龍戦記 第一巻

卯月桜

文字の大きさ
2 / 6
第ニ章

龍の医者

しおりを挟む
秋の陽光が斜めに射し込む龍の村の診療所で、龐颯慧ホウリュウケイは医学書を広げていた。彼の銀色の髪が陽の光を反射し、柔らかな輝きを放っている。年齢はまだ二十歳に届かないが、この診療所の医者である劉楓蘭リュウフウランが留守にしている間、颯慧は簡単な薬の調合を任されていた。

「楓蘭、いるか?」

診療所の玄関の扉が開き、一人の精悍な顔つきの青年が入ってきた。颯慧と同じ銀色の髪を髪の先でまとめ、颯慧よりも鋭い目つきをしている。彼の得物である鉄扇と短刀を帯に差し、伝統的な装束を纏っている。

颯純リュウジュン兄上、楓蘭先生なら村長の屋敷です。」

「またか、…まったく、」

颯純は苛立ちを隠さずに呟いた。

楓蘭とは長い付き合いなので、彼女の行動は予測できたが、国中に流行り病が広まっているこの時期に、村で唯一の医者である楓蘭が村の外に行くことに、村長が賛成するはずがなかった。

「・・・・」

颯慧は何も言わず、兄の苛立つ様子を悲しげに見つめた。

その時、診療所の扉が再び開き、楓蘭が戻ってきた。

「あら?颯純、来てたの?」

楓蘭は白髪を片側で三つ編みにしている美しい少女であり、治癒や肉体強化の術を使いこなす白龍の末裔でもあった。その能力を使い、村の唯一の医者として、彼女は常に忙しかったが、その合間を縫って村長に外出許可を求めるのは、彼女の性だろう。

「楓蘭先生、お帰りなさい。」

「ただいま、颯慧。お留守番してくれてありがとう。」

楓蘭は優しく颯慧にお礼を述べた。次に颯純の方へ振り返り、切り出した。

「颯純、私に話があって来たんでしょ?」

「あぁ、奥で話そう。」







「で?私に何の話?」

楓蘭が疑問の表情で尋ねた。

「お前、また長に同じ話をしに行ったんだろ?」

颯純は苛立ちを露にして直球で切り込んだ。楓蘭は村で唯一の医者であるので、長からも一目置かれているが、彼女の行動に颯純は我慢ならなかった。

「なんでわかるのよ。」

楓蘭は気まずそうに表情を曇らせた。相変わらずこの男は勘が鋭い。

「長い付き合いだからな。それに周辰シュウタツ様からお前のことを頼まれている。」

颯純の瞳が鋭く楓蘭を見つめた。

「周辰様が…」

・・周辰様には何も話していないはずなのに。

「良いか楓蘭。」

颯純は真剣な表情で続けた。

「お前はこの村の医者だぞ。村の外の奴に関わるな。」

楓蘭は少しの沈黙の後、静かに言った。

「でも、こんな辺境の地に私以外の医者がいると思う?村の外には病気で苦しんでいる人がたくさん居るのよ。」

「それはお前には関係ないだろ。」

颯純は冷たく言い放った。

「そんな言い方…」

楓蘭は言葉に詰まった。颯純の考えは村のことを第一に考える村長と同じもので、正論をぶつけられて楓蘭は反論できなかった。

「それに、村の外の奴らが俺達を受け入れるのか?」

「それは・・・」

颯純の言葉に、楓蘭は何も言えなかった。

この村の人間達は古代の龍の能力を扱う。それ故に国の皇帝からこの辺境の地に住み、北方からの異民族の侵入を撃退するように命を受けている。

だが常人とは違う力を持っている為、差別的な扱いを受けていることも事実だ。

「…アイツらは、俺達と違う。」

颯純は静かに言い放ち、その場を去った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...