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フリード編
ジョージ・ホーネット4
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「見ればわかるでしょう」
「わからないから聞いてるんだよ」
ヴィヴィアンはキョトンとしている。「こいつは何を言ってるんだ」とでも思っていそうな顔だ。
俺はあらためて魔法陣の上に陣取っているそれを観察した。
まず、色は土の色そのままだ。着色はされていない。大きなナスみたいな形の、胴体? の下に、一列に並んだ四本の細長いパーツ——足かな?——が、ついている。地面と接する部分は、ボールに突き刺したみたいにモコッとした丸みがあった。これが生物を模したものだとしたらどこかに頭部があるはずだが、そういう常識が通じないのが誰かさんの才能の恐ろしいところなのだ。
俺の仮説はこうだ。これはマッチを刺したナスだ。
「なにニヤニヤしてるのよ。気持ち悪いわね」
「君は昔から変わらないなと思ってただけだよ。
で、それは何? 教えてくれると嬉しいんだけどな?」
「だから……どう見ても獅子じゃないの。ねぇ」
ヴィヴィアンが同意を求めるように助手の少女に顔を向けると、少女は俯いたまま気まずそうに言った。
「そ、そうですね……」
「おい君、思ったことはハッキリ言った方がいいぞ」
「どう言う意味よ」
ヴィヴィアンが突っかかってきたが、俺はあえてそれを流す。
「そう言えば今朝のあれ、よくできてたよ。この世のものとは思えない美しさだった」
「え、なに? なんのこと?」
「君が寄越したメッセンジャーさ。あんな幻想的なひょうたん初めて見たよ」
「あれは鳩よ! 失礼ね!」
ヴィヴィアンの顔が真っ赤になった。少女は隣で肩を震わせている。笑いを堪えているのかな。
「私の造形がヘタだって言いたいんでしょ? フン、馬鹿にして! 素晴らしいって言ってくれるお客さんだってたくさんいるんだからね!」
そう、彼女はなんでも卒なくこなせるくせに、絵心だけは壊滅的なのだ。ゴーレムなんかに手を出さなければ、今頃別の分野で名を挙げていたかもしれない。なぜよりによってこの道を選んでしまったのだろう。
しかし、彼女の設計したゴーレムを好んで利用する好事家が少なくないことも事実だ。ただ、彼らはこれを『優れた道具』と言うより『芸術作品』だと捉えている節がある。つまり彼女の言っている顧客とは、アーティスト=ヴィヴィアン・ロウの独創的な作品のファンというわけだ。当人がそれに気付いているかどうか……たぶん気付いていないな。この真実は俺が墓場まで持って行ってあげよう。
「まぁまぁ、俺のことは気にせず仕事を続けてよ。何をしてるんだっけ?」
話題を変えようと、可能な限り爽やかに話しかけてみたが、ヴィヴィアンは何やらブツブツと呟いていてこちらに目もくれない。
「鬣をデフォルメしたのがいけなかったのかしら……でも頂点数が上がるとコストが……」
などと聞こえてくる。もしかして、ナスのヘタの部分は鬣のつもりだったんだろうか?
忙しそうなヴィヴィアンに変わって助手の少女が返事をしてくれた。
「今日は私のための実験なんです。先生が作ったボディに骨をつけて正しく関節を駆動させる練習をするんです」
俺は耳を疑った。
「先生? 今、先生と言ったのかい? 彼女が先生? で、骨付け? いやいや、物理的に無理だろ。このデザインで自立できてるのが不思議なくらいだよ。君、悪いことは言わないから師事する相手を変えた方がいいよ」
「で、でも……これはこれで可愛いと言うか……他ではできない経験というか……」
「うちの生徒にちょっかい出さないでちょうだい!」
何を勘違いしたのか、ヴィヴィアンが少女を抱きしめて、こちらを睨みつけてきた。
「ミスター・ビーに関わるとろくなことがないんだから。
いい、サリー? もし私がいない間にこの男が訪ねて来ても中に入れちゃダメよ。絶対に扉を開けちゃダメ。いいわね?」
「は、はい。わかりました」
サリーと呼ばれた少女が戸惑いがちに返事をすると、ヴィヴィアンは満足げに頷いた。
「いい子ね。さ、始めましょう! タンクが空っぽになるまで! 遠慮はいらないわよ!」
「空っぽは勘弁してほしいな……」
俺のつぶやきは果たして届いたのか、どうか。
