さようなら、白い結婚。私は自由になります。

Ame

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第六話 新しい人生の始まり

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 翌朝、バークス家の屋敷に一通の書状が届けられた。
 封蝋には宰相府の紋章が刻まれている。
 父が封を切り、内容を確認した後、静かに私へ差し出した。

「……リディア。正式に、離縁が成立した」

 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に何かがふっと解けた。
 長い間、心を締めつけていた鎖が、ようやく外れたような感覚だった。

「……そう、ですか」

 声が震えた。
 悲しみではない。
 寂しさでもない。

 ただ――自由になったのだ。

 その事実が、胸の奥に静かに広がっていく。



 その日の午後、私は庭のベンチに座っていた。
 空は雲ひとつなく、青がどこまでも広がっている。
 風が頬を撫で、花々の香りがふわりと漂う。

 ――私は、これからどう生きていくのだろう。

 そんな問いが胸に浮かんだ時、背後から足音が聞こえた。

「リディア様」

 振り返ると、ユリウスが立っていた。
 いつものように丁寧に頭を下げ、静かに近づいてくる。

「離縁が……成立したと伺いました」

「はい。……ようやく、終わりました」

「お疲れさまでした」

 ユリウスはそう言って、私の隣に腰を下ろした。
 その距離は近すぎず、遠すぎず、心地よい。

「これから……どうされるのですか」

 私は少し考え、ゆっくりと答えた。

「まだ、はっきりとはわかりません。でも……自分の意思で選びたい。誰かのためではなく、私自身のために」

「それが一番です」

 ユリウスは穏やかに微笑んだ。
 その笑顔は、胸の奥を温かく満たす。



「……リディア様」

 ユリウスの声が、少しだけ震えていた。
 私は彼を見つめる。

「私は……あなたのこれからの人生に、関わっていたいと思っています」

 胸が大きく跳ねた。

「あなたが望むなら……私は、あなたの隣に立ちたい。あなたを支え、あなたの笑顔を守りたい」

 その言葉は、まっすぐで、誠実で、温かかった。
 胸の奥に、涙が込み上げる。

「ユリウス様……」

「もちろん、強制はしません。あなたが自由であることが、何より大切です。だから……あなたの意思を聞かせてください」

 私は深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。
 そして、彼の瞳をまっすぐに見つめる。

「……私は、あなたと歩きたい」

 ユリウスの瞳が大きく揺れた。

「あなたの言葉に救われました。あなたの優しさに触れて……私は、前に進む勇気をもらいました。これからの人生を、自分の意思で選ぶなら……私は、あなたを選びます」

 ユリウスは息を呑み、そして静かに微笑んだ。

「……ありがとうございます。リディア様。あなたの選択を、私は一生大切にします」

 彼はそっと私の手を取った。
 その手は温かく、力強く、安心できるものだった。

 私は微笑み返し、彼の手を握り返した。

「これから……よろしくお願いします、ユリウス様」

「はい。あなたの未来が、どうか幸せで満ちますように。その隣にいられることを、誇りに思います」

 青空の下、私たちは静かに手を取り合った。

 ――さようなら、白い結婚。
 私は自由になった。
 そして今、自分の意思で『愛』を選ぶ。

 新しい人生が、ここから始まる。
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