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第39話 襲撃
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「……」
3人はボルテア領内に今年に入って新しくできた観光客向けの劇場で芝居を見ていた。
「どうだロロム、面白いか?」
「ん~……主役とヒロインは良いんだけど他の人の演技は「いまいち」かなー。なんか演技してるっぽく見えちゃう。王都の劇団の方が実力が上、っているのがあるけどね」
ロロムは演劇を見るのが好きで、家庭教師による授業の無い日は城下町の劇場に割と頻繁に出かけていた。それもあって5歳にしては演劇に関してそれなりに目が肥えている。
彼の目からしたら主人公とヒロイン以外は……という事らしい。随分と「ませている」話だ。
「ハァーア。今度はお風呂かー」
「しょうがねえだろカレンのリクエストなんだ。姉様のためにも入ろうぜ」
劇を見終わった後は3人そろってカレンの目的である「美人の湯」がある温泉旅館に「日帰り」という形で入ることにした。
宿泊先のホテルにも温泉の湯は引いてあったのだが泉源が違うので彼女が入りたかった「美人の湯」ではなかったのだ。
護衛の兵士を連れたデニス一行は浴場入り口まで着き、兵士をそこで待機させて中へと入ろうとした時だ。
「僕、姉様と一緒に入るー」
ロロムがゴネだした。子供の特権ってやつを使おうとしたのだが……。
「ロロム、お前は男だろ。入るのは男湯だ」
「ロロム君、あなたは男の子なんだからデニスさんと一緒に入ってね」
「……はーい。チェッ」
2人とも穏便に男湯に入るよう促す。これ以上怒らせたらまずいと思ったのか少年は素直に従った。
◇◇◇
「……そうか。分かった」
連絡役からの報告を聞いて男たちに緊張が走る。ついに本番がやってきたのだ。
「呪殺王と魔女姫はそろって入浴中だから今がチャンスだぞ。目標は呪殺王と魔女姫。決してロロム様には手を出すなよ。行くぞ!」
8人の男たちは、鎧に身を包み剣や槍などで武装しているという「観光地としてはかなり場違いな姿」でアランドル王家専属の馬車が止めてある旅館に突撃していった。
「!? お客様!? 何なんですかその恰好は!?」
冒険者らしき8人の男たちは「明らかにまともな観光客」ではない出で立ちだった。彼らは受付をスルーして大浴場に突入しようとする。
が、大浴場入り口にはデニスが連れてきた兵士5名と、ボルテア領主から託された精鋭兵4名が立ちはだかり、斬りあいに発展する!
「!? な、なんだコイツら!?」
「ビビるな! それでも精鋭兵か!? ボルテアの恥さらしにだけはなるなよ!」
「は、はい!」
特にボルテア出身の兵士は戸惑いを隠しきることはできなかった。
彼らは「もしもの時」に備えて日々過酷な訓練を受けてきた。だがその「もしもの時」がこんなにも早く「本当に」来てしまうとは! 目の前で「本番」が始まってしまうとは!
普通の兵ですら動揺してしまう場面でも、彼らは精鋭兵。疑問や恐怖を頭の隅に追いやり、目の前の敵と戦う。
普通の人間はまず聞かない「ガギン、ガギン、という金属と金属とが激しくぶつかり、こすれあう音」が辺りに響いた。
「!? 何だ!?」
風呂上がりのデニスとロロムは突如始まった斬りあいに客の悲鳴やその場を逃げ出す無関係な人たちを見て何か重大な異変が起きたことを悟る。
「ロロム! 悪いがお前はトイレに鍵をかけて籠ってろ! 俺か関係者が合図するまで絶対に出るなよ!」
「は、はい!」
ロロムを安全な場所に避難させ、簡素な着替えを着て自分は戦場へと突っ込む。平穏な時でも入浴時以外は常に身に着けているようにしている剣を持って、それを抜いた。
「! しまった! 1人が女湯に! 王妃様が危ない!」
「どうした!?」
デニスが「最前線」に来た時には、既に敵を1人逃がしてしまった後だった。
「陛下! 敵襲です! 王妃様が危ない!」
「わかった! カレンは俺が守る! お前たちはそいつらを頼んだぞ!」
デニスは叫ぶようにそう言うと女湯へと突入していく。頭にあるのはもちろんカレンは無事か? という事だけだった。
「? 何かしら?」
美人の湯に浸かっているカレンは騒がしい客の悲鳴を聞いて「何が起きたんだろう?」と疑問に思う。その直後、剣と鎧で武装した男が浴場に突っ込んできた。
え? 何? 男? ここは女湯。なんで男が?
