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激闘 ヴェルガノン帝国
第116話 裏切り者
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「ふむ……ここが潮時だろうな。各員、予定通り各地を爆破してくれ」
吸血鬼のシグリッドはそう指示する。それを受けるアンデッドたちは身体に爆薬を巻き付けていた。
その日の翌日の早朝……ヴェルガノン帝国各地で爆発音と火柱が上がった。
「陛下! 緊急事態です! 各地の鍛冶屋や木造の橋が爆破され使い物にならなくなっています!」
「何だと!? 誰の仕業だ!?」
「調査中で確証はまだですが、おそらくシグリッドの手によるものかと思われます」
「ぬぅう……シグリッドめ、何のつもりだ!?」
対ハシバ国の戦闘では敗戦続きでいらだっていた上に、シグリッドの裏切りとでも言うべき背信行為。悩みの種が増えるばかりであった。
青白い肌と髪をした、世界的に名高い芸術家が手掛けた芸術作品のように整った顔立ちを持ち、口元には牙が見える人間に非常によく似た、それでいて人間ではない男が家族とともに小型の船に乗っていた。
彼の周りにいるのは人間の女性2人に3人の息子と2人の娘。子供たちは父親同様に肌が青白かった。この日のために買っておいた小船でひそかに家族を連れて港を発ち、一路ハシバ国を目指していた。
「あなた、大丈夫なんでしょうか?」
「安心するんだ。マコトの国は魔物をも広く受け入れているそうだ。私のような吸血鬼やその血縁者でも受け入れてくれるだろう」
人間ではない男は自らの妻2人を安心させるよう優しい口調で答えた。船は無事に都市国家シューヴァルにたどり着き、一同はハシバ国へと向かった。
「閣下、謁見したいと申し出ている方がおります。なんでもヴェルガノン帝国の情報を持っているとのことですがいかがいたしましょうか?」
「! ヴェルガノン帝国の情報を!? わかった、通してくれ。くれぐれも粗相の無いようにな」
マコトのもとに現れたのは病気でもしているかのような青白い肌をした、端整な顔立ちにかなり上物の服を着た男だった。
「貴方がハシバ国王マコト殿と見受けられる。私はシグリッド。ヴェルガノン帝国の元司令官です」
「シグリッド、とか言ったな。まるで女のような名前だな。見たところ男装の令嬢というわけではなさそうだが」
「よく言われます。おかげさまですぐに名前と顔を憶えてもらえます」
「なぜ司令官の地位を捨ててまで俺の国にくるんだ?」
マコトは問う。司令官の地位を捨ててまでなぜ敵である自分のところに来るのか? 大いに疑問であった。
「端的に言えば、世界の文明や文化を守るためです。
不死者というのは上から言われたことをいつまでも繰り返すだけで、私のような指示する者たちが変更しない限り自発的に成長も改良もしません。言ってみれば『時が止まっている』んです。
もしヴェルガノン帝国が世界の覇権を握ったら文明や文化の進歩や成長はほぼ完全に止まります。それが嫌でヴェルガノン帝国の対抗勢力である貴方に助力したくてまいりました」
「なるほどね……一理ありそうだな。ところでヴェルガノン帝国の情報を持っているそうだが、それはどんなものだ?」
マコトがそう問うと男は1枚の羊皮紙を取り出した。
「帝国の地図です。私が知る限りでの兵力分布も書き込んであります」
ヴェルガノン帝国には生者は入国できないため、ラタトスクの情報網を駆使しても帝国の地図すら手に入れることが出来なかった。その貴重な地図が手に入るだけでも十分な収穫だ。
「なるほど、これがヴェルガノン帝国の情報か。なかなかのものだな。じゃあ忠誠を誓ってもらおうか?」
マコトはスマホを取り出し、画面をシグリッドに向ける。
「いいでしょう。私はシグリッド。闇の力をもって光に生きる者の力になろう」
そういうと彼の胸から虹色の球状の光が飛び出し、マコトのスマホの中に入っていた。
「ほほぉ! 吸血鬼か! いるとは知っていたがまさか本当に見ることが出来るとはなぁ! ちょっと聞きたいことが何個もあるから答えてくれませんかね!?」
