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第42話 リディアの夢と、迅の決意
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王宮の研究室に、夜の静寂が満ちていた。
窓から差し込む月明かりが、机の上に積み上げられた魔術書と迅のノートをぼんやりと照らしている。
さっきまで興奮していた研究の熱が、次第に落ち着きを見せ、穏やかな空気が流れていた。
リディアは椅子の背にもたれかかり、ふぅ、と息をついた。
「なんだか……夢みたいね」
「ん?」
「魔力が波動性を持っているなんて……そんな発見をする日が来るなんて、思ってもみなかったわ」
彼女は微笑みながら、手元に残った魔法の光をそっと握る。
「でも……」
言葉が、ふっと途切れた。
迅はそんなリディアの横顔を見ながら、机に肘をついたまま静かに問いかける。
「どうした?」
「……ねえ、迅」
リディアはまっすぐに彼を見た。
「私、ずっと考えてたことがあるの」
「……ほう」
珍しく真剣な表情のリディアに、迅は姿勢を正した。
彼女はゆっくりと、けれど確かに言葉を紡いでいく。
「私は……魔法の本質を知りたいの」
迅はその言葉を噛みしめるように、じっと耳を傾けた。
「この世界では、魔法は生まれ持った才能で決まるものだって、ずっと言われてきたわ。でも、あなたを見ていて思ったの。魔法って、本当にそういうものなのかしら?」
リディアは自分の胸に手を当てる。
「たしかに、私は優れた魔力を持って生まれた。でも、それはただの偶然よ。もし私が、魔法の才能を持たずに生まれていたら?」
「……」
「私は……きっと、何もできない存在として、見下されていたでしょうね」
その言葉には、少しの苦さが滲んでいた。
この世界では、魔力を持つ者が強く、持たざる者が弱い。
それはこの国だけでなく、世界の常識のように根付いている。
「だから、私は知りたいの」
リディアはまっすぐに迅を見つめた。
紫紺の瞳が、月光を受けて揺れている。
「魔法は、生まれ持ったものじゃなくて、学び、習得し得るものなのかどうか……」
「……なるほどな」
迅は腕を組みながら、ゆっくりと頷いた。
リディアの夢——それは、魔法の本質を解き明かし、誰もが平等に魔法を扱える可能性を探ること。
もしそれが実現すれば、この世界は変わる。
生まれ持った才能の差で人生が決まることはなくなり、すべての人が同じスタートラインに立つことができる。
——まるで、科学の発展と同じだ。
「……お前、ずっとそんなこと考えてたのか?」
迅がぽつりと呟くと、リディアは小さく頷いた。
「ええ。でも、どうしようもないことだと思ってた。魔力の上限は生まれつき決まっている、魔法は神が定めたもの……この世界の常識が、私をずっと縛っていた」
彼女の指が、ぎゅっと机の端を握る。
「でも——」
リディアはふっと微笑んだ。
「あなたが来てくれて、私は初めて希望を持てたの」
「……俺?」
「そうよ」
彼女はまっすぐに迅を見つめる。
「だって、あなたはこの世界の誰も考えなかった方法で、魔法を研究し続けている。あなたのやり方を見ていると、魔法は“才能”じゃなくて、“理論”なのかもしれないって思えてくるの」
「……理論、ねぇ」
迅は少し考え込んだ。
「お前、魔法を数学みたいなものだと思ってるのか?」
「ええ」
リディアははっきりと頷いた。
「魔法は“神秘”であるべきものだって言う人は多いわ。でも、あなたと研究していて、私はそうは思えなくなったの」
彼女は手を広げ、ふわりと魔力を展開する。
「魔力の流れ、密度、波動性……これらをきちんと理解できれば、誰もが自在に魔法を扱える日が来るかもしれない」
「つまり、お前は……」
迅は椅子にもたれかかりながら、じっとリディアを見つめた。
「魔力を持たない人間でも、魔法を使えるようにしたいってことか?」
リディアは、一瞬だけ躊躇した。
しかし——
「……ええ」
彼女は力強く頷いた。
「もしそれが叶えば、生まれつき魔力を持たない人でも、対等に生きられる世界になると思うの」
その言葉に、迅はしばらく何も言わなかった。
(こいつ……とんでもなく壮大なこと考えてやがるな)
魔力を持たない人間でも、魔法を使えるようにする。
もしそれが実現すれば、この世界のパワーバランスは根底から覆る。
そんなことは、迅にとってもまだ実現の目処が立たない、遥か遠くの未来の話だ。
だが——
「面白ぇじゃねぇか」
迅は、にっと笑った。
「え?」
リディアが驚いた顔をする。
「魔法の本質を暴いて、誰もが魔法を使えるようにする……そんなの、最高にワクワクする研究じゃねぇか」
「……っ!」
リディアの瞳が、大きく揺れた。
「俺は科学者だからな。未知を解き明かすことにワクワクしないわけがねぇ」
「迅……」
「まあ、まだまだ道のりは長そうだけどな。でもまぁ、俺たちならいけるんじゃねぇか?」
迅はリディアに向かって手を差し出した。
「お前の夢、手伝ってやるよ」
「……!」
リディアは、一瞬だけ躊躇った。
しかし、次の瞬間——
「……ありがとう」
彼女はそっと、その手を握り返した。
そして、二人の間に——新たな決意が生まれた。
