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第30話 それぞれの思い、そしてこれから
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「……な、何だったんだ……今の……」
アーク・ゲオルグが去った後、王宮の廊下に沈黙が訪れていた。
その異常事態に気づきながらも、一部始終を物陰から見守るしか出来なかった3人の王宮魔法士たちは、まるで凍りついた時間が再び動き出すように、ようやく息をつき始める。
「なあ、今の……魔王軍のやつ、だよな?」
低くうなるような声で呟いたのは、王宮魔法士のガルツだった。彼は屈強な体つきをした魔法士であり、戦闘向きの魔法を得意としている。
先日の模擬戦で、迅の"雷槌(サンダー・ボルト)"を食らった一人でもあった。
「……信じられねぇ。堂々と乗り込んでくるとか……」
その隣では、長身の魔法士エドガーが顔をしかめていた。彼は情報分析を得意とするタイプであり、戦闘よりも戦略を考えるのが得意な魔法士だ。
にも関わらず、先日の模擬戦では迅の雷撃を前に、まともに戦略を立てる暇もなくやられてしまった。
「俺たち、何もできなかった……」
ため息をついたのは、ビネット。
この3人の中では最も魔法の制御が上手いと言われているが、それでも迅にあっさり負けた経験がある。
3人とも、一度勇者・九条迅と戦った経験があるがゆえに、彼の異常さを理解しつつあった。
そんな彼らにとって、先ほどのアーク・ゲオルグの存在は、迅と似た異質な“何か”を持っているように思えた。
「……なぁ、ガルツ。」
「なんだよ。」
「今の……魔王軍のやつ、勇者殿と同じ匂いがしなかったか?」
「……ッ!」
その言葉に、ガルツとビネットは顔を上げる。
「……言われてみれば、確かに……」
迅とアークは対極にあるようで、何かが似ていた。
冷静な態度、論理的な思考、普通の魔法士とは違う知識の使い方——彼らは、同じ“異端”の存在だった。
「……何にせよ、俺たちじゃどうしようもなかったってことは確かだ。」
ガルツが苦々しげに呟く。
王宮の魔法士たちは、これまで魔王軍と戦ってきた。しかし、アークのような“理性的な魔王軍”を相手にした経験はない。
ましてや、堂々と単独で王宮に乗り込んできた魔族など、これまでにいなかったのだ。
「……勇者殿とリディア様がいなかったら、俺たち、本当に何もできなかったかもしれねぇな……」
「……ああ。」
ガルツ、ビネット、エドガーは、初めて本気で認めざるを得なかった。
——自分たちは、まだ何も知らない。
迅とアークのような“異端”に追いつくには、もっと知るべきことがある。
一方、迅とリディアは、二人並んで王宮の中庭に出ていた。
ほんの少し、夜風が涼しい。
アークが去ってから、リディアは何度も息を整えようとしていた。しかし、どうしても心が落ち着かない。
(……私、怖かった……)
リディアは震える手を見つめる。
自分は強い魔法士だと自負していた。王国で最年少で宮廷魔法士になり、数々の戦場をくぐり抜けてきた。
——それでも、アークの魔力は異常だった。
彼が何を考えているのか、何を目的にしているのかは分からない。だが、一つだけ確かなことがあった。
——あの男は、迅と似ている。
似ているからこそ、余計に怖かった。
迅と同じように理知的で、迅と同じように研究者気質。そして、迅と同じように、自分の魔力に興味を持っていた——。
(でも、迅は……)
ふと、先ほどのことを思い出す。
——アークの手を掴んで、私を守ってくれた。
「…………」
リディアは、ちらりと隣を見る。
迅は、何事もなかったかのように腕を組み、空を見上げていた。彼にとっては、きっと大したことではなかったのだろう。
(……いや、そんなことない。)
確かに、彼は飄々としている。
でも、彼がここまで積極的に誰かのために動くのを見たのは、初めてだったかもしれない。
「……あの。」
「ん?」
リディアは、思わず言葉に詰まった。
(な、何を言おうとしてるの……!?)
彼がこちらを向くと、急に顔が熱くなる。
(ダメダメダメ! 別に、大したことじゃないでしょ! ただ……ただ……)
「……あ、ありがと……」
「……ん?」
「……その、さっき、アークが手を伸ばしてきた時……」
「……ああ。」
迅は、ニッと笑い軽く頷いた。
「気にすんな。仲間だろ、俺ら」
「…………っ」
(そういうことを……さらっと言うの、ずるい!)