魔物研究家のクローゼは目をキラキラさせながらシグリッドを質問責めに近い恰好で接していた。
「ふむふむ。言い伝えのように血を吸われた相手は吸血鬼にはならないという事か」
「ええそうです。他の生き物同様に交わりで増やしますし、父親の種族が優先されるのも他の魔物同様です」
「それと、日光には弱いと聞いていましたが普通に生きていますな? その辺はどうなっているんでしょうか?」
「日光の元では十分な力を発揮出来はしませんが、普通の人間程度として生きる上では何の支障もありませんよ」
「フームそうか。伝承はずいぶんと歪んだ表記になってるな。聞きたいことはまだまだたくさんありますぞ。ほかには……」
彼の質問はほぼ1日中続いたという。
その翌日には……
「良いわねぇあなた。ここまでの美形はめったに見ないわ」
「アデライトさん、あなた怖くないのですか? 私は人間ではないのですが」
「ん~、別にそこまで気にしてはいないわね。なにせゴブリンやオークやダークエルフが平気で住んでいる国だからね」
アデライトのアトリエに呼ばれ、新作の人物画のモデルとなっていた。相手が美形なのか彼女の筆はいつも以上に進んでいたという。
「よし、できたわ。協力ありがとうね。後で見本を送るから期待して待っててね」
「分かりました。楽しみにしてますよ」
バタン、とアトリエのドアを閉めて彼はふぅ、と一息つく。外ではマコトが待っていた。
「噂には聞いていましたが一応は魔物である私を本当に少しも恐れないとは……これがマコト殿の国流の洗礼ですかね?」
「まぁな。良い国だろ? 慣れればどうってことないさ」
「そうですか……なんだか妙な気分になりますな。もう少し恐れてもいいとは思うのですがねぇ」
「移民とかも最初は面食らってたけどそのうちみんな慣れて気にしなくなるさ。ま、そういうもんだと割り切ってくれ」
「は、はぁ、そうですか……」
今一つ納得いかない顔でシグリッドは答えた。
【次回予告】
そもそも、なぜヴェルガノン帝国皇帝は不死者の力で世界の支配に乗り出そうとしたのだろうか?
第117話 「デュークの過去」
吸血鬼のシグリッドはそう指示する。それを受けるアンデッドたちは身体に爆薬を巻き付けていた。
その日の翌日の早朝……ヴェルガノン帝国各地で爆発音と火柱が上がった。
「陛下! 緊急事態です! 各地の鍛冶屋や木造の橋が爆破され使い物にならなくなっています!」
「何だと!? 誰の仕業だ!?」
「調査中で確証はまだですが、おそらくシグリッドの手によるものかと思われます」
「ぬぅう……シグリッドめ、何のつもりだ!?」
対ハシバ国の戦闘では敗戦続きでいらだっていた上に、シグリッドの裏切りとでも言うべき背信行為。悩みの種が増えるばかりであった。
青白い肌と髪をした、世界的に名高い芸術家が手掛けた芸術作品のように整った顔立ちを持ち、口元には牙が見える人間に非常によく似た、それでいて人間ではない男が家族とともに小型の船に乗っていた。
彼の周りにいるのは人間の女性2人に3人の息子と2人の娘。子供たちは父親同様に肌が青白かった。この日のために買っておいた小船でひそかに家族を連れて港を発ち、一路ハシバ国を目指していた。
「あなた、大丈夫なんでしょうか?」
「安心するんだ。マコトの国は魔物をも広く受け入れているそうだ。私のような吸血鬼やその血縁者でも受け入れてくれるだろう」
人間ではない男は自らの妻2人を安心させるよう優しい口調で答えた。船は無事に都市国家シューヴァルにたどり着き、一同はハシバ国へと向かった。
「閣下、謁見したいと申し出ている方がおります。なんでもヴェルガノン帝国の情報を持っているとのことですがいかがいたしましょうか?」
「! ヴェルガノン帝国の情報を!? わかった、通してくれ。くれぐれも粗相の無いようにな」
マコトのもとに現れたのは病気でもしているかのような青白い肌をした、端整な顔立ちにかなり上物の服を着た男だった。
「貴方がハシバ国王マコト殿と見受けられる。私はシグリッド。ヴェルガノン帝国の元司令官です」
