そのメイドは振り向かない

藤原アオイ

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髪飾り

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 あれから十数日が過ぎた。闇の魔物の被害がある程度落ち着いたらしく、あずさも私も暇になっていた。

「あずさ様、今日は歩きで街に出てみませんか?」

「街に?」

「ええ。本当は王都の外で羽を伸ばしていただきたかったのですが、ウィリアム様に止められてしまって代わりと言ってはなんですが、一緒にショッピングでもと」

 あの過保護は何を考えているんだと言いたくなったが、どこに耳があるかわからないから止めておいた。

「確かに……これまで馬車での移動しかしてなかったですし。この機会に街並みを見ておくのも悪くないかも」

「でしたら決まりですね。ささっ、着替えて着替えて」

 普段神殿に着ていくものよりも少し地味な服。これくらいなら、街でも怪しまれることは無いだろう。私の服だと少し小さかったため、彼女用に新しく調達する必要があったとのこと。解せぬ。

 いつものように裏口からこっそりと出て、表通りを歩く。立ち位置や歩幅など、出来るだけ自然に見えるように気を付ける。いつもの癖で斜め後ろを歩いてたら、私が従者だって気づかれてしまうし。

「エステルさん、出掛けている間だけは様付け無しでお願いしますね」

「構いませんが……」

 私たちはまず、アクセサリーの店に入る。露店でもよかったけど、どうせ買うならこっちの方が良いと思って。……それにお金なら豪邸三つ分くらいは持ってるし。

「いらっしゃいませ、お嬢様方。本日は何をお探しでしょうか?」

「彼女に似合う髪飾りを」

「承知致しました」

 店主は返事をすると、壁際に並んだたくさんの箱からいくつかの箱を選び始める。

「ちょっ、エステルさぁん!? 私、そんなにお金持ってませんからぁ」

 ショーケースの中の値札を見てしまったのだろうか、あずさはすごく小さな声で不安そうに言う。まぁ、あのゼロの数を見たら大体の人はそうなるか。

「大丈夫です。今までに貰ったお給金王家のポケットマネーで買えないものはありませんから」

「ねぇ、さっき変なルビ付きませんでした!? 付いてましたよね!!」

「……きっと気のせいです」

「その間がめちゃくちゃ怖いですぅ……」

 そんなやり取りをしている間に、店主はいくつかの箱を私たちに提示する。

「中を見ても?」

「ええ。よろしいですよ」

 その数は四つ。どの髪飾りも、銀の細工がベースになっている。四つ合わせて花鳥風月のモチーフらしい。ただ、その一つが鳥ではなく蝶になっている。

「オオルリアゲハ……」

 その中の蝶の髪飾りを見て、彼女はそう呟いた。銀色の蝶の真ん中に、青い宝石が埋め込まれている。宝石が光を乱反射し、銀の一部が青っぽく輝く。

 確かに、幻想的ではあるが。

「……?」

「いえ、なんでもないです。その、青色がすごく綺麗だなって」

「ならそれにしますか?」

「えっ、でも……」

「プレゼントです。これを包んでください」

「かしこまりました」

 手のひらよりも少し大きな箱を受け取り、鞄に仕舞う。
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