五分の奇跡

daisuke_akiyama

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カチカチッ、シュボッ。いつも通りの朝。フライパンで目玉焼きを作り、炊飯器から昨晩から入れっぱなしの白米をよそる。上から目玉焼きをのせ、醤油をかけて食べる。

2分で食べ終え、和室に行き、窓を開け、庭に足を出して煙草を蒸す。

「フーッ」

それは突然の宣告だった。これまでの人生で数えるほどしか行ったことのなかった病院で、末期の肝臓癌と宣告をされた。手遅れであり、余命半年と宣告を受けた。

恐怖や悲しみという感情はなかった。男の気持ちはどこか、安堵の表情さえ感じられるものだった。

「これで、終われる」

何のために生きているのか、生きている意味はあるのか。生かされているのか。考えることは過去に何度もあった。ただ、ここ何年かは考えることをやめた。

ただ淡々と、朝起きて、目玉焼きを作り、前日の夜に炊いた残りの白米をお椀によそり、その上に目玉焼きをのせ、醤油をかけて食べる。2分で食べ終え、煙草を蒸し、それが終われば、横になってテレビをつけてそのまま一日が過ぎるのをただ待つ。

夜になれば近所のコンビニに行き、惣菜と卵と焼酎を買い、家に戻りご飯を炊いて晩酌とともに夕食を食べる。食べ終われば、煙草を蒸し1日が終わる。

繰り返しの日々。気付けばここ何年も、他人と会話をしてもいなかった。

何かがきっかけでそうなったわけではない。気付いた時にはそうなっていた。10年前に妻は他界。嫁に行った娘とは妻の三回忌を最後に会っていない。

歳を重ねるに連れ、周りに人はいなくなっていった。元から人と接することは得意ではなかったが、極端にコミュニケーションが取れないわけでもない。ただ、若い頃から仕事に追われ、仕事以外で人と接することを避けてきた。

仕事が好きなわけではない。ただ、仕事に没頭している間は誰とも関わらず、自分の世界に没頭できた。

定年間近の時に妻が亡くなった。それから定年を迎え、人と関わることがなくなると、気付いた時には誰もいなくなっていた。


ある日、いつも通り和室の窓を開け煙草を蒸していると、突然スーッと風が吹いた。
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