「シグリッド、とか言ったな。まるで女のような名前だな。見たところ男装の令嬢というわけではなさそうだが」
「よく言われます。おかげさまですぐに名前と顔を憶えてもらえます」
「なぜ司令官の地位を捨ててまで俺の国にくるんだ?」
マコトは問う。司令官の地位を捨ててまでなぜ敵である自分のところに来るのか? 大いに疑問であった。
「端的に言えば、世界の文明や文化を守るためです。
不死者というのは上から言われたことをいつまでも繰り返すだけで、私のような指示する者たちが変更しない限り自発的に成長も改良もしません。言ってみれば『時が止まっている』んです。
もしヴェルガノン帝国が世界の覇権を握ったら文明や文化の進歩や成長はほぼ完全に止まります。それが嫌でヴェルガノン帝国の対抗勢力である貴方に助力したくてまいりました」
「なるほどね……一理ありそうだな。ところでヴェルガノン帝国の情報を持っているそうだが、それはどんなものだ?」
マコトがそう問うと男は1枚の羊皮紙を取り出した。
「帝国の地図です。私が知る限りでの兵力分布も書き込んであります」
ヴェルガノン帝国には生者は入国できないため、ラタトスクの情報網を駆使しても帝国の地図すら手に入れることが出来なかった。その貴重な地図が手に入るだけでも十分な収穫だ。
「なるほど、これがヴェルガノン帝国の情報か。なかなかのものだな。じゃあ忠誠を誓ってもらおうか?」
マコトはスマホを取り出し、画面をシグリッドに向ける。
「いいでしょう。私はシグリッド。闇の力をもって光に生きる者の力になろう」
そういうと彼の胸から虹色の球状の光が飛び出し、マコトのスマホの中に入っていた。
「ほほぉ! 吸血鬼か! いるとは知っていたがまさか本当に見ることが出来るとはなぁ! ちょっと聞きたいことが何個もあるから答えてくれませんかね!?」
魔物研究家のクローゼは目をキラキラさせながらシグリッドを質問責めに近い恰好で接していた。
「ふむふむ。言い伝えのように血を吸われた相手は吸血鬼にはならないという事か」
「ええそうです。他の生き物同様に交わりで増やしますし、父親の種族が優先されるのも他の魔物同様です」
「それと、日光には弱いと聞いていましたが普通に生きていますな? その辺はどうなっているんでしょうか?」
「日光の元では十分な力を発揮出来はしませんが、普通の人間程度として生きる上では何の支障もありませんよ」
「フームそうか。伝承はずいぶんと歪んだ表記になってるな。聞きたいことはまだまだたくさんありますぞ。ほかには……」
彼の質問はほぼ1日中続いたという。
その翌日には……
「良いわねぇあなた。ここまでの美形はめったに見ないわ」
「アデライトさん、あなた怖くないのですか? 私は人間ではないのですが」
「ん~、別にそこまで気にしてはいないわね。なにせゴブリンやオークやダークエルフが平気で住んでいる国だからね」
アデライトのアトリエに呼ばれ、新作の人物画のモデルとなっていた。相手が美形なのか彼女の筆はいつも以上に進んでいたという。
「よし、できたわ。協力ありがとうね。後で見本を送るから期待して待っててね」
「分かりました。楽しみにしてますよ」
バタン、とアトリエのドアを閉めて彼はふぅ、と一息つく。外ではマコトが待っていた。
「噂には聞いていましたが一応は魔物である私を本当に少しも恐れないとは……これがマコト殿の国流の洗礼ですかね?」
「まぁな。良い国だろ? 慣れればどうってことないさ」
「そうですか……なんだか妙な気分になりますな。もう少し恐れてもいいとは思うのですがねぇ」
「移民とかも最初は面食らってたけどそのうちみんな慣れて気にしなくなるさ。ま、そういうもんだと割り切ってくれ」
「は、はぁ、そうですか……」
今一つ納得いかない顔でシグリッドは答えた。
【次回予告】
そもそも、なぜヴェルガノン帝国皇帝は不死者の力で世界の支配に乗り出そうとしたのだろうか?
第117話 「デュークの過去」
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