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一緒に寝るべからず
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「そのぬいぐるみと一緒に眠ってはいけない」
王都はもちろんの事、王から貴族へと任された周辺の領地、さらには隣国までその噂はまことしやかに広まっていった。
その日の早朝、王国兵士たちが行商人相手にとある絵を見せていた。
目の部分には大きなボタンが縫い付けられ、青いチュニックと緑のズボンを着た全身が茶色いクマのぬいぐるみの絵だった。
「このぬいぐるみ、扱っているか? 他の商人が店頭に出していた、でもいい。見かけなかったか?」
「んー……すまないが、扱っても無いし見たこともないなぁ」
「そうか、分かった。仕事中すまなかったな」
「見つかりませんね、先輩」
「今日で2日目か……姫様、無事でいるといいんだが」
2人組の王国兵士は何とか手がかりを探そうと必死だ。
部下が横領をやっても怒らないあの温和な国王が、鬼のような形相で「あのぬいぐるみを探し出せ!」と怒鳴り散らしていたのだから無理もない。
「そのぬいぐるみと一緒に寝ると、この世とは別の世界へと連れ去られてしまう」
王国内外にそんな噂話が広まっていた。普通ならただ庶民の間に流行る娯楽も兼ねた噂話。として王侯貴族は気にもしなかった……はずだった。
それが国王陛下のご勅命でぬいぐるみ探しとなったのは、王国のシャーリー第3王女が王家御用達の店で見かけたそのぬいぐるみをいたく気に入り、
そして2日前の早朝にベッドからこつ然と姿を消して行方不明になってしまったのだ。こうなると王家も全力で捜索しなくてはいけなくなる。
加えてそのぬいぐるみは人から人へ、村から村へ、町から町へ、国から国へと転々とするように姿を消しては現れるという。
実際、シャーリー王女が姿をくらませるのと同時に、そのぬいぐるみも姿を消していた。
まだ6歳の幼い王女の行方不明事件に王家はハチの巣をつついたような大騒ぎだ。王家の兵士のほとんど、そして配下の貴族全員に何としても手かりとなるぬいぐるみを見つけ出せとの事だ。
2人組の王国兵士は今度は骨董品の店へと向かう。そこで……
「あ、ああ。そのぬいぐるみならついさっきまであったよ」
骨董屋の店主からそう言われる。
『ある』じゃなくて『あった』って事は他の誰かに先に売ってしまった、という事か。
「『あった』か。そのぬいぐるみを買った人の顔や姿は分かるか!?」
「んー、全身鎧を着ていて顔は分からなかったな。ただ、そのお客さんは『このぬいぐるみを探している他の連中がいたら「聖書狂い」が手に入れた、と伝えてくれ』と言ってたな」
「聖書狂い……? 先輩、わかります?」
「ああ、知ってるよ。教えてやる」
先輩は後輩に語りだした。
「聖書狂い」
教会所属の悪魔祓いで聖書に従わない連中、特に悪魔に対し並々ならぬ憎悪を抱く男。これまで何度も怪物と呼ばれている悪魔を屠って来た教会屈指の精鋭兵。
聖書に書かれていることを国の法律よりも優先することから「聖書狂い」というあだ名がついたのだ。
2人は店を出て王城へと向かった。
「……本当の話なのか? 聖書狂い殿」
「ああそうだ、このぬいぐるみにはクソッタレの悪魔が取り憑いてやがる」
全身鎧で武装し、鋼鉄製のメイスと盾を持った男が国王と話をしていた。相手は宗教の中でも特に地位が高いのか、国王相手でもタメ口が許されていた。
「今日中に王国兵の中から精鋭を選抜してオレに充てろ。クソッタレの悪魔をブチ殺してやるからな」
「分かった。頼んだぞ、聖書狂い殿」
そう言って男は去っていった。
数時間後……
聖書狂いと集められた王国屈指の精鋭兵5人は王国城下町にある空き地にやってきた。そこに魔法陣を書いて中央にぬいぐるみを置く。
そこにいた者たちの背筋が徐々に寒くなっていく。本物の悪魔を見たことが無い兵士5人は言いようのない違和感に戸惑う。
「あの、聖書狂い殿。いったい何をやってるんですか?」
「この魔法陣には人や物に憑いた悪魔や霊を引っぺがす力が込められている。そろそろ出て来るぞ」
そろそろ出てくる。彼がそう言った直後、紫色の蒸気がぬいぐるみから飛び出て人間のような形、それでいて明らかに人間ではない姿へと変わった。
