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11 見えぬ夏祭り
しおりを挟む町外れの稲荷神社で、十年に一度の夏祭りが開かれた。
参道には提灯が並び、金魚すくいの水槽や、わたあめの甘い香りが漂っている。
——ただし、この祭りは「人間」と「人間以外」が一緒に楽しむ、不思議な催しだった。
普段は人間の姿に化けているが、祭りの夜だけは正体を隠さなくてよい。
だから、浴衣姿の人の群れの中に、角の生えた鬼や、尾の揺れる狐が紛れ込んでいる。
けれど酔客も子どもも、誰一人として驚かない。祭りの掟では「見えぬふりをする」のが礼儀だからだ。
さて、主人公の彼は、ずっと一人の女性に恋をしていた。白地の浴衣に赤い帯を締め、涼やかに微笑む美しい娘。
浩太は勇気を振り絞り、祭りの夜に告白しようと決めていた。
境内の石段で二人きりになった時、彼は言った。
「ずっと、君に会いたかった。俺と、一緒に……」
娘は一瞬、目を伏せてから微笑んだ。
「あなた、本当にいいの? 私の正体を知っても」
浩太は即座に頷いた。
「正体なんてどうでもいい。俺は、君が好きなんだ」
娘は静かに息をつき、背中から九つの尾を広げた。
黄金に揺らめく尾が、夜空の花火より鮮やかに光る。
浩太は驚きもしなかった。
「やっぱり、そうだったんだな」
娘は目を見張る。
「……やっぱり?」
浩太は笑った。
「実は俺も、人間じゃないんだ」
そう言って彼は、胸元から小さな鏡を取り出した。
そこに映ったのは——
——狐でも鬼でもなく、何も映っていない顔だった。
娘は凍りついた。
「あなた……まさか……」
浩太はにやりと笑った。
「そう。俺は“姿を盗む化け物”。君の顔と名前も、そろそろいただくよ」
その瞬間、境内の太鼓がドン、と鳴った。
夏祭りの夜が、悲鳴とともに一層賑やかになった。
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