一瞬戸惑うが、殺意を秘めた瞳が自分を射抜いているのを察して「標的は私だ」と言うのを理解した。
彼女は身を引いてなるべく湯船の中央に向かう。だが相手は強靭な肉体を駆使してジャンプしてカレンめがけて斬りかかる!
「!!」
カレンは自分に向けて剣が振り下ろされる瞬間、目をつぶった。
しばらくして……
(あれ……私、生きてる……)
恐る恐る目を開けてみるが、身体のどこかを斬られた感覚はない。カレンに飛びかかってきた男は湯船の中に沈んでいた。彼女の危機を聞いて駆け付けたデニスが呪殺の能力で倒したのだ。
「カレン! 無事か!? ……よかった」
デニスは妻の無事を確認してようやく表情をほどいた。
「……って、デニスさん! ここ女湯ですよ!?」
「しょうがねえだろお前を助けるためにはこうするしかなかったんだ。今出るから」
デニスは乱入した男たちを見てキャーキャー騒ぐ女の客を無視して、今もなお戦っているであろう兵士たちを援護するために浴場入り口まで戻っていった。
「こっちは片付いた! そっちは!?」
「終わりました」
デニスが浴場入り口まで戻ると既に戦闘は終わっていた。敵は全滅し、味方は命に関わるほどではないが大ケガを負ったものが5名。何とか食い止めることはできたのだ。
「そうだ、ロロムを」
デニスは男湯のトイレに籠っているロロムを思い出して迎えに行った。
「兄様! ご無事で! ……すごく臭かったけど我慢しましたよ」
「そうか、悪いな迷惑かけちまって。もう安全だから安心しろよ」
兄弟は無事に片割れと再会する。その直後、
「ロロム君! 大丈夫!?」
カレンも着替えを終えてやってきた。その表情は家族が無事なのを見た安堵だった。
その後、本当は4日間滞在する予定だったが急きょ切り上げ、その日の午後に王都まで帰ることになった。
3人はボルテア領内に今年に入って新しくできた観光客向けの劇場で芝居を見ていた。
「どうだロロム、面白いか?」
「ん~……主役とヒロインは良いんだけど他の人の演技は「いまいち」かなー。なんか演技してるっぽく見えちゃう。王都の劇団の方が実力が上、っているのがあるけどね」
ロロムは演劇を見るのが好きで、家庭教師による授業の無い日は城下町の劇場に割と頻繁に出かけていた。それもあって5歳にしては演劇に関してそれなりに目が肥えている。
彼の目からしたら主人公とヒロイン以外は……という事らしい。随分と「ませている」話だ。
「ハァーア。今度はお風呂かー」
「しょうがねえだろカレンのリクエストなんだ。姉様のためにも入ろうぜ」
劇を見終わった後は3人そろってカレンの目的である「美人の湯」がある温泉旅館に「日帰り」という形で入ることにした。
宿泊先のホテルにも温泉の湯は引いてあったのだが泉源が違うので彼女が入りたかった「美人の湯」ではなかったのだ。
護衛の兵士を連れたデニス一行は浴場入り口まで着き、兵士をそこで待機させて中へと入ろうとした時だ。
「僕、姉様と一緒に入るー」
ロロムがゴネだした。子供の特権ってやつを使おうとしたのだが……。
「ロロム、お前は男だろ。入るのは男湯だ」
「ロロム君、あなたは男の子なんだからデニスさんと一緒に入ってね」
「……はーい。チェッ」
2人とも穏便に男湯に入るよう促す。これ以上怒らせたらまずいと思ったのか少年は素直に従った。
◇◇◇
「……そうか。分かった」
連絡役からの報告を聞いて男たちに緊張が走る。ついに本番がやってきたのだ。
「呪殺王と魔女姫はそろって入浴中だから今がチャンスだぞ。目標は呪殺王と魔女姫。決してロロム様には手を出すなよ。行くぞ!」
8人の男たちは、鎧に身を包み剣や槍などで武装しているという「観光地としてはかなり場違いな姿」でアランドル王家専属の馬車が止めてある旅館に突撃していった。
「!? お客様!? 何なんですかその恰好は!?」
冒険者らしき8人の男たちは「明らかにまともな観光客」ではない出で立ちだった。彼らは受付をスルーして大浴場に突入しようとする。
が、大浴場入り口にはデニスが連れてきた兵士5名と、ボルテア領主から託された精鋭兵4名が立ちはだかり、斬りあいに発展する!