魔法陣の上に『芸術品』を生成し、ちょっと動かしてみて、崩す。調整を加えて、再度生成し、ちょっと動かしてみて、崩す。作業は日暮れまで続いた。
「わからないから聞いてるんだよ」
ヴィヴィアンはキョトンとしている。「こいつは何を言ってるんだ」とでも思っていそうな顔だ。
俺はあらためて魔法陣の上に陣取っているそれを観察した。
まず、色は土の色そのままだ。着色はされていない。大きなナスみたいな形の、胴体? の下に、一列に並んだ四本の細長いパーツ——足かな?——が、ついている。地面と接する部分は、ボールに突き刺したみたいにモコッとした丸みがあった。これが生物を模したものだとしたらどこかに頭部があるはずだが、そういう常識が通じないのが誰かさんの才能の恐ろしいところなのだ。
俺の仮説はこうだ。これはマッチを刺したナスだ。
「なにニヤニヤしてるのよ。気持ち悪いわね」
「君は昔から変わらないなと思ってただけだよ。
で、それは何? 教えてくれると嬉しいんだけどな?」
「だから……どう見ても獅子じゃないの。ねぇ」
ヴィヴィアンが同意を求めるように助手の少女に顔を向けると、少女は俯いたまま気まずそうに言った。
「そ、そうですね……」
「おい君、思ったことはハッキリ言った方がいいぞ」
「どう言う意味よ」
ヴィヴィアンが突っかかってきたが、俺はあえてそれを流す。
「そう言えば今朝のあれ、よくできてたよ。この世のものとは思えない美しさだった」
「え、なに? なんのこと?」
「君が寄越したメッセンジャーさ。あんな幻想的なひょうたん初めて見たよ」
「あれは鳩よ! 失礼ね!」
ヴィヴィアンの顔が真っ赤になった。少女は隣で肩を震わせている。笑いを堪えているのかな。
「私の造形がヘタだって言いたいんでしょ? フン、馬鹿にして! 素晴らしいって言ってくれるお客さんだってたくさんいるんだからね!」
そう、彼女はなんでも卒なくこなせるくせに、絵心だけは壊滅的なのだ。ゴーレムなんかに手を出さなければ、今頃別の分野で名を挙げていたかもしれない。なぜよりによってこの道を選んでしまったのだろう。
しかし、彼女の設計したゴーレムを好んで利用する好事家が少なくないことも事実だ。ただ、彼らはこれを『優れた道具』と言うより『芸術作品』だと捉えている節がある。つまり彼女の言っている顧客とは、アーティスト=ヴィヴィアン・ロウの独創的な作品のファンというわけだ。当人がそれに気付いているかどうか……たぶん気付いていないな。この真実は俺が墓場まで持って行ってあげよう。
「まぁまぁ、俺のことは気にせず仕事を続けてよ。何をしてるんだっけ?」
話題を変えようと、可能な限り爽やかに話しかけてみたが、ヴィヴィアンは何やらブツブツと呟いていてこちらに目もくれない。
「鬣をデフォルメしたのがいけなかったのかしら……でも頂点数が上がるとコストが……」
などと聞こえてくる。もしかして、ナスのヘタの部分は鬣のつもりだったんだろうか?
忙しそうなヴィヴィアンに変わって助手の少女が返事をしてくれた。
「今日は私のための実験なんです。先生が作ったボディに骨をつけて正しく関節を駆動させる練習をするんです」
俺は耳を疑った。
「先生? 今、先生と言ったのかい? 彼女が先生? で、骨付け? いやいや、物理的に無理だろ。このデザインで自立できてるのが不思議なくらいだよ。君、悪いことは言わないから師事する相手を変えた方がいいよ」
「で、でも……これはこれで可愛いと言うか……他ではできない経験というか……」
「うちの生徒にちょっかい出さないでちょうだい!」
何を勘違いしたのか、ヴィヴィアンが少女を抱きしめて、こちらを睨みつけてきた。
「ミスター・ビーに関わるとろくなことがないんだから。
いい、サリー? もし私がいない間にこの男が訪ねて来ても中に入れちゃダメよ。絶対に扉を開けちゃダメ。いいわね?」
「は、はい。わかりました」
サリーと呼ばれた少女が戸惑いがちに返事をすると、ヴィヴィアンは満足げに頷いた。
「いい子ね。さ、始めましょう! タンクが空っぽになるまで! 遠慮はいらないわよ!」
「空っぽは勘弁してほしいな……」
俺のつぶやきは果たして届いたのか、どうか。
魔法陣の上に『芸術品』を生成し、ちょっと動かしてみて、崩す。調整を加えて、再度生成し、ちょっと動かしてみて、崩す。作業は日暮れまで続いた。
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