科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一

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第32話 監視する影、揺らぐ心

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夜の王宮。

月明かりに照らされた回廊を、ひとつの影が音もなく滑るように進んでいた。

それは、漆黒のフクロウ——アーク・ゲオルグの使い魔だった。

静寂の中、鋭い黄金の瞳が瞬く。
その視線の先には、一つの部屋の窓。

王宮の研究室。

窓越しに見えるのは、ランプの灯りに照らされながら何やらノートにペンを走らせている黒髪の青年——九条迅だった。

「……やはり、興味深い。」

フクロウを通じてその様子を観察していたアークは、微かに口角を上げる。

王宮から戻った後、彼はすぐにこの使い魔を放ち、迅とリディアの動向を探っていたのだ。

「彼の思考速度、論理的な推測力、学習の速さ……やはり、ただの“召喚勇者”ではない。実に面白い。」

フクロウの目が一瞬鋭く細められる。
次の瞬間——まるで影が溶けるように、使い魔の姿は闇の中へと消えていった。

その夜、王宮の誰もが知らないうちに、魔王軍の知将は確かに「勇者の研究」を始めていた。


────────────────────


王宮の研究室。

深夜にも関わらず、そこには明かりが灯っていた。

「……やっぱり、あのアークってやつ、どう考えても普通の魔族じゃねぇな。」

ノートをめくりながら、迅がぼそりと呟く。

机の向かいには、腕を組んで座るリディア。
彼女は考え込むように口を引き結び、眉をひそめていた。

「……あなたもそう思う?」

「まぁな。魔族って言っても、あいつの話し方とか、考え方が他のやつと違いすぎる。少なくとも俺の知る魔族の情報とはかけ離れてる。」

迅はペンを回しながら、ふとリディアを見る。

「お前の魔力のことを、アークが気にしてたのも気になるな。」

「……っ」

リディアの肩が微かに揺れる。

アークがリディアを興味深そうに見つめていたこと。
そして、「その魔力の流れ——普通の人間とは違うようですね」 と言い放ったこと。

あの言葉が、どうしても頭から離れない。

「……私は、普通の魔法士よ。」

リディアはそう言いながら、そっと拳を握りしめた。

だが、迅はじっと彼女を見つめる。
その目は、まるで彼女の心を見透かすような、そんな静かな鋭さを帯びていた。

「……お前、何か隠してることがあるなら、言ってくれよ。」

「……!!」

リディアは一瞬、息を呑む。

でも、言えない。

今は——まだ。

「……何もないわ。」

リディアは視線を逸らし、椅子から立ち上がる。

「もう夜遅いわ。明日に備えて休みましょう。」

迅はしばらく彼女を見つめていたが、ふっと息を吐き、肩をすくめる。

「……まぁ、無理に聞き出すつもりはねぇよ。でも、もし何かあったら言えよ?」

リディアは小さく頷き、部屋を出て行った。

静かになった研究室。

迅はしばらく彼女が去ったドアを見つめたあと、ふっとノートを閉じた。

「……普通の魔法士、ねぇ。」

独り言のように呟き、彼は再びペンを取り、思考を再開する。

その窓の外では——
闇の中に、黄金の瞳がひっそりと輝いていた。
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