夜は更けていく。
しかし、その夜の静寂の中で、新たな“科学魔法”の未来が確かに芽吹いていた——。
窓から差し込む月明かりが、机の上に積み上げられた魔術書と迅のノートをぼんやりと照らしている。
さっきまで興奮していた研究の熱が、次第に落ち着きを見せ、穏やかな空気が流れていた。
リディアは椅子の背にもたれかかり、ふぅ、と息をついた。
「なんだか……夢みたいね」
「ん?」
「魔力が波動性を持っているなんて……そんな発見をする日が来るなんて、思ってもみなかったわ」
彼女は微笑みながら、手元に残った魔法の光をそっと握る。
「でも……」
言葉が、ふっと途切れた。
迅はそんなリディアの横顔を見ながら、机に肘をついたまま静かに問いかける。
「どうした?」
「……ねえ、迅」
リディアはまっすぐに彼を見た。
「私、ずっと考えてたことがあるの」
「……ほう」
珍しく真剣な表情のリディアに、迅は姿勢を正した。
彼女はゆっくりと、けれど確かに言葉を紡いでいく。
「私は……魔法の本質を知りたいの」
迅はその言葉を噛みしめるように、じっと耳を傾けた。
「この世界では、魔法は生まれ持った才能で決まるものだって、ずっと言われてきたわ。でも、あなたを見ていて思ったの。魔法って、本当にそういうものなのかしら?」
リディアは自分の胸に手を当てる。
「たしかに、私は優れた魔力を持って生まれた。でも、それはただの偶然よ。もし私が、魔法の才能を持たずに生まれていたら?」
「……」
「私は……きっと、何もできない存在として、見下されていたでしょうね」
その言葉には、少しの苦さが滲んでいた。
この世界では、魔力を持つ者が強く、持たざる者が弱い。
それはこの国だけでなく、世界の常識のように根付いている。
「だから、私は知りたいの」
リディアはまっすぐに迅を見つめた。
紫紺の瞳が、月光を受けて揺れている。
「魔法は、生まれ持ったものじゃなくて、学び、習得し得るものなのかどうか……」
「……なるほどな」
迅は腕を組みながら、ゆっくりと頷いた。
リディアの夢——それは、魔法の本質を解き明かし、誰もが平等に魔法を扱える可能性を探ること。
もしそれが実現すれば、この世界は変わる。
生まれ持った才能の差で人生が決まることはなくなり、すべての人が同じスタートラインに立つことができる。
——まるで、科学の発展と同じだ。
「……お前、ずっとそんなこと考えてたのか?」
迅がぽつりと呟くと、リディアは小さく頷いた。
「ええ。でも、どうしようもないことだと思ってた。魔力の上限は生まれつき決まっている、魔法は神が定めたもの……この世界の常識が、私をずっと縛っていた」
彼女の指が、ぎゅっと机の端を握る。
「でも——」
リディアはふっと微笑んだ。
「あなたが来てくれて、私は初めて希望を持てたの」
「……俺?」
「そうよ」
彼女はまっすぐに迅を見つめる。
「だって、あなたはこの世界の誰も考えなかった方法で、魔法を研究し続けている。あなたのやり方を見ていると、魔法は“才能”じゃなくて、“理論”なのかもしれないって思えてくるの」
「……理論、ねぇ」
迅は少し考え込んだ。
「お前、魔法を数学みたいなものだと思ってるのか?」
「ええ」
リディアははっきりと頷いた。
「魔法は“神秘”であるべきものだって言う人は多いわ。でも、あなたと研究していて、私はそうは思えなくなったの」
彼女は手を広げ、ふわりと魔力を展開する。
「魔力の流れ、密度、波動性……これらをきちんと理解できれば、誰もが自在に魔法を扱える日が来るかもしれない」
「つまり、お前は……」
迅は椅子にもたれかかりながら、じっとリディアを見つめた。
「魔力を持たない人間でも、魔法を使えるようにしたいってことか?」
リディアは、一瞬だけ躊躇した。
しかし——
「……ええ」
彼女は力強く頷いた。
「もしそれが叶えば、生まれつき魔力を持たない人でも、対等に生きられる世界になると思うの」
その言葉に、迅はしばらく何も言わなかった。
(こいつ……とんでもなく壮大なこと考えてやがるな)
魔力を持たない人間でも、魔法を使えるようにする。
もしそれが実現すれば、この世界のパワーバランスは根底から覆る。
そんなことは、迅にとってもまだ実現の目処が立たない、遥か遠くの未来の話だ。
だが——
「面白ぇじゃねぇか」
迅は、にっと笑った。
「え?」
リディアが驚いた顔をする。
「魔法の本質を暴いて、誰もが魔法を使えるようにする……そんなの、最高にワクワクする研究じゃねぇか」
「……っ!」
リディアの瞳が、大きく揺れた。
「俺は科学者だからな。未知を解き明かすことにワクワクしないわけがねぇ」
「迅……」
「まあ、まだまだ道のりは長そうだけどな。でもまぁ、俺たちならいけるんじゃねぇか?」
迅はリディアに向かって手を差し出した。
「お前の夢、手伝ってやるよ」
「……!」
リディアは、一瞬だけ躊躇った。
しかし、次の瞬間——
「……ありがとう」
彼女はそっと、その手を握り返した。
そして、二人の間に——新たな決意が生まれた。
夜は更けていく。
しかし、その夜の静寂の中で、新たな“科学魔法”の未来が確かに芽吹いていた——。
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