「!? な、なんだコイツら!?」
「ビビるな! それでも精鋭兵か!? ボルテアの恥さらしにだけはなるなよ!」
「は、はい!」
特にボルテア出身の兵士は戸惑いを隠しきることはできなかった。
彼らは「もしもの時」に備えて日々過酷な訓練を受けてきた。だがその「もしもの時」がこんなにも早く「本当に」来てしまうとは! 目の前で「本番」が始まってしまうとは!
普通の兵ですら動揺してしまう場面でも、彼らは精鋭兵。疑問や恐怖を頭の隅に追いやり、目の前の敵と戦う。
普通の人間はまず聞かない「ガギン、ガギン、という金属と金属とが激しくぶつかり、こすれあう音」が辺りに響いた。
「!? 何だ!?」
風呂上がりのデニスとロロムは突如始まった斬りあいに客の悲鳴やその場を逃げ出す無関係な人たちを見て何か重大な異変が起きたことを悟る。
「ロロム! 悪いがお前はトイレに鍵をかけて籠ってろ! 俺か関係者が合図するまで絶対に出るなよ!」
「は、はい!」
ロロムを安全な場所に避難させ、簡素な着替えを着て自分は戦場へと突っ込む。平穏な時でも入浴時以外は常に身に着けているようにしている剣を持って、それを抜いた。
「! しまった! 1人が女湯に! 王妃様が危ない!」
「どうした!?」
デニスが「最前線」に来た時には、既に敵を1人逃がしてしまった後だった。
「陛下! 敵襲です! 王妃様が危ない!」
「わかった! カレンは俺が守る! お前たちはそいつらを頼んだぞ!」
デニスは叫ぶようにそう言うと女湯へと突入していく。頭にあるのはもちろんカレンは無事か? という事だけだった。
「? 何かしら?」
美人の湯に浸かっているカレンは騒がしい客の悲鳴を聞いて「何が起きたんだろう?」と疑問に思う。その直後、剣と鎧で武装した男が浴場に突っ込んできた。
え? 何? 男? ここは女湯。なんで男が?
一瞬戸惑うが、殺意を秘めた瞳が自分を射抜いているのを察して「標的は私だ」と言うのを理解した。
彼女は身を引いてなるべく湯船の中央に向かう。だが相手は強靭な肉体を駆使してジャンプしてカレンめがけて斬りかかる!
「!!」
カレンは自分に向けて剣が振り下ろされる瞬間、目をつぶった。
しばらくして……
(あれ……私、生きてる……)
恐る恐る目を開けてみるが、身体のどこかを斬られた感覚はない。カレンに飛びかかってきた男は湯船の中に沈んでいた。彼女の危機を聞いて駆け付けたデニスが呪殺の能力で倒したのだ。
「カレン! 無事か!? ……よかった」
デニスは妻の無事を確認してようやく表情をほどいた。
「……って、デニスさん! ここ女湯ですよ!?」
「しょうがねえだろお前を助けるためにはこうするしかなかったんだ。今出るから」
デニスは乱入した男たちを見てキャーキャー騒ぐ女の客を無視して、今もなお戦っているであろう兵士たちを援護するために浴場入り口まで戻っていった。
「こっちは片付いた! そっちは!?」
「終わりました」
デニスが浴場入り口まで戻ると既に戦闘は終わっていた。敵は全滅し、味方は命に関わるほどではないが大ケガを負ったものが5名。何とか食い止めることはできたのだ。
「そうだ、ロロムを」
デニスは男湯のトイレに籠っているロロムを思い出して迎えに行った。
「兄様! ご無事で! ……すごく臭かったけど我慢しましたよ」
「そうか、悪いな迷惑かけちまって。もう安全だから安心しろよ」
兄弟は無事に片割れと再会する。その直後、
「ロロム君! 大丈夫!?」
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