4 / 26
第4話 孤児院経営
しおりを挟む
「……」
宿で1泊した早朝、エクムントは胸の中にしまっていたロケットペンダントを取り出す。中を開けると銀色の髪と黄金色の瞳をした女のエルフの絵が入れられていた。
絵だとしても彼女は息をのむほど美しい女性だった。
「……エルフィーナ」
エクムントはかつての妻の名をぼそりとつぶやく。今の彼がいるのも、彼女のおかげだ。
(ここは確かアーデルハイド孤児院があったな。顔を出してみるか)
病に伏した先代の王を救った翌日、エクムントは小切手をもって孤児院に顔を出す事にした。王都から1時間歩いて都郊外の自然の残る土地、そこに目的の場所はあった。
その孤児院は手入れが行き届いていて細部まできれいに清掃されていて清潔な場所で、子供たちの声がそこかしこで聞こえる。かなり良い環境で子供たちはすくすくと育っていた。
「君、アーデルハイド院長を呼んできてくれないか? 「エクムント=バルミングが来た」と言えばわかるはずだよ」
エクムントは職員であろう子供たちの世話をしていた青年に話しかける。
「? は、はい分かりました。少々お待ちいただけますか?」
そう言い残して彼は院長室へと向かう。中には中年の女が執務をしていた。
「院長先生、エクムント=バルミングなる冒険者らしい人が先生を呼んでいるのですがいかがいたしましょうか? 不審者ではなさそうなのですが……」
「!! エクムントさんが!? 分かったわ。今すぐ行くと伝えてちょうだい」
仕事を中断し、彼のもとへと向かった。
「エクムントさん。通信で話は何度かしてるけど顔を合わせて話をするのは久しぶりね」
「そうだな。アーデルハイド、孤児院の経営は上手くいってるか? まぁこの様子だと順調だとは思うがな」
「今のところはね。国王陛下による補助金が増えて助かってるわ。もちろんあなたからの寄付金も従業員の給料や施設の維持費に使ってるわ」
エクムントはここを含めて3つの孤児院に多額の寄付を納めて経営を陰から支えている。クエストで稼いだ金の大半はこれに消えてしまうのだ。
「ねぇエクムントさん。旅が終わったら私のところに……」
「それは出来ない相談ですな。私は人生をかけて贖罪を続けなくてはいけないんです。家庭を作ることなど、もってのほかですよ。
それにあなたは結婚もして子供もいるじゃないですか。家庭の間に割って入るなんていう無粋な真似は到底出来ませんよ」
「相変わらずよね。噂話でしか聞いたことは無いけど、確か家族を殺したとは耳に入ってるわ。今のあなたを見てても到底信じられない話だけど」
「それは本当です。昔の私は数えきれない程の人を殺してきました。その罪は到底償いきれるものではありません」
「あなたは充分よくやってるわ。孤児院をここも含めて3つ出資してるんでしょ? それだけやればきっと神様も天国へ連れていってくれるわ」
「神様、ですか……」
エクムントは彼女の言葉を聞いて、少し黙る。
「あいにく私は神なんて信じていません。もしも神というのが本当に居るのなら、私のような大罪人は今すぐ裁きの炎に焼かれるべきなのに一向に来やしませんからね。
こうして1人の人間としてのうのうと呼吸をし、のうのうと食事を食べ、のうのうと水を飲み生きている。
それ自体が大間違いなほどの罪を犯しているのに何年もの間誰にも裁かれませんからね。神というのは人間が作ったまやかしでしょうな」
「その辺は相変わらずで変わらないよね。話したくなったら私のところに来てちょうだい。隠し事をするような仲じゃないんだし」
「そうですな。それとこれを受け取ってほしい。これで2ヶ月は持つだろう」
そう言ってエクムントは小切手を渡す。
「いつもすまないわね。助かってるわ」
「お金で子供の命や人生が救えるのなら安いですな。あまり立ち寄れなくて金しか渡していないのですまないと思ってはいるんですが」
「あなたが謝る事なんて何1つないわ。あなたからの寄付金はとても役に立ってるわよ」
「そうか。では私は仕事を求めて旅に出るから、またな」
「あなたが来てくれるというのならいつでも歓迎するわ。待ってるからね」
そう言ってエクムントは再び旅の続きをすることにした。
目指す地はウイスキーで有名なイスターナ国。とりあえずそこの銘酒を久々に飲むのが目的だ。
【次回予告】
今度のクエストは気難しい職人の説得だった。知り合いを作るための話術に長けるエクムントの力はどこまで通用するだろうか?
