 オレも噂でしか聞いたことが無い不確かなことだが、ハリウッドスターを専門に扱うプロの詐欺師集団もいるそうだ」

「ハ、ハリウッドスター専門ですか!?」

「そうだ。だから素人が百戦錬磨のプロに勝てるわけがなく大抵は引っかかるだろうな」

 ススムは話を続ける。



「何もハリウッドスターに限った話じゃないぞ。オレたち日本人も宝くじに『当たってしまったら』彼らと同じ『転落人生』を歩む羽目になるぞ」

「『当たってしまったら転落人生』を歩む? ですか?」

『当たってしまったら』と言ってのけるススムに進は驚きと疑問の声をあげる。



「そうだ。実際、宝くじに当たって一夜にして巨万の富を得たものを追跡調査したら、9割以上の者は当選金を全額使いつぶして元の生活に戻っていたそうだ。

 いや、元の生活に戻れるならまだいいほうだ。派手な生活を維持しようと借金したあげくに自己破産した者もいるし、カネ目当てに殺された者すらいる。

 一夜で巨万の富を得て金持ちになったはいいが、カネの魔力に魅了されて人生を台無しにしてしまった者は数多い」

 ススムの表情からは残念そうな顔がうかがえた。



「いいか小僧。『金持ち』という言葉を分解すれば『金』を『持つ』と書く。

 つまり金持ちはカネを「持ち続ける」ことが出来るからこそ金持ちなのだ。

 持ち続けることが出来ないやつは収入がいくらあろうが貧乏人だ。例え収入がハリウッドスターのように20億あったとしても、だ。

 だからお前はハリウッドスターよりも幸福な人生を歩みつつあるぞ。今朝の話はそういう意味だ」

「そ、そうですか……今一つ実感わかないんですけど」

「なぁに、オレの教えを受け続ければ次第に分かるはずさ」

 ススムは一瞬だけニヤリと笑った……気がした。



【次回予告】

カネに群がるハイエナ、あるいはハゲタカ共がカネのにおいを嗅ぎつけてやってきた。

第21話 「ススムの息子と孫」
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