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第3話 天才魔法士リディアとの出会い
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王宮の一角にある魔法研究室。
召喚されてから一週間。九条迅はここをほぼ寝床にする勢いで、魔法と科学の融合を模索し続けていた。
今日は、宮廷魔法士ロドリゲスとの魔力制御訓練の最終段階。
室内には、実験用の魔法具や古びた魔道書が並べられているが、その中央には、片手をかざしながら目を閉じる黒髪の青年がいた。
「…………」
九条迅は、ゆっくりと呼吸を整え、己の身体の奥底に流れる魔力を意識する。
心臓の鼓動に合わせて、青白い微弱な光が指先へと流れ込んでいく感覚。
「……おおっ!」
傍らで見守っていた老魔法士ロドリゲスが、驚嘆の声を上げた。
「まさか、本当にここまでやるとは……!」
ロドリゲスの視線の先には、迅の掌の上に浮かぶ、不安定ながらも確かに存在する小さな魔力の塊があった。
通常、魔法士が魔力の流れを意識するには最低でも数か月の訓練が必要とされる。だが——
「……目には見えないだけで、認識は出来るんだな、魔力って。思ったより簡単だったわ。」
迅は軽く肩を回しながら、あっけらかんと呟いた。
「簡単、とな……?」
ロドリゲスの眉がピクリと跳ねる。
「ああ。あんたらってさ、魔力操作の訓練ってのを“感覚”でやってるんだろ?」
「まぁ、そうじゃな……」
「俺は違う。最初に“法則”を探したんだよ。」
そう言いながら、迅は床にチョークで魔力の流れの模式図を書き出す。
「筋トレするときもさ、『この動きでどの筋肉に負荷がかかるか』を意識するだろ?」
「ふむ?」
「魔力操作も一緒だ。“この意識を持てば、魔力がどこへ流れるか”を何百、何千回と脳内でシミュレーションした。」
迅はニヤリと笑いながら、指をパチンと鳴らした。
「そしたら、実際にやるときにはすでに身体が“魔力の動かし方”を理解してたってワケだ。」
ロドリゲスは目を見開く。
「ほう……! つまり、勇者殿は“脳内シミュレーション”で、何年分もの訓練を短時間でこなしたということか……!」
「まぁ、ざっくり言えばな。」
迅は涼しい顔をしているが、周囲の宮廷魔法士たちは言葉を失っていた。
「な、なんという……!」
「あれが、異世界人というものなのか……?」
「魔力を持たぬはずの者が、一週間でここまで……?」
一週間前までは「異世界から来た勇者(笑)」程度にしか思っていなかった魔法士たちが、今は全く違う表情をしている。
魔力操作を一通り終えた迅は、次なる課題に取りかかる。
「よし、次は魔法の発動だな。」
ロドリゲスが頷く。
「では、《フレア・リィス》を試してみるがよい。」
迅は深呼吸し、ゆっくりと詠唱を唱え始めた。
以前、ロドリゲスが見せた詠唱を思い出し、リズム、呼吸、イントネーション、全てを可能な限り再現していく。
「フレア・リィス——」
すると、迅の掌にぽっと小さな炎が灯る。
「おおっ!」
「え、ええっ!? 一発で成功しただと!?」
魔法士たちがどよめく。通常、詠唱には慣れが必要だ。初めて唱える者が、最適な魔力の流し方を理解していなければ、途中で魔法が失敗することも多い。
それを、迅は一発でやってのけた。
「へぇ……なるほどな。」
だが、本人は「やったぜ!」という達成感ではなく、あくまで冷静な分析モードだった。
(呪文を詠唱すると、それに合わせて『脳が無理矢理動かされている』ような感覚があった…)
(…って事はだ。魔法が発動した時の脳の反応を再現出来さえすれば、或いは………)
「詠唱中に魔力がどう流れるか、大体わかった。」
迅は事も無さげにそう言い放つ。
そして、手を振り、火を消す。
「じゃあ、次はもう少し詠唱を短縮してみるか。」
「……な、何を言うか!?」
魔法士たちが一斉に顔をしかめる。
「詠唱は、神聖な言葉……そんなことをしては、魔法が発動しなくなるのでは?」
しかし、迅はまるで気にする様子もなく、再び掌を掲げる。
「フレリ。」
——ぽっ。
確かに、炎が灯った。
小さくなったが、確かに発動している。
魔法士たちは言葉を失った。
「え、えぇぇぇぇぇっ!?」
「詠唱を短縮しても、魔法が使えるだと……!?」
一瞬、場が騒然とする。
騒ぎの中、ロドリゲスだけは「ほほう」と興味深そうに頷いた。
「つまり、勇者殿の仮説は——」
「ああ。詠唱は、魔力を制御するための“命令コード”みたいなもんだってことだ。」
迅の言葉に、魔法士たちは驚愕する。
「バカな……! それが本当なら、魔法の詠唱はもっと簡略化できるのでは……?」
「そんなことは、何百年も誰も考えたことがない……!」
迅はニヤリと笑う。
「考えなかったんじゃなくて、“考えようとしなかった”んだろ?」
魔法士たちは言葉を失った。
そして、ほんの数分前まで「異世界人の戯言」として迅を軽視していた者たちが、今や彼の理論を真剣に議論し始めていた。
——まさに、その瞬間だった。
「……面白いことを言うのね。」
静かで澄んだ声が、図書室の奥から響いた。
一同が振り向くと、そこには銀髪の美しい少女が立っていた。
紫紺の瞳が、まっすぐに迅を見据えている。
彼女の名は——リディア・アークライト。
王国最年少の宮廷魔法士にして、天才の名を持つ少女。