「テメェら! 構えろ! ぶち殺せ!」
聖書狂いが声をあげた。
王都はもちろんの事、王から貴族へと任された周辺の領地、さらには隣国までその噂はまことしやかに広まっていった。
その日の早朝、王国兵士たちが行商人相手にとある絵を見せていた。
目の部分には大きなボタンが縫い付けられ、青いチュニックと緑のズボンを着た全身が茶色いクマのぬいぐるみの絵だった。
「このぬいぐるみ、扱っているか? 他の商人が店頭に出していた、でもいい。見かけなかったか?」
「んー……すまないが、扱っても無いし見たこともないなぁ」
「そうか、分かった。仕事中すまなかったな」
「見つかりませんね、先輩」
「今日で2日目か……姫様、無事でいるといいんだが」
2人組の王国兵士は何とか手がかりを探そうと必死だ。
部下が横領をやっても怒らないあの温和な国王が、鬼のような形相で「あのぬいぐるみを探し出せ!」と怒鳴り散らしていたのだから無理もない。
「そのぬいぐるみと一緒に寝ると、この世とは別の世界へと連れ去られてしまう」
王国内外にそんな噂話が広まっていた。普通ならただ庶民の間に流行る娯楽も兼ねた噂話。として王侯貴族は気にもしなかった……はずだった。
それが国王陛下のご勅命でぬいぐるみ探しとなったのは、王国のシャーリー第3王女が王家御用達の店で見かけたそのぬいぐるみをいたく気に入り、
そして2日前の早朝にベッドからこつ然と姿を消して行方不明になってしまったのだ。こうなると王家も全力で捜索しなくてはいけなくなる。
加えてそのぬいぐるみは人から人へ、村から村へ、町から町へ、国から国へと転々とするように姿を消しては現れるという。
実際、シャーリー王女が姿をくらませるのと同時に、そのぬいぐるみも姿を消していた。
まだ6歳の幼い王女の行方不明事件に王家はハチの巣をつついたような大騒ぎだ。王家の兵士のほとんど、そして配下の貴族全員に何としても手かりとなるぬいぐるみを見つけ出せとの事だ。
2人組の王国兵士は今度は骨董品の店へと向かう。そこで……
「あ、ああ。そのぬいぐるみならついさっきまであったよ」
骨董屋の店主からそう言われる。
『ある』じゃなくて『あった』って事は他の誰かに先に売ってしまった、という事か。
「『あった』か。そのぬいぐるみを買った人の顔や姿は分かるか!?」
「んー、全身鎧を着ていて顔は分からなかったな。ただ、そのお客さんは『このぬいぐるみを探している他の連中がいたら「聖書狂い」が手に入れた、と伝えてくれ』と言ってたな」
「聖書狂い……? 先輩、わかります?」
「ああ、知ってるよ。教えてやる」
先輩は後輩に語りだした。
「聖書狂い」
教会所属の悪魔祓いで聖書に従わない連中、特に悪魔に対し並々ならぬ憎悪を抱く男。これまで何度も怪物と呼ばれている悪魔を屠って来た教会屈指の精鋭兵。
聖書に書かれていることを国の法律よりも優先することから「聖書狂い」というあだ名がついたのだ。
2人は店を出て王城へと向かった。
「……本当の話なのか? 聖書狂い殿」
「ああそうだ、このぬいぐるみにはクソッタレの悪魔が取り憑いてやがる」
全身鎧で武装し、鋼鉄製のメイスと盾を持った男が国王と話をしていた。相手は宗教の中でも特に地位が高いのか、国王相手でもタメ口が許されていた。
「今日中に王国兵の中から精鋭を選抜してオレに充てろ。クソッタレの悪魔をブチ殺してやるからな」
「分かった。頼んだぞ、聖書狂い殿」
そう言って男は去っていった。
数時間後……
聖書狂いと集められた王国屈指の精鋭兵5人は王国城下町にある空き地にやってきた。そこに魔法陣を書いて中央にぬいぐるみを置く。
そこにいた者たちの背筋が徐々に寒くなっていく。本物の悪魔を見たことが無い兵士5人は言いようのない違和感に戸惑う。
「あの、聖書狂い殿。いったい何をやってるんですか?」
「この魔法陣には人や物に憑いた悪魔や霊を引っぺがす力が込められている。そろそろ出て来るぞ」
そろそろ出てくる。彼がそう言った直後、紫色の蒸気がぬいぐるみから飛び出て人間のような形、それでいて明らかに人間ではない姿へと変わった。
「テメェら! 構えろ! ぶち殺せ!」
聖書狂いが声をあげた。
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