そのメイドは振り向かない

藤原アオイ

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帰宅

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 包んで貰ったケーキを持ち、城の裏から潜入する。別に正面から入っても問題ないのだが、エルがいつもそうしていたから私もそうするようになってしまった。確かにここから入ればウィリアムに見つかることは絶対に無いし。

「お帰りなさいませ、エステル様。エルヴィン殿下は十分前にここをお通りになりましたよ」

「全力で走ったんですかね……」

「かもしれません」

 同じくらいのタイミングに店を出たはずだから、それ以外あり得ない。私も帰りは寄り道とかしてないし。……魅力的なお店はいっぱいあったけど。

「それでは、私が勝手に外に出たことは内緒にしといてくださいね。特にウィリアム様には言わないで。頼むから」

「かしこまりました」

 ぶっちゃけ誰が見てるわけでもないし、そのままの服装であずさの部屋に向かう。

「えっ、エステルさんっ!?」

 メイド服じゃない私に驚いたのか、かなり驚いた声をあげる。

「はい、私はエステルですが」

「メイド服以外も着るんですね」

「まぁ、メイド服で街を歩くわけにもいきませんし。あと、それよりケーキです」

 部屋の戸棚に入っている皿とフォークを取り出し、高速で並べる。そこに買ってきたフルーツタルトを乗せ、ティーカップに紅茶を注ぐ。

 厨房の方で借りればもっとお洒落な皿がいっぱいあるけれど、勝手に外に出て食べ歩きしてたのがバレるのは嫌というか。

「さぁ、お召し上がりください」

 あずさの分のケーキとお茶を用意してから、私は部屋に戻ろうとする。ついそのままの服で来てしまったが、冷静に考えるとこれって問題ありそうな気がして。

「あれっ? エステルさんも一緒じゃないんですか?」

「……」

「私、なんか変なこと言っちゃいました……?」

「……」

「ケーキをガン見したまま黙らないでよぉ……」

 ……まぁ、いっか。

 ウィリアムみたいに、いつまでもからかってくることも無さそうだし。あずさの分を用意した時以上の早さで私の分のケーキとお茶を用意し、彼女が座っている場所から見て真正面にある椅子に座る。

「では、ご一緒致しますね」

 気軽な場であることと私がメイド服ではないことが影響したのか、あずさはいつもより饒舌だった。

 ここでの生活で困ったこと、神殿にいる神官のこと、そしてエルヴィンのこと。というか彼女の話のほとんどがエルヴィンのことだった。

「エステルさんにとって、エルヴィン様ってどんな方なんですか?」

「そうですね。仕えるべき主君、それ以上でもそれ以外でもございませんよ。まぁ、色々と直してほしいところはありますけど」

「……じゃあ、質問を変えます。エステルさんはエルヴィン様のこと、どう思ってるんですか?」

「難しい質問をしますねぇ。ただの主従関係……には見えなかったということでしょうか?」

「は、はい……」

「家族、姉弟……もしかして恋人?」

 あずさの反応を見ながら、答えを探していく。恋人と言ったところで明らかに表情が変わる。

 なるほど、そういうことか。

「大丈夫です。エルヴィン様はメイドに手を出すような人じゃありません。あと、私は年下には恋愛的な意味で興味を持てないので。というか四年近くお仕えしていましたが、そういう話は全く聞いておりません。それと、婚約の話も全て断ってましたよ。そろそろお相手を見つけても良い年齢ですのに」

「そ、そういうことじゃなくって!」

「あれ、違いましたか?」

「えっと、違わないけど……。なっ、ならエステルさん的にはウィリアム様がストライクだったり?」

 エルから何を聞いたんだ。いや、聞いてなくても察するか。

「えっと、ストライクの意味はよくわかりませんが……とりあえず恋愛的な意味では見てませんね。そもそもそういう目で見れませんし」

「次の国王とメイドのラブロマンス……すごくロマンがあるのに」

「無理ですね、色んな意味で」

 あずさは若干しょんぼりとする。 皿の上のフルーツタルトは、おしゃべりしている間に食べ終わってしまった。朝貰ったクッキーも、メイド服のポケットの中だ。

「そろそろお昼ですので、一旦着替えてまいります」

「はい……」

「おしゃべり相手でしたら、いつでもなりますよ」

 彼女的にはエルヴィンの方が嬉しいかもだけど、まぁそれはそれとして。午後も彼女とずっと、取り留めの無い話ばかりをするのであった。
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