第5話 「頑固職人の説得」
宿で1泊した早朝、エクムントは胸の中にしまっていたロケットペンダントを取り出す。中を開けると銀色の髪と黄金色の瞳をした女のエルフの絵が入れられていた。
絵だとしても彼女は息をのむほど美しい女性だった。
「……エルフィーナ」
エクムントはかつての妻の名をぼそりとつぶやく。今の彼がいるのも、彼女のおかげだ。
(ここは確かアーデルハイド孤児院があったな。顔を出してみるか)
病に伏した先代の王を救った翌日、エクムントは小切手をもって孤児院に顔を出す事にした。王都から1時間歩いて都郊外の自然の残る土地、そこに目的の場所はあった。
その孤児院は手入れが行き届いていて細部まできれいに清掃されていて清潔な場所で、子供たちの声がそこかしこで聞こえる。かなり良い環境で子供たちはすくすくと育っていた。
「君、アーデルハイド院長を呼んできてくれないか? 「エクムント=バルミングが来た」と言えばわかるはずだよ」
エクムントは職員であろう子供たちの世話をしていた青年に話しかける。
「? は、はい分かりました。少々お待ちいただけますか?」
そう言い残して彼は院長室へと向かう。中には中年の女が執務をしていた。
「院長先生、エクムント=バルミングなる冒険者らしい人が先生を呼んでいるのですがいかがいたしましょうか? 不審者ではなさそうなのですが……」
「!! エクムントさんが!? 分かったわ。今すぐ行くと伝えてちょうだい」
仕事を中断し、彼のもとへと向かった。
「エクムントさん。通信で話は何度かしてるけど顔を合わせて話をするのは久しぶりね」
「そうだな。アーデルハイド、孤児院の経営は上手くいってるか? まぁこの様子だと順調だとは思うがな」
「今のところはね。国王陛下による補助金が増えて助かってるわ。もちろんあなたからの寄付金も従業員の給料や施設の維持費に使ってるわ」
エクムントはここを含めて3つの孤児院に多額の寄付を納めて経営を陰から支えている。クエストで稼いだ金の大半はこれに消えてしまうのだ。
「ねぇエクムントさん。旅が終わったら私のところに……」
「それは出来ない相談ですな。私は人生をかけて贖罪を続けなくてはいけないんです。家庭を作ることなど、もってのほかですよ。
それにあなたは結婚もして子供もいるじゃないですか。家庭の間に割って入るなんていう無粋な真似は到底出来ませんよ」
「相変わらずよね。噂話でしか聞いたことは無いけど、確か家族を殺したとは耳に入ってるわ。今のあなたを見てても到底信じられない話だけど」
「それは本当です。昔の私は数えきれない程の人を殺してきました。その罪は到底償いきれるものではありません」
「あなたは充分よくやってるわ。孤児院をここも含めて3つ出資してるんでしょ? それだけやればきっと神様も天国へ連れていってくれるわ」
「神様、ですか……」
エクムントは彼女の言葉を聞いて、少し黙る。
「あいにく私は神なんて信じていません。もしも神というのが本当に居るのなら、私のような大罪人は今すぐ裁きの炎に焼かれるべきなのに一向に来やしませんからね。
こうして1人の人間としてのうのうと呼吸をし、のうのうと食事を食べ、のうのうと水を飲み生きている。
それ自体が大間違いなほどの罪を犯しているのに何年もの間誰にも裁かれませんからね。神というのは人間が作ったまやかしでしょうな」
「その辺は相変わらずで変わらないよね。話したくなったら私のところに来てちょうだい。隠し事をするような仲じゃないんだし」
「そうですな。それとこれを受け取ってほしい。これで2ヶ月は持つだろう」
そう言ってエクムントは小切手を渡す。
「いつもすまないわね。助かってるわ」
「お金で子供の命や人生が救えるのなら安いですな。あまり立ち寄れなくて金しか渡していないのですまないと思ってはいるんですが」
「あなたが謝る事なんて何1つないわ。あなたからの寄付金はとても役に立ってるわよ」
「そうか。では私は仕事を求めて旅に出るから、またな」
「あなたが来てくれるというのならいつでも歓迎するわ。待ってるからね」
そう言ってエクムントは再び旅の続きをすることにした。
目指す地はウイスキーで有名なイスターナ国。とりあえずそこの銘酒を久々に飲むのが目的だ。
【次回予告】
今度のクエストは気難しい職人の説得だった。知り合いを作るための話術に長けるエクムントの力はどこまで通用するだろうか?
第5話 「頑固職人の説得」
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた
黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆
毎日朝7時更新!
「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」
過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。
絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!?
伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!?
追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる