五分の奇跡

daisuke_akiyama

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風が吹くと同時に煙草の灰が落ちぬよう、灰皿に灰を落とし顔を上げたその時、男の目の前には1人の少女がジーッと男を見つめて立っていた。

真っ黒な髪は肩まであり、前髪は眉毛にちょうどかかるくらいで揃っている。色白でクリッととした澄んだ瞳、スッとのびた鼻筋にピンク色の唇。身長は130cmくらいの10歳前後の真っ白なワンピースに身を包んだ女の子だ。

男は自分の目を疑った。目の前の現実が理解でず、幻覚なのかなんなのかわからないまま、男は口を開いたまま唖然とした表情で少女を見ていた。

ジーッと男を見つめたままの少女は男に語りかけた。

「おじさん、おじさんってさぁもう直ぐ死んじゃうんでしょ?おじさんの人生って幸せだった?教えてよ。」

真っ直ぐの瞳で男を見つめ、少女は続けざまに語りかけた。

「おじさん、やり残したこととかないの?いいの?このままで。本当にこのまま死んじゃっていいの?」

バチン!!!

引き込まれるほどの純粋な瞳から放たれた真っ直ぐな言葉は、男の胸を鋭い鋭利な刃物で一突きで刺した感覚だった。

今まで心の奥底にしまい込み、二度と取り出さないように自分で重い鍵をかけた感情が、ダムの決壊が壊れたように一気に溢れ出た。

色々な想いと感情が一気に溢れ出てくる。

「あーーーっ。あーー、あー、あーっっっ」

男は頭を抱え、髪をかきむしりながら溢れる感情とやりきれない想いと、どうしようもない後悔と、自分への怒りと、様々な気持ちを抑えきれず叫び続けている。

泣いてもおかしくないのになぜか涙が出てこない。

出てこない涙が、男の心にさらに追い討ちをかける。

パニックで頭を抱え込み震える男に、少女は歩み寄り優しく微笑みながら、男を優しく包み込むように抱きしめた。

「だいじょうぶだよ。人生ってさぁ、きっと五分五分なんだよ。わたしね、良いことも悪いこともきっと五分五分だと思うんだ。おじさんの人生が五分五分じゃないなら、今から五分に戻そうよ。」

包み込む少女の優しい声と暖かい温もりに、それまで出なかった涙が男の目から一筋溢れた。
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