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2 七夕の夜
しおりを挟む七夕の夜。古道具屋「星屑堂」に、一人の若者がふらりと入ってきた。
古めかしい振り子時計、手巻き式の映写機、音の出ないオルゴール。棚には所狭しと「時の忘れ物」が並んでいる。
「この店、変わってますね。全部動かないのに、なぜか温かい気がする」
若者は店主に話しかけた。痩せた老人が椅子から振り向く。白い髭が胸まで垂れている。
「君、願いごとを叶えたいのかね?」
「……まあ、そんなとこです。七夕なんで」
老人は頷き、奥の戸棚から小さな装置を取り出してきた。キーボード付きの、まるでタイプライターのようなそれは、真鍮でできており、ところどころに星型の装飾が施されている。
「『星綴り機』だよ。願いを文章にしてこの機械に打ち込めば、文字が空に上っていく。運が良ければ、織姫と彦星が拾ってくれるかもしれん」
「冗談きついな」
「代金は要らん。願いが届いたら、それが報酬ということにしよう」
若者は笑って、機械を受け取った。帰宅すると、すぐに文章を打ち始めた。
「彼女に、もう一度会いたい。
あの事故がなかったら、今年も一緒に星を見ていたはずだった」
タイプライターのキーを打つたびに、文字がほのかに光り、やがて真鍮の機械から抜けて浮かび上がった。光る文字は空へ、夜の雲間へ、すーっと消えていく。
――ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴いた。時計は午後十一時五分。遅い訪問者に訝しみながらドアを開けると、そこに立っていたのは――
「……君?」
死んだはずの彼女だった。浴衣姿で、右手には笹の枝を持っていた。
「願い、届いたみたいね」
そう言って微笑んだ。現実感がなかった。声も、匂いも、昔のままなのに。
「でも、時間がないの。今夜、星が交わる間だけ。朝までに帰らないと、向こうに帰れなくなるから」
二人は手を取り合って夜の街を歩いた。川沿いを、昔の思い出をなぞるように。誰も二人に気づかない。誰も二人に、触れられない。
そして、夜明け前。
彼女は消えた。ふっと、光の粒になって。
翌朝、若者は星綴り機を店へ返しに行った。
「ありがとうございました。ほんとに、願いが叶いました」
店主は笑みもせず、ただ静かに機械を受け取った。
「星に願いを送るというのは、つまり、星に魂を一部明け渡すということ。代償を支払ったのは彼女の方だったかもしれんね」
「……どういう意味ですか?」
「彼女も、君に会うために、この機械を使ったのかもしれん。どこか別の、遥か遠い場所でね」
若者は一瞬言葉を失った。
「二人の願いが重なったとき、星は道をつなげる。ほんの一夜だけ。七夕とは、そういう夜さ。年に一度、世界が少しだけ、ほころぶのさ」
夜、若者はふと空を見上げた。
織姫星と彦星、その間に一瞬だけ、流れ星が走った。
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