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第14話 それが一番失礼!!
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——アルクスの森、泉のほとり。
沈黙が降りた。
それは、水面を叩く小さな波音すら耳に届かなくなるほどの静寂だった。
「……もう一度、魔力を集中してみてくれねぇ?」
九条迅《くじょうじん》は真剣な顔で言った。
リディアの手をしっかりと握りながら、まっすぐに彼女の瞳を覗き込んでいる。
——近い。
リディアの顔はみるみる赤くなっていく。
それは泉の水面に映る自分の顔を見ても明らかだった。
(え、えええええっ!? な、なにこれ!? ど、どういうこと!?)
リディアの思考は完全にフリーズしていた。
突然泉に落ちてきたと思ったら、いきなり手を握られて、息がかかる距離で見つめられて。
(これって……も、もしかして……そ、そーいう……!?)
リディアの脳内で何かが暴走する。
思わず目をぎゅっと閉じ、心臓をバクバクと鳴らしながら——
「……いやぁ、それにしても面白いな。魔力を込めた時の水の屈折率、明らかに変わってる。」
「……は?」
目を開けると、そこにはまったく悪びれもせず、知的好奇心に満ちた表情をした迅の顔があった。
「お前、さっき魔力を込めた時にさ、水の中に変な光が浮かんでただろ?」
「え、いや……ちょっと待って……」
リディアは一瞬、脳の処理が追いつかなかった。
(……ちょっと待って? なんの話? 私のことじゃないの?)
「もう一回試してみてくれないか? さっき魔力を込めた時と同じように。」
迅はまるで子供のようにキラキラした目をしている。
その目には、一切の邪な感情はなかった。
——ただの探究心。それだけだ。
リディアの肩からふっと力が抜けた。
「……なによ、それ。」
「いや、なんか水の光の屈折が変化してたんだよな。お前が魔力を込めた瞬間、光の波長が変わってる。となると、魔力が水の分子に影響を与えてるってことじゃないか?」
「……」
リディアは、自分が何を考えていたのか思い出し、顔を両手で覆った。
(バ、バカみたい……! 何を勘違いしてたのよ、私……!)
「……はぁぁぁぁぁぁ。」
リディアは大きくため息をついた。
「どうした?」
「いいえ、なんでもないわ。で? なんですって?」
「だから、お前が魔力を込めた瞬間、水の透明度が変わってるんだよ。まるで光の屈折率が変わってるみたいに。」
迅は水面を指差しながら、興奮した様子で説明する。
その様子はまるで、新しい発見をした科学者そのものだった。
「つまり、水は魔力を媒介すると性質が変化するってことだな。これって、魔法発動時のエネルギー伝達の仕組みを考える上で、めちゃくちゃ重要なヒントになるかもしれねぇ。」
「そ、そうね……」
リディアはまだ赤みの残る顔で相槌を打つが、心の中では別の問題が浮かび上がっていた。
(なんなの、この人……! さっきまであんなに真剣な顔して手を握ってたくせに……! まったく意識してないってこと!?)
いや、もしかすると。
(私のことなんか、女として見てないってこと!?)
「……っ!」
なぜか急にモヤモヤしたものが込み上げてきて、リディアは水面をバシャバシャと叩いた。
「ちょ、どうした!?」
「なんでもないわ!!」
リディアはぷいっとそっぽを向き、バシャバシャと水を蹴りながら陸に上がろうとした。
その時——
「………………ん?」
——ようやく、迅《じん》は”ある事実”に気がついた。
(……リディア、肌着じゃねぇか。)
目の前のリディアは、シャツのような薄手の下着一枚を濡らしながらこちらを睨んでいる。
透けているわけではないが、肩や鎖骨のラインがはっきりと浮かび上がっており、何とも言えない色気があった。
(……あっぶねぇぇぇぇぇ!! 俺、今まで普通に話してたけど、これヤバい状況じゃねぇか!?)
「——す、すまん!!!」
バッと後ろを向く迅。
「え?」
リディアは一瞬きょとんとしたが、迅が顔を真っ赤にして視線を逸らしていることに気づき、自分の格好を見下ろす。
「……っ!?!?!?!?!?」
「いや!! 本当にすまん!! いや、違うんだ! 俺は科学的な興味で——」
「言い訳しないでいいわよ!!!」
「俺はお前を覗こうとかそういう意図はマジでなかったんだ!!」
「言い訳しないでって言ってるでしょ!!!!」
リディアの顔も真っ赤だ。
迅は思わず土下座する勢いで頭を下げた。
「だから本当にすまん!! ……ていうか、そもそも俺をここに落としたのリスだからな!? 俺のせいじゃねぇぞ!!」
「そんなの関係ない!!」
「関係なくねぇだろ!!」
「見たことに変わりはないでしょ!!」
「正直に言う! 気づくまで普通に話してた!!」
「それが一番失礼!!!!!」
「ですよねぇぇぇぇぇぇ!!!!」
二人のやり取りに、遠くからロドリゲスが「……ほほう?」とニヤニヤしながら見守っていた。
こうして、二人のとんでもない騒動は続くのだった——。
沈黙が降りた。
それは、水面を叩く小さな波音すら耳に届かなくなるほどの静寂だった。
「……もう一度、魔力を集中してみてくれねぇ?」
九条迅《くじょうじん》は真剣な顔で言った。
リディアの手をしっかりと握りながら、まっすぐに彼女の瞳を覗き込んでいる。
——近い。
リディアの顔はみるみる赤くなっていく。
それは泉の水面に映る自分の顔を見ても明らかだった。
(え、えええええっ!? な、なにこれ!? ど、どういうこと!?)
