呪殺王と読心姫 ~疎まれ者同士が一緒に歩むことになりました~

あがつま ゆい

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第33話 ユリの花

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(あ、また変わってる)

 カレンの寝室には結婚した辺りから花が飾られている花瓶が置かれていた。不定期ではあるもののたまに変わっていて今回はオレンジ色をした大形のユリ、オニユリが飾られていた。

「ねぇ、今日も花瓶の花が変わってるけど誰が交換してるの?」

 彼女は1日の仕事を終えて普段着から寝間着に着替えをしてもらっている最中に、手伝ってくれているメイドに聞いてみることにした。

「ああ、あの花瓶の事ですか。特に決まってはいませんけど温室から花が届いたらその場にいるメイドや執事が入れ替えるようにしています」

「そ、そう。ところで城下町には花を育てる温室もあるの? 私は見てないけど……」

 そう言えばデニスと一緒に何回か各地を視察することがあったが、温室を訪ねる事は無かった。



「温室は山の町にあって、そこでは温泉が湧くのでその熱で温めているそうですよ」

「いるそうです……?」

 どこか他人事のような口調で答えるメイドの話にちょっと引っ掛かりを覚えた。

「私は話を聞いているだけで実際にその町まで出かけたことはないんですよ。いつかは温泉旅行にでも行きたいと思っているのですが、なかなかまとまったお休みが取れなくて……」

「へぇ、この国は温泉まであるのね。実家のエドワード王国とは大違いだわ」

 エドワード王国には温泉地が無かったので、そこでもこの国は恵まれているんだなと改めて思った。今度まとまった休みが取れたら家族そろって温泉地に旅行にでも行こうかと、楽しみにすることにした。
 温泉が出るとあれば観光地としてかなり栄えているはずだ、きっと賑やかな場所なんだろうなと期待していた。



 数日後……



「失礼いたします、王妃様」

 カレンが仕事の休憩で城内の自室にいたとき、執事の一人が新しい花を持ってやってきた。運ばれてきた花は白ユリで、植木鉢に植えられた状態だった。

「お仕事お疲れ様。それはこの部屋に飾る新しい花でしょうか? 植木鉢に植えてある状態ですけど」

「王妃様。お声がけありがたいですね。城から温室まで歩きだと丸1日かかってしまいますので、温室で切ってから王都に運ぶとなるとどうしても鮮度が落ちてしまうんです。
 だから植木鉢に土の中に植えた状態で運んで、城内で切るようにしています」

 執事はそう答える。植木鉢に植えた状態で丸ごと持ってくるとなると相当な重労働だというのに、よくやるなぁ。カレンは感心していた。



「へぇ。手間がかかってるじゃない」

「王家の人間に対する仕事ですから最大限の手間をかけるのは当然の事ですからね。逆にここまでやらなければ手抜きだと思われても仕方ありませんよ」

「そう、こだわってるのね」

 上司に説明しながら慣れた手つきで花瓶の花を入れかえている執事。そこへ……

「よう、カレン」

 デニスがやってきた。



「あ、陛下!」

「あら、デニスさん」

「俺も仕事が一息ついたから様子を見に来たんだ。で、どうだい? こういうのがあると生活にいろどりって奴が出るだろ? まぁどんな花もお前には負けるけどな」

「もう、デニスさんったらカッコつけちゃって……」

「嫌か?」

「そりゃ嬉しいけど……」

 2人のやり取りを見て執事の手が止まる。



「まだ新婚だからお熱いことですね、御二方おふたかたは」

「まぁな。理想を言えば新婚ムードのまま年を取ることだがな。せっかく夫婦になったんだから冷え切った仲よりもお互い愛し愛されっていう仲がいいだろ?」

「ですねぇ。陛下ならできると思いますよ」

「そう言ってくれると嬉しいねぇ」

 執事は仕える主にそう好意的な言葉を返す。
 さすがに王家に仕える人間となると親デニス派で固められているのか、デニスやカレンの周りの人間は全体的に2人に対し好印象を持っている。特に衝突することなく平和な暮らしが続いていた。

 執事は花の入れ替えを終えるとカレンの部屋を後にした。残されたのはデニスとカレンの2人。



「……リップサービスなんですか? さっきのは」

 どんな花もお前には負ける、というさっきの言葉に関してだ。

「半分は本当だな。もちろんリップサービスの部分もあるけどな。ひょっとしてそういうの苦手なのか?」

「ちょっと上手く言葉にできないんですが、そんな風に言われるとモヤモヤするんですね。今まで味わったことが無い感覚と言いますか、なんというか妙な気分になるんですよね」

「あー、それかあ……」

 デニスはカレンの至近距離まで歩いてお互い顔を向け合う。お互いの鼻が触れそうになるくらいの距離だ。



「!? で、デニスさん!?」

「大事な話だからちゃんと俺の目を見て話を聞いてくれ」

 夫は妻へ重要なことを伝えた。

「いいかカレン。お前は家族や周りの人間にいびられて育ったんだから、好意を向けられたことはほとんどないはずだ。
 だからいざ好意を向けられたとしてもそれを好意と認識できずに「変な気持ちだ」と解釈して処理するだろう。
 それじゃダメなんだ。好意を受け取ったら素直に好意を返せばいい。変に考えるよりはすぐに好意を返す方が上手くいくだろう。日常から式典までみんなそうだ。忘れないでくれ」

「は、はぁ……」

 カレンは今一つ納得いく形で飲み込むことはできなかった。



「まぁお前12なんだろ? 今からでも遅くはねぇ。少しずつ直していくんだな。大丈夫、俺も昔はそうだったけど今じゃこうやってまともな人間になれたんだから」

「そうですか。褒められたら素直にうれしいって思ってもいいんですね。初めて知りましたよ」

 婚約前にアランドル王家に来てからだいぶ経つがそれでも「褒められる=皮肉」という図式は完全には崩れていなかった。
 同類であるデニスの鼻はそこを嗅ぎ付けてたのだろう、カレンにそう告げる。
 そして彼女からの返事も予想通りで「褒められたら素直にうれしいって思ってもいいんですね」であり、幼少期に家族からいびられた人間特有のものだった。



「俺も昔はお前と同じような考えをしてたからよく分かる。正直良い事なんてなくて損するばかりだから早めに直しとけ」

「そ、そうですか。あ、時間だから行かなきゃ」

「分かった、お前も仕事がんばれよ」

「はい、行ってきますね」

 カレンはデニスの言葉を完全に飲み込んではいなかったが、それでもかなり大事なことだというのは分かっていた。
 今度同じ事があったら彼の言うとおりにしよう。そう思いながら仕事にかかるのだった。
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