さようなら、白い結婚。私は自由になります。

Ame

文字の大きさ
7 / 8

第六話 新しい人生の始まり

 翌朝、バークス家の屋敷に一通の書状が届けられた。
 封蝋には宰相府の紋章が刻まれている。
 父が封を切り、内容を確認した後、静かに私へ差し出した。

「……リディア。正式に、離縁が成立した」

 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に何かがふっと解けた。
 長い間、心を締めつけていた鎖が、ようやく外れたような感覚だった。

「……そう、ですか」

 声が震えた。
 悲しみではない。
 寂しさでもない。

 ただ――自由になったのだ。

 その事実が、胸の奥に静かに広がっていく。



 その日の午後、私は庭のベンチに座っていた。
 空は雲ひとつなく、青がどこまでも広がっている。
 風が頬を撫で、花々の香りがふわりと漂う。

 ――私は、これからどう生きていくのだろう。

 そんな問いが胸に浮かんだ時、背後から足音が聞こえた。

「リディア様」

 振り返ると、ユリウスが立っていた。
 いつものように丁寧に頭を下げ、静かに近づいてくる。

「離縁が……成立したと伺いました」

「はい。……ようやく、終わりました」

「お疲れさまでした」

 ユリウスはそう言って、私の隣に腰を下ろした。
 その距離は近すぎず、遠すぎず、心地よい。

「これから……どうされるのですか」

 私は少し考え、ゆっくりと答えた。

「まだ、はっきりとはわかりません。でも……自分の意思で選びたい。誰かのためではなく、私自身のために」

「それが一番です」

 ユリウスは穏やかに微笑んだ。
 その笑顔は、胸の奥を温かく満たす。



「……リディア様」

 ユリウスの声が、少しだけ震えていた。
 私は彼を見つめる。

「私は……あなたのこれからの人生に、関わっていたいと思っています」

 胸が大きく跳ねた。

「あなたが望むなら……私は、あなたの隣に立ちたい。あなたを支え、あなたの笑顔を守りたい」

 その言葉は、まっすぐで、誠実で、温かかった。
 胸の奥に、涙が込み上げる。

「ユリウス様……」

「もちろん、強制はしません。あなたが自由であることが、何より大切です。だから……あなたの意思を聞かせてください」

 私は深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。
 そして、彼の瞳をまっすぐに見つめる。

「……私は、あなたと歩きたい」

 ユリウスの瞳が大きく揺れた。

「あなたの言葉に救われました。あなたの優しさに触れて……私は、前に進む勇気をもらいました。これからの人生を、自分の意思で選ぶなら……私は、あなたを選びます」

 ユリウスは息を呑み、そして静かに微笑んだ。

「……ありがとうございます。リディア様。あなたの選択を、私は一生大切にします」

 彼はそっと私の手を取った。
 その手は温かく、力強く、安心できるものだった。

 私は微笑み返し、彼の手を握り返した。

「これから……よろしくお願いします、ユリウス様」

「はい。あなたの未来が、どうか幸せで満ちますように。その隣にいられることを、誇りに思います」

 青空の下、私たちは静かに手を取り合った。

 ――さようなら、白い結婚。
 私は自由になった。
 そして今、自分の意思で『愛』を選ぶ。

 新しい人生が、ここから始まる。

あなたにおすすめの小説

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

【完結】純白のウェディングドレスは二度赤く染まる

春野オカリナ
恋愛
 初夏の日差しが強くなる頃、王都の書店では、ある一冊の本がずらりと並んでいた。  それは、半年前の雪の降る寒い季節に死刑となった一人の囚人の手記を本にまとめたものだった。  囚人の名は『イエニー・フラウ』  彼女は稀代の悪女として知らぬ者のいない程、有名になっていた。  その彼女の手記とあって、本は飛ぶように売れたのだ。  しかし、その内容はとても悪女のものではなかった。  人々は彼女に同情し、彼女が鉄槌を下した夫とその愛人こそが裁きを受けるべきだったと憤りを感じていた。  その手記の内容とは…

愛してくれないのなら愛しません。

火野村志紀
恋愛
子爵令嬢オデットは、レーヌ伯爵家の当主カミーユと結婚した。 二人の初対面は最悪でオデットは容姿端麗のカミーユに酷く罵倒された。 案の定結婚生活は冷え切ったものだった。二人の会話は殆どなく、カミーユはオデットに冷たい態度を取るばかり。 そんなある日、ついに事件が起こる。 オデットと仲の良いメイドがカミーユの逆鱗に触れ、屋敷に追い出されそうになったのだ。 どうにか許してもらったオデットだが、ついに我慢の限界を迎え、カミーユとの離婚を決意。 一方、妻の計画など知らずにカミーユは……。

〖完結〗旦那様が私を殺そうとしました。

藍川みいな
恋愛
私は今、この世でたった一人の愛する旦那様に殺されそうになっている。いや……もう私は殺されるだろう。 どうして、こんなことになってしまったんだろう……。 私はただ、旦那様を愛していただけなのに……。 そして私は旦那様の手で、首を絞められ意識を手放した…… はずだった。 目を覚ますと、何故か15歳の姿に戻っていた。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全11話で完結になります。

この結婚には、意味がある?

みこと。
恋愛
公爵家に降嫁した王女アリアは、初夜に夫から「オープンマリッジ」を提案される。 婚姻関係を維持しながら、他の異性との遊戯を認めろ、という要求を、アリアはどう解釈するのか? 王宮で冷遇されていた王女アリアの、密かな目的とは。 この結婚は、アリアにとってどんな意味がある? ※他のサイトにも掲載しています。 ※他タイトル『沈黙の聖女は、ある日すべてを暴露する』も収録。←まったく別のお話です

〈完結〉姉と母の本当の思いを知った時、私達は父を捨てて旅に出ることを決めました。

江戸川ばた散歩
恋愛
「私」男爵令嬢ベリンダには三人のきょうだいがいる。だが母は年の離れた一番上の姉ローズにだけ冷たい。 幼いながらもそれに気付いていた私は、誕生日の晩、両親の言い争いを聞く。 しばらくして、ローズは誕生日によばれた菓子職人と駆け落ちしてしまう。 それから全寮制の学校に通うこともあり、家族はあまり集わなくなる。 母は離れで暮らす様になり、気鬱にもなる。 そしてローズが出ていった歳にベリンダがなった頃、突然ローズから手紙が来る。 そこにはベリンダがずっと持っていた疑問の答えがあった。

私は私を大切にしてくれる人と一緒にいたいのです。

火野村志紀
恋愛
花の女神の神官アンリエッタは嵐の神の神官であるセレスタンと結婚するが、三年経っても子宝に恵まれなかった。 そのせいで義母にいびられていたが、セレスタンへの愛を貫こうとしていた。だがセレスタンの不在中についに逃げ出す。 式典のために神殿に泊まり込んでいたセレスタンが全てを知ったのは、家に帰って来てから。 愛らしい笑顔で出迎えてくれるはずの妻がいないと落ち込むセレスタンに、彼の両親は雨の女神の神官を新たな嫁にと薦めるが……

【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~

山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。 この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。 父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。 顔が良いから、女性にモテる。 わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!? 自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。 *沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m