リディアの思考は完全にフリーズしていた。
突然泉に落ちてきたと思ったら、いきなり手を握られて、息がかかる距離で見つめられて。
(これって……も、もしかして……そ、そーいう……!?)
リディアの脳内で何かが暴走する。
思わず目をぎゅっと閉じ、心臓をバクバクと鳴らしながら——
「……いやぁ、それにしても面白いな。魔力を込めた時の水の屈折率、明らかに変わってる。」
「……は?」
目を開けると、そこにはまったく悪びれもせず、知的好奇心に満ちた表情をした迅の顔があった。
「お前、さっき魔力を込めた時にさ、水の中に変な光が浮かんでただろ?」
「え、いや……ちょっと待って……」
リディアは一瞬、脳の処理が追いつかなかった。
(……ちょっと待って? なんの話? 私のことじゃないの?)
「もう一回試してみてくれないか? さっき魔力を込めた時と同じように。」
迅はまるで子供のようにキラキラした目をしている。
その目には、一切の邪な感情はなかった。
——ただの探究心。それだけだ。
リディアの肩からふっと力が抜けた。
「……なによ、それ。」
「いや、なんか水の光の屈折が変化してたんだよな。お前が魔力を込めた瞬間、光の波長が変わってる。となると、魔力が水の分子に影響を与えてるってことじゃないか?」
「……」
リディアは、自分が何を考えていたのか思い出し、顔を両手で覆った。
(バ、バカみたい……! 何を勘違いしてたのよ、私……!)
「……はぁぁぁぁぁぁ。」
リディアは大きくため息をついた。
「どうした?」
「いいえ、なんでもないわ。で? なんですって?」
「だから、お前が魔力を込めた瞬間、水の透明度が変わってるんだよ。まるで光の屈折率が変わってるみたいに。」
迅は水面を指差しながら、興奮した様子で説明する。
その様子はまるで、新しい発見をした科学者そのものだった。
「つまり、水は魔力を媒介すると性質が変化するってことだな。これって、魔法発動時のエネルギー伝達の仕組みを考える上で、めちゃくちゃ重要なヒントになるかもしれねぇ。」
「そ、そうね……」
リディアはまだ赤みの残る顔で相槌を打つが、心の中では別の問題が浮かび上がっていた。
(なんなの、この人……! さっきまであんなに真剣な顔して手を握ってたくせに……! まったく意識してないってこと!?)
いや、もしかすると。
(私のことなんか、女として見てないってこと!?)
「……っ!」
なぜか急にモヤモヤしたものが込み上げてきて、リディアは水面をバシャバシャと叩いた。
「ちょ、どうした!?」
「なんでもないわ!!」
リディアはぷいっとそっぽを向き、バシャバシャと水を蹴りながら陸に上がろうとした。
その時——
「………………ん?」
——ようやく、迅《じん》は”ある事実”に気がついた。
(……リディア、肌着じゃねぇか。)
目の前のリディアは、シャツのような薄手の下着一枚を濡らしながらこちらを睨んでいる。
透けているわけではないが、肩や鎖骨のラインがはっきりと浮かび上がっており、何とも言えない色気があった。
(……あっぶねぇぇぇぇぇ!! 俺、今まで普通に話してたけど、これヤバい状況じゃねぇか!?)
「——す、すまん!!!」
バッと後ろを向く迅。
「え?」
リディアは一瞬きょとんとしたが、迅が顔を真っ赤にして視線を逸らしていることに気づき、自分の格好を見下ろす。
「……っ!?!?!?!?!?」
「いや!! 本当にすまん!! いや、違うんだ! 俺は科学的な興味で——」
「言い訳しないでいいわよ!!!」
「俺はお前を覗こうとかそういう意図はマジでなかったんだ!!」
「言い訳しないでって言ってるでしょ!!!!」
リディアの顔も真っ赤だ。
迅は思わず土下座する勢いで頭を下げた。
「だから本当にすまん!! ……ていうか、そもそも俺をここに落としたのリスだからな!? 俺のせいじゃねぇぞ!!」
「そんなの関係ない!!」
「関係なくねぇだろ!!」
「見たことに変わりはないでしょ!!」
「正直に言う! 気づくまで普通に話してた!!」
「それが一番失礼!!!!!」
「ですよねぇぇぇぇぇぇ!!!!」
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こうして、二人のとんでもない騒動は続くのだった——。
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