顔がさらに熱くなりそうだったので、リディアはぷいっと顔をそむけた。
「そ、そうよ! 仲間なんだから、当然よね! 別に深い意味はないわよね!」
「……いや、なんでお前がキレ気味なのよ?」
「うるさいわね! もういいの! 私は魔法の研究に戻るから!」
リディアは早口でそう言い、足早に去っていく。
迅は、そんな彼女の背中を眺めながら、小さく肩をすくめた。
「えぇ……何キレてんの……?」
まぁ、リディアのことだ。そのうちまた、魔法のことで飛びついてくるに違いない。
彼女が去った後、再び空を見上げた。
アーク・ゲオルグ——。
「……俺たちが戦う事になる相手は、ああいうタイプかもしれねぇな。」
科学と魔法の融合。
魔法士たちが持つ、従来の魔法体系とは異なる“理論”の戦い。
(どっちが先に、新しい答えを出せるか——って話だな。)
そんなことを考えていると、風が吹いた。
迅の心は、戦いよりも、研究に向かっていた。
アーク・ゲオルグが去った後、王宮の廊下に沈黙が訪れていた。
その異常事態に気づきながらも、一部始終を物陰から見守るしか出来なかった3人の王宮魔法士たちは、まるで凍りついた時間が再び動き出すように、ようやく息をつき始める。
「なあ、今の……魔王軍のやつ、だよな?」
低くうなるような声で呟いたのは、王宮魔法士のガルツだった。彼は屈強な体つきをした魔法士であり、戦闘向きの魔法を得意としている。
先日の模擬戦で、迅の"雷槌(サンダー・ボルト)"を食らった一人でもあった。
「……信じられねぇ。堂々と乗り込んでくるとか……」
その隣では、長身の魔法士エドガーが顔をしかめていた。彼は情報分析を得意とするタイプであり、戦闘よりも戦略を考えるのが得意な魔法士だ。
にも関わらず、先日の模擬戦では迅の雷撃を前に、まともに戦略を立てる暇もなくやられてしまった。
「俺たち、何もできなかった……」
ため息をついたのは、ビネット。
この3人の中では最も魔法の制御が上手いと言われているが、それでも迅にあっさり負けた経験がある。
3人とも、一度勇者・九条迅と戦った経験があるがゆえに、彼の異常さを理解しつつあった。
そんな彼らにとって、先ほどのアーク・ゲオルグの存在は、迅と似た異質な“何か”を持っているように思えた。
「……なぁ、ガルツ。」
「なんだよ。」
「今の……魔王軍のやつ、勇者殿と同じ匂いがしなかったか?」
「……ッ!」
その言葉に、ガルツとビネットは顔を上げる。
「……言われてみれば、確かに……」
迅とアークは対極にあるようで、何かが似ていた。
冷静な態度、論理的な思考、普通の魔法士とは違う知識の使い方——彼らは、同じ“異端”の存在だった。
「……何にせよ、俺たちじゃどうしようもなかったってことは確かだ。」
ガルツが苦々しげに呟く。
王宮の魔法士たちは、これまで魔王軍と戦ってきた。しかし、アークのような“理性的な魔王軍”を相手にした経験はない。
ましてや、堂々と単独で王宮に乗り込んできた魔族など、これまでにいなかったのだ。
「……勇者殿とリディア様がいなかったら、俺たち、本当に何もできなかったかもしれねぇな……」
「……ああ。」
ガルツ、ビネット、エドガーは、初めて本気で認めざるを得なかった。
——自分たちは、まだ何も知らない。
迅とアークのような“異端”に追いつくには、もっと知るべきことがある。
一方、迅とリディアは、二人並んで王宮の中庭に出ていた。
ほんの少し、夜風が涼しい。
アークが去ってから、リディアは何度も息を整えようとしていた。しかし、どうしても心が落ち着かない。
(……私、怖かった……)
リディアは震える手を見つめる。
自分は強い魔法士だと自負していた。王国で最年少で宮廷魔法士になり、数々の戦場をくぐり抜けてきた。
——それでも、アークの魔力は異常だった。
彼が何を考えているのか、何を目的にしているのかは分からない。だが、一つだけ確かなことがあった。
——あの男は、迅と似ている。
似ているからこそ、余計に怖かった。
迅と同じように理知的で、迅と同じように研究者気質。そして、迅と同じように、自分の魔力に興味を持っていた——。
(でも、迅は……)
ふと、先ほどのことを思い出す。
——アークの手を掴んで、私を守ってくれた。
「…………」
リディアは、ちらりと隣を見る。
迅は、何事もなかったかのように腕を組み、空を見上げていた。彼にとっては、きっと大したことではなかったのだろう。
(……いや、そんなことない。)
確かに、彼は飄々としている。
でも、彼がここまで積極的に誰かのために動くのを見たのは、初めてだったかもしれない。
「……あの。」
「ん?」
リディアは、思わず言葉に詰まった。
(な、何を言おうとしてるの……!?)
彼がこちらを向くと、急に顔が熱くなる。
(ダメダメダメ! 別に、大したことじゃないでしょ! ただ……ただ……)
「……あ、ありがと……」
「……ん?」
「……その、さっき、アークが手を伸ばしてきた時……」
「……ああ。」
迅は、ニッと笑い軽く頷いた。
「気にすんな。仲間だろ、俺ら」
「…………っ」
(そういうことを……さらっと言うの、ずるい!)
顔がさらに熱くなりそうだったので、リディアはぷいっと顔をそむけた。
「そ、そうよ! 仲間なんだから、当然よね! 別に深い意味はないわよね!」
「……いや、なんでお前がキレ気味なのよ?」
「うるさいわね! もういいの! 私は魔法の研究に戻るから!」
リディアは早口でそう言い、足早に去っていく。
迅は、そんな彼女の背中を眺めながら、小さく肩をすくめた。
「えぇ……何キレてんの……?」
まぁ、リディアのことだ。そのうちまた、魔法のことで飛びついてくるに違いない。
彼女が去った後、再び空を見上げた。
アーク・ゲオルグ——。
「……俺たちが戦う事になる相手は、ああいうタイプかもしれねぇな。」
科学と魔法の融合。
魔法士たちが持つ、従来の魔法体系とは異なる“理論”の戦い。
(どっちが先に、新しい答えを出せるか——って話だな。)
そんなことを考えていると、風が吹いた。
迅の心は、戦いよりも、研究に向かっていた。
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