科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一

文字の大きさ
24 / 151

第24話 「並列処理《マルチタスク》」

しおりを挟む
王宮の訓練場。

ここ最近、研究室ではなく、この場所が召喚勇者・九条迅くじょうじんの“研究フィールド”になりつつあった。

それもそのはず——彼は今、単なる研究ではなく、実践的な魔力運用の最適化に取り組んでいた。

今日も訓練場の一角で、九条迅は真剣な表情で、何やら考え込んでいる。しかし、その両手はせわしなく動き続けている。

そのすぐそばでは、リディアとロドリゲスが興味深そうに彼を見つめていた。


「……えーっと、今の状況を整理すると、」


ロドリゲスが指を折りながら言う。


「勇者殿は、魔力循環トレーニングをしながら、同時に魔法理論の研究をしながら、同時に新たな魔力制御の試行錯誤をしながら、さらに新しい魔法の詠唱短縮の実験までしておる、ということじゃな?」

「……ええ、つまりそういうことね。」

リディアが呆れたようにため息をつく。


目の前の迅は、呼吸を整えながら魔力を体内で巡らせつつ、片手でメモを取りながら、もう片手で呪文の詠唱パターンを素早く指でなぞっている。

その間、目は魔道書を追い、口元は小さく数式を呟きながら思考を巡らせていた。

まるで人間のやることとは思えない。
むしろこれは「一つの肉体に集約された複数の人間が、同時に別々の作業をこなしている」 そんな異様な光景だった。


「……ねぇ、迅?」

リディアが恐る恐る声をかける。

「ん? なんだ?」

迅はメモを書きながら片手間に答える。

「一つ聞いてもいいかしら?」

「おう、何でも聞けよ。」

「今、何してるの?」

「んー、そうだな……」

迅は一度メモから顔を上げると、淡々と答えた。

「まず、魔力循環トレーニングを継続しながら、魔法を詠唱する際の魔力の流れを分析してるだろ?」

「う、うん……」

「で、さっきのデータを元に、より効率的な詠唱短縮のパターンをいくつか考案して、それを魔法の発動形式の変化に応用できるか試してるんだよ。」

「……なるほど? いや、やっぱりなるほどじゃないわ!!」

リディアが思わず声を荒げる。

「普通そんなに色々なこと、同時にできるわけないでしょう!? それも全部、頭をフル回転させて処理しないといけない作業よ!?」

「うーん……?」

迅は不思議そうに首を傾げた。

「別に、誰だって飯食いながら本読んだりするだろ。それと同じだ。」

「……いや、絶対違う。」

リディアの表情が引きつる。

「そうじゃなくて! あなたは今、“魔力制御の訓練”と“魔法理論の解析”と“新技術の開発”を同時にやってるのよ!? そんなの普通、並列処理できるわけ——」

「できるけど?」

「……」

「……」

リディアとロドリゲスが無言で顔を見合わせた。
この男は、本気で自分の異常性に気付いていないらしい。

「……お主、もしかして今までそうやって生きてきたのか?」

ロドリゲスが信じられないような顔で尋ねる。

「ん? 当たり前だろ。だって、1日はたった24時間しかねぇんだぜ?」

迅は当然のように言ってのける。

「俺はガキの頃からこんな感じだったぞ? 飯食いながら読書するし、筋トレしながら論文読む。風呂入りながら数学の問題解くし、授業聞きながら他の科目の予習するしな。」

「……」

「……」

リディアとロドリゲスは、しばらくの間、何か言おうとしたが——言葉を失った。

(この男、真性の天才……いや、もはや異常だ……)

リディアが思わずため息をつく。

「ふぅ……まあ、いいわ。とりあえず、そんな怪物じみた才能があるなら、研究の効率は確かに上がるでしょうけど……」

「それだけじゃないぜ?」

迅がニヤリと笑う。

「この並列処理の力があれば、魔力操作の最適化もできるはずだ。」

「……つまり?」

「俺は今、魔力の流れを“二重”に操作してる。」

「なっ……!?」

リディアの目が大きく見開かれる。

「ほら、普通の魔法士ってさ、魔法を使う時は“一つの魔力の流れ”に集中するだろ?」

「……ええ、そうね。魔法の発動は、意識の焦点を一つに絞ることで安定するのだから。」

「でも俺は違う。」

迅が指を立てて、スッと円を描くように動かす。

「俺は、一方で魔力循環トレーニングを維持しながら、もう一方で詠唱のための魔力操作を並行して行うことができる。」

「……嘘でしょ。」

リディアが信じられないという顔をする。

「それ、普通なら“魔力の暴走”を引き起こすわ! 魔力を二重に動かそうとしたら、魔力の流れが暴走して制御不能にな——」

「まあ、普通はそうだろうな。」

迅はあっさりと頷く。

「でも、魔力の流れを制御する“意識”の方を最適化すれば、並列処理も可能になるんだよ。」

「……」

「要するに、俺は“右手で絵を描きながら、左手で違う文字を書く”みたいなことをしてるわけだ。」

「……そんなこと、人間にできるの?」

「できるけど?」

再び、絶句するリディアとロドリゲス。

(やっぱり、こいつは普通じゃない……)

リディアは改めて、目の前の男をまじまじと見つめた。

最初はただの“異世界人”かと思っていたが、この男は違う次元の生き物なのではないかとすら思えてきた。

そして——
この常識を破壊する男が、自分の“知的好奇心”をこれほどまでに刺激してくることに、リディアはまた気づいてしまった。

「……ふふっ。」

「ん? 何笑ってんだ?」

「いいえ。やっぱり、あなたといると飽きないなって思っただけよ。」

「そりゃあ良かった。」

迅がニヤリと笑う。

だが、その裏でリディアは思っていた。

(……なんだろう、この感覚。)

(この人と一緒にいると、私の世界がどんどん広がっていく……)

その胸の高鳴りの正体に、彼女はまだ気付いていなかった——。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する

うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。 そして、ショック死してしまう。 その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。 屋敷を逃げ出すのであった――。 ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。 スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム) 目を覚ますとそこは石畳の町だった 異世界の中世ヨーロッパの街並み 僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた 案の定この世界はステータスのある世界 村スキルというもの以外は平凡なステータス 終わったと思ったら村スキルがスタートする

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

処理中です...