そして、この出会いが迅の運命を大きく変えるものとなる事を、この時の迅はまだ知らなかった。
召喚されてから一週間。九条迅はここをほぼ寝床にする勢いで、魔法と科学の融合を模索し続けていた。
今日は、宮廷魔法士ロドリゲスとの魔力制御訓練の最終段階。
室内には、実験用の魔法具や古びた魔道書が並べられているが、その中央には、片手をかざしながら目を閉じる黒髪の青年がいた。
「…………」
九条迅は、ゆっくりと呼吸を整え、己の身体の奥底に流れる魔力を意識する。
心臓の鼓動に合わせて、青白い微弱な光が指先へと流れ込んでいく感覚。
「……おおっ!」
傍らで見守っていた老魔法士ロドリゲスが、驚嘆の声を上げた。
「まさか、本当にここまでやるとは……!」
ロドリゲスの視線の先には、迅の掌の上に浮かぶ、不安定ながらも確かに存在する小さな魔力の塊があった。
通常、魔法士が魔力の流れを意識するには最低でも数か月の訓練が必要とされる。だが——
「……目には見えないだけで、認識は出来るんだな、魔力って。思ったより簡単だったわ。」
迅は軽く肩を回しながら、あっけらかんと呟いた。
「簡単、とな……?」
ロドリゲスの眉がピクリと跳ねる。
「ああ。あんたらってさ、魔力操作の訓練ってのを“感覚”でやってるんだろ?」
「まぁ、そうじゃな……」
「俺は違う。最初に“法則”を探したんだよ。」
そう言いながら、迅は床にチョークで魔力の流れの模式図を書き出す。
「筋トレするときもさ、『この動きでどの筋肉に負荷がかかるか』を意識するだろ?」
「ふむ?」
「魔力操作も一緒だ。“この意識を持てば、魔力がどこへ流れるか”を何百、何千回と脳内でシミュレーションした。」
迅はニヤリと笑いながら、指をパチンと鳴らした。
「そしたら、実際にやるときにはすでに身体が“魔力の動かし方”を理解してたってワケだ。」
ロドリゲスは目を見開く。
「ほう……! つまり、勇者殿は“脳内シミュレーション”で、何年分もの訓練を短時間でこなしたということか……!」
「まぁ、ざっくり言えばな。」
迅は涼しい顔をしているが、周囲の宮廷魔法士たちは言葉を失っていた。
「な、なんという……!」
「あれが、異世界人というものなのか……?」
「魔力を持たぬはずの者が、一週間でここまで……?」
一週間前までは「異世界から来た勇者(笑)」程度にしか思っていなかった魔法士たちが、今は全く違う表情をしている。
魔力操作を一通り終えた迅は、次なる課題に取りかかる。
「よし、次は魔法の発動だな。」
ロドリゲスが頷く。
「では、《フレア・リィス》を試してみるがよい。」
迅は深呼吸し、ゆっくりと詠唱を唱え始めた。
以前、ロドリゲスが見せた詠唱を思い出し、リズム、呼吸、イントネーション、全てを可能な限り再現していく。
「フレア・リィス——」
すると、迅の掌にぽっと小さな炎が灯る。
「おおっ!」
「え、ええっ!? 一発で成功しただと!?」
魔法士たちがどよめく。通常、詠唱には慣れが必要だ。初めて唱える者が、最適な魔力の流し方を理解していなければ、途中で魔法が失敗することも多い。
それを、迅は一発でやってのけた。
「へぇ……なるほどな。」
だが、本人は「やったぜ!」という達成感ではなく、あくまで冷静な分析モードだった。
(呪文を詠唱すると、それに合わせて『脳が無理矢理動かされている』ような感覚があった…)
(…って事はだ。魔法が発動した時の脳の反応を再現出来さえすれば、或いは………)
「詠唱中に魔力がどう流れるか、大体わかった。」
迅は事も無さげにそう言い放つ。
そして、手を振り、火を消す。
「じゃあ、次はもう少し詠唱を短縮してみるか。」
「……な、何を言うか!?」
魔法士たちが一斉に顔をしかめる。
「詠唱は、神聖な言葉……そんなことをしては、魔法が発動しなくなるのでは?」
しかし、迅はまるで気にする様子もなく、再び掌を掲げる。
「フレリ。」
——ぽっ。
確かに、炎が灯った。
小さくなったが、確かに発動している。
魔法士たちは言葉を失った。
「え、えぇぇぇぇぇっ!?」
「詠唱を短縮しても、魔法が使えるだと……!?」
一瞬、場が騒然とする。
騒ぎの中、ロドリゲスだけは「ほほう」と興味深そうに頷いた。
「つまり、勇者殿の仮説は——」
「ああ。詠唱は、魔力を制御するための“命令コード”みたいなもんだってことだ。」
迅の言葉に、魔法士たちは驚愕する。
「バカな……! それが本当なら、魔法の詠唱はもっと簡略化できるのでは……?」
「そんなことは、何百年も誰も考えたことがない……!」
迅はニヤリと笑う。
「考えなかったんじゃなくて、“考えようとしなかった”んだろ?」
魔法士たちは言葉を失った。
そして、ほんの数分前まで「異世界人の戯言」として迅を軽視していた者たちが、今や彼の理論を真剣に議論し始めていた。
——まさに、その瞬間だった。
「……面白いことを言うのね。」
静かで澄んだ声が、図書室の奥から響いた。
一同が振り向くと、そこには銀髪の美しい少女が立っていた。
紫紺の瞳が、まっすぐに迅を見据えている。
彼女の名は——リディア・アークライト。
王国最年少の宮廷魔法士にして、天才の名を持つ少女。
そして、この出会いが迅の運命を大きく変えるものとなる事を、この時の迅はまだ